1-53 待ちかねていたお相手
「きゃあ~、ブルーの他にもブルードラゴンがいたのね~」
「当たり前だよ、エニス。でないと絶滅しちゃうもの」
ラウが感心したように言った。
「いやあ、2体並ぶと凄いな。クラーケンと並んでも迫力だけど」
「壮観じゃのう」
「なんかブルードラゴンが群をなして泳ぐ姿を想像しちゃった」
「いやエニス。そこまでいったら共食いの世界だから」
「なんだとお! 食えるもんなら、食ってみやがれ!」
なんて口が悪い子なんだろう。この子って雰囲気からして、きっと「女の子」だな。あくまで生前、前世の話なんだけど。
「生憎と御飯には事欠いてないんだけど。あ、ちょっと毒魔物食べる?」
「うるせえ、お前の施しなんか受けねえよ!」
なんか荒れてる子だなあ。家庭に問題があったとか?
「そうですか、じゃあ」
俺がそのまま船を引いたまま、立ち去ろうとすると、ちょっと慌てた感じで寄ってくる。
「ま、待ちやがれ!」
「なあに? 今、船の試験航海の最中なのですが」
「う、い、いやその」
何か急に挙動不審になっている。
俺は知っている。この子は、仲間を求めて旅をしてきたのだ。まあ、なんだ。「お相手」を求めてかな。それでやっと仲間に出会えたのに、何か素直になれないらしい。変な船を引いているので警戒しているのかもしれない。
「じゃあ、ちょっと一緒に遊びにいかない?」
「どこへだよ!」
なんで、いちいち怒っているのかね。
「俺が作ったエニス島まで」
「エニス島?」
『彼女』は、ちょっと不思議そうな顔をする。人間にはよくわからないかもしれないが、俺にはわかる。ブルードラゴンは知性ある生き物だ。おそらくは、異世界の人間の魂を持っているからだろう。表情も結構豊かなのだ。
「まあ、一緒についておいでよ」
「し、仕方がねえな。いってやらあ、ありがたく思え」
何気に、この子も人間の言葉を喋っているし。
俺はゆったりと泳ぎながら、隣にいるお仲間を横目で観察していた。美しい。惚れ惚れするなあ。やはりブルードラゴンは誰しもを魅了する生き物なのだ。俺は密かにその子にルーという名前を与えた。多分、名前を持っていないはずだ。
やがてエニス島についたら、ルーはそれをしげしげと眺めていたが、少し首を捻っている。
「これの一体どこが楽しいの?」
うーん、確かに人間の食べるような魚しか住み着いていないしな。自分が上がりこめる大きさでもないし。あれ?
「ま、まあ。こうやって人間の友達を呼んできて、一緒に遊ぶのさあ」
「あんた、変なウミウシだなあ」
あ、ウミウシって言っている。
「ウミウシじゃなくて、ブルードラゴンですよー」
「え、何それ」
「人間は俺達みたいな生き物をブルードラゴンっていうんだよ。他にも呼び名はあるんだけどさ」
ルーはちょっと考えているんだけど、すぐに考えるのは諦めたようだ。脳の容量は俺と変わらないみたいだった。
「あんた、ブルーって呼ばれてたよね」
「うん、君の事をルーって呼んでもいい?」
「え?」
いきなり言われて驚いたようだったが、つぶやいていた。
「名前か。考えてたこともなかったなあ。須山ルミか」
あ、前世の名前を覚えてるんだ、凄いなあ。俺はどんな名前だったのかなあ。俺は忘れないように、紙を取り出して須山ルミと書いておいた。書いた事すら忘れそうだけど。
「じゃあ、ルミちゃんだからルーでもいいよね」
「ルミちゃんって、なんだ?」
うん、まるで鏡を見ているかのようだ。お互いに痴呆症のような夫婦みたいだ。
「ねえ、俺と番にならない?」
「なんで、あたいがお前なんかと」
「そっか、じゃあ別にいいです」
「え?」
ルーはちょっと慌てたようだった。この子は、きっとツンデレ。ツンデレ?
「ブルーったら、本当に諦めがいいわねえ。そこは頑張って口説かないと。可愛い子と一緒に卵を産むんじゃなかったの?」
「そうでした!」
いつも思っていたりはするんだけど、すぐに忘れちゃうんだよね。
「けっ、あたいがなんでお前なんかと!」
この子って見た目は可愛いんだけど、性格がちょっと。それじゃあ!
「ルー」
「なんじゃい!」
「プスーっ」
「お、お前、それはっ!」
俺は頭から突き出した針管をルーの頭に突き立てた。
「きゃあ、ブルーったら何をやっているのよ~」
エニスがビックリして叫んでいたが、俺はにっこりと笑った。
「エニス、大丈夫だよ。これは交尾の時に突き刺す、媚薬の注入管だよ。ウミウシの交尾には必需品だよ~」
「媚薬! 交尾! え、ブルー、まさか」
絶句するエニス。
「うおおお~、来た来た来たー!」
ルーが激しく叫んでいた。
「えいっ」
ルーの針管が伸びてきて、俺の頭に突き刺さって媚薬が注入されてきた。
「おおっ! 来た来た来たー!」
「「「……」」」
人間様が、全員言葉もなかったようだったが、俺達は非常に盛り上がっていた。ルーもこうして俺と盛り上がりたかったので、周辺をウロウロしていたのだ。俺はまったく気づいていなかったが。
俺達は互いに体の一部を伸ばして合わせるとくっついた。
「ブルー、あたい幸せらわ~」
だいぶラリっているみたいだった。眼が据わってる。かくいう俺もラリってますが。
「俺もよ~、ルー~」
もう交尾する事しか考えられない。ラウが熱心に観察しているようだった。エニスは向こうを向いてしまっていたが。
爺さんは目を丸くして見つめていた。
「こ、こりゃあまたなんとも壮絶な」
まあ、ウミウシの交尾なんて大人しいもんですがね。ちょっと図体が大きいだけで。
「お、来た来た~」
「あたいも!」
そして、俺達は同時にもよおした。今までの単独発射とは全く違う猛烈な勢いでなされた産卵は、2体なのもあって凄まじい勢いで放出された。この殆どが受精卵なのだ。
「あ、食われてる、食われてる。姉ちゃん、受精卵は魚も食いつきが違うぜ~」
「えー、また豊作かなあ」
「そうかもしれんのう」
俺とルーはまだ媚薬の影響が残っているので、幸せ気分でホケっとしてました。
プスーっとしちゃうのは一部のウミウシだけなんですがね~。




