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1-55 王国の悲願

「今日もいい天気ね~」

 相変わらず繕い物をしながらエニスは手を休めずにいた。


 なんでも予備の網の修繕は済んだらしいのだが、ウミウシ糸で強化されたボロ網は見違えるようにいい網になったらしくって、どうせなら今使っている奴もウミウシ網にしてほしいと。


 一応はこの仕事をしてあげるとエニスの家が色々と優遇してもらえるそうなので、それならと現金なエニスが請け負ったのだ。アンデも一緒に頑張るようだ。


「しかし、まさかウミウシが2体に増えるとは。最初は分裂したのかと思ったぜ」

「ふふ。分裂したのではなく、合体するために一緒にいるのです~」


「もう、ブルーったら!」

 エニスがやや頬を染めつつ、手は休めない。俺達も、ルーのウミウシ糸作成の練習も兼ねて手伝った。


「ルーも網ほぐしが上手になったわねえ。ブルードラゴンって、みんな器用なのね~」

「まさか、こんな事を習得する事になろうとは。でも綾取りみたいで面白いな。綾取り?」


 元は女の子だからそう思うのか。俺はサッカーゴールのネットやテニスのネットを思い出したんだよなあ。


「なんか、時々ブルーと会話してるような錯覚を覚えるんだけど」

「ほっといて。同じ種族なんだから仕方が無いわよ~」

 そう言いつつも、息ピッタリな感じで、かなり絡まった網をほぐしていく2人。


「ルーの糸の品質も、だいぶ上がってきたんじゃない? はっきり言って網にはもったいないくらいよ」

「そうか~。そりゃあいい具合だねー」

 ルーの鰭は俺よりも細いので、こういう仕事には向いているかもしれない。


 すると、また馬車がやってきた。今度は王子様だな。またトカゲ魔物が何か荷物を引いているようだが。


「また王子様だ」

「へえ、今日は何の用かな」


 そんな俺達の会話にはお構い無しに、間もなく馬車は到着した。王子様ったら、開口一番。

「おかしいな。ウミウシが二つに見える。さすがに休養が必要かもしれぬ」


「殿下、大丈夫です。私にも2体に見えます。片方は少し小さいんじゃないかと」

 お、商人さんは冴えてますね~。


「な、なんだ。そうだったのか。お仲間が見つかったのか」

「もう交尾しまくりですよ~」

 王子様は自分の眉間を揉んでいた。


「頼むから、ウミウシの大増殖はやめてくれよ?」

「大丈夫。受精卵は魚も食いつきが違いますね!」


「そ、そうか」

 ちょっと複雑そうな顔をして王子様は黙った。


「いやいや、そんな話をしにきたわけじゃない。お前にもらった糸で、ついに王国の念願が叶ったのだ!」


 そして、王子様は大型馬車の荷物にかけてあった布を取り払った。あれは……もしかして。


「これはな……『空を飛ぶ機械?』 な、何故それを! いや、お前らはそういう物だったよな」


 でも動力がついていなそうだよな。強くて軽い木材を使っているのかな? 金属の使用は最小限か。主に俺の糸で縛り上げてあるのか。


「それで今日はなんでこっちに?」

「いや、動力の問題が解決していなくてな。お前に飛ばしてもらえないかと思って」

 ウミウシ動力のグライダー!


「面白そうだねえ。じゃあ、ルーと2人でキャッチボールならぬ、キャッチグライダーで」

「よろしく頼む」

 そう言って王子様は自ら乗り込んでいった。


「え! 王子様がテストパイロットなの? ちょっと無謀じゃない? 墜落するのが関の山なんじゃあ」


「何を言うか。我が国の技術に問題はない。いいからやってくれ」

「もう。どうなっても知らないからねえ」


「よっこいしょ」

 俺は王子様が乗り込んだ飛行機を担ぐと、投げた。


「おおっ、飛んだ! 飛んだぞ、ウミウシ~」

 王子様は珍しく、大はしゃぎだった。


「ルー!」

「はあい」


 ルーは高速であっという間に飛行機を追い越して、待ち構えた。だが、グライダーは上昇気流に乗って高く舞い上がってしまった。


「王子様~」

「あらー、行っちゃったね。ブルー、どうするの、あれ」

「どうするのって言われても追いかけるしかない」


 俺とルーは、慌てて王子様の乗った飛行機を追いかけた。後には呆然とした商人さんや、家来の人を残したまま。


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