1-47 王女様をご招待
行きがけに俺はある練習をしていた。船をあまり揺らさない高速走行だ。船を高速で運航すると、むしろ船体は安定して揺れない。海水が当たって揺れる衝撃が来さえしなければ。水魔法と風魔法を駆使して、滑るような乗り心地を実現できる。急には止まれないけどね。
岩礁や障害物などは綺麗に探知して安全に航行し、全ての魔物や大型生物は、音響や魔法で蹴散らした。水上航行でも破格なスピードを安全に実現してみせたのだ。
アイリスちゃんと日帰りでお出掛けしたいなら必須のスキルだ。海中をずっと行くわけにはいかないし、水上を行けば船が壊れてしまう。
船に猛烈な力がかかってしまうと壊れてしまうので、負担を一切かけない走法を編み出したのだ。その代わり、船っぽい雰囲気があまり無いのが欠点かな。まるで水上を行く飛行機だ。
俺は意気揚々とハインリヒ王国へと辿り着いた。また、例の崖であの兄妹がいないか覗いたが、残念いなかった。
それからお城へ向かい、また例の笛を吹いてみた。
「ブルー、ブルー」
はっ、また例の如くにこっくりこっくりと船を漕いでいた俺を、お姫様が呼ぶ声がした。
「やあ、アイリスちゃん。遊びに来たよ~」
「ブルー、今日は何して遊ぶ~? いつでもブルーと遊べるように、お勉強とかは済ませてあるのよー」
アイリスちゃん、偉い。オデッサちゃんとは全然違う。アイリスちゃんは理知的なムードがあるんだよね。オデッサちゃんは最初からアホの子モードに突入していたし。
「じゃあ、今日はエニス島にご招待するよ。名前の由来のエニスは一緒に遊べないけど」
「へえ。素敵な名前だね。どうして遊べないの?」
「お仕事だから」
俺はあっさりと言った。
アイリスちゃんは残念そうだったが、エニスは随分お姉さんだしな。それにちょっとババく……
いや何でもないです。
「という訳で、本日は高速船で日帰りです~」
「しかし、もうかなり日が高いが大丈夫なのかいな」
お爺さん騎士は気にしているが、そこは安心させておくのがドラゴンの嗜みというもの。
「大丈夫だよ~。新しい推進方式を編み出したもの~」
「じゃあ行きましょうよ」
もうアイリスちゃんも遊ぶ気満々だ。まだ小さいのに、ずっと寝たっきりだったもんね。
俺は栄光のマリエール号を出して、さっそく準備をした。ウミウシ艀で船に乗せると、ぐんぐん加速していった。
「きゃあ、すごーい」
「これはまた凄い勢いだが、滑らかなもんじゃな」
今日はそんなに揺らしたりはしないので、乗り物酔いの薬はいらないはずだ。
「何じゃ、ここはわしの村ではないか」
途中で停車して、おじいさんに頼んでみた。
「前に会った兄妹の子を呼んで来てよ」
「そうじゃな。他の子がいたほうが姫様も楽しいじゃろう。あの子達なら、わしの顔見知りだし」
俺は鰭エレベーターでお爺さんを上に上げて待った。寝てしまわないようにアイリスちゃんとお話をしていたら、すぐにお爺さんが帰ってきた。
「おっす、ウミウシ。元気してたか~」
「お兄ちゃん、一応ブルーはブルードラゴンだよ」
おー、来た来た。エイミーは相変わらずよく気のつく子だ。
「久しぶり~。この前に覗いたけどいなかったから」
「俺達、いつもここにいるわけじゃないよ」
「ちなみに、こっちがお姫様のアイリスちゃん」
「うわあ、本当に姫様だ~」
「お姫様、綺麗ー」
「二人ともよろしくね~。名前はなんていうの?」
「俺、いや僕はトニー。こっちは妹のエイミー」
お姫様も年の近いお友達が来てくれたので嬉しそうだ。
「じゃあ、今から行くからね~」
「わあ、でっかい船だなあ」
トニーが眩しそうな顔をしてマリエール号を見る。
「昔の軍艦だよ!」
本来なら、こんな子供が乗せてもらえるような代物じゃないからなあ。
俺はまたみるみるうちに船を加速させていき、滑らかかつ高速で大海原を疾走していった。人間の船がいると面倒なんだが、それは予め察知して避けていく。そんなに数はいないんだ。地球だって、そうそうぶつかるものでもない。海は広いのさあ。地球?
道中は鐘楼にも登って眺めるなど、色々楽しんでもらった。船にはトイレもついているから安心だ。提督がしっかりと掃除しているから綺麗なもんだ。この国の偉い人は便所掃除も得意らしい。
ほどなくして大海原を渡り終え、こっちの大陸が見えてきた。
「もうすぐエニス島だよ~」
「あ、あれねー」
お姫様は目がいいようだ。お爺さん騎士は必死で目をこらしているが、無駄に終わったようだ。他の子達も、結構はしゃいでいる。目にいいヤツメウナギとかどっかにいないかな。あれもでかいのはまるで怪物みたいだけど。




