1-4 新しいお友達
そうやって俺は、鏡に体を映したり、エニスや村の子供達と遊んだりと、毎日楽しく暮していた。すると、また馬車が村にやってきた。今度の奴は、前のと違って素晴らしく立派なものだった。馬も4頭立てで、しかも2台もいる。
周りには、立派な鎧をつけた騎士みたいな人達が、馬に乗って付き従っていた。
「なんだか、偉い人が来ちゃったみたい。どうかしたのかなあ」
エニスが少し気にしている。
馬車は浜辺の近くまで来たが、いきなり扉が開いて中から人が飛び出してきた。身なりは大変立派だけれど、まだ子供だった。そして、やる事も子供のようだった。
「うおお。ブルードラゴンだ! 本物よ~。大臣に聞いた通りの姿だあ~」
なんか飛び跳ねながら、大興奮の御様子だ。
「姫様、近づいてはなりませぬぞ。アレは巨大な怪物にございます」
慌てて、少しお爺さんっぽい御付きの人が止めた。
「だって、爺や。あれはブルードラゴンじゃぞ。伝説の生き物なのじゃあ。大きいなあ。それに、とっても綺麗じゃ」
おー、なんかハイテンションだけど、姫様? この国のお姫様かな。
エニスが、網の手入れをしながらポカンとしている。
「ねえ、君はお姫様なの~?」
「うお、本当にウミウシが喋りおった」
爺やさんが、魂消ているようだ。
「一応、ドラゴンですよー」
もう毎回これだな。まあいいや。ウミウシなのも紛れもない事実なんだし。快く許そうじゃないか。ウミウシの心は、海よりもでっかいのさー。
「妾は、この王国の第1王女でオデッサじゃ。伝説のブルードラゴンに会いたくて、はるばる都よりやってきたのじゃ。どうだ、お前妾の家来にならんか?」
「うーん、面白そうだけど、その都ってどこにあるの? 俺って海から出られないんですけど。体が乾いちゃうからね。ウミウシなもんだから」
「ううっ、そうじゃった!」
うーん、割とアホの子だな。でも悪い子じゃなさそうだ。
「じゃあさ、家来とかじゃなくて、お友達にならない?」
「本当かー!」
小躍りする姫君。まだ6歳か7歳くらいの歳だろうか。
「俺はブルー。よろしくねー」
爺やさんは、やれやれといった感じで、肩を竦めて両手を挙げて笑っている。他の騎士さん達も、みんな素敵な笑顔だ。
姫様はといえば、もうご満悦で鼻歌などを歌っている。
姫は、金髪で綺麗な明るい紫の目をした、とても可愛い感じの女の子だ。きっと将来は、色んな国の王子様とかが奪い合うようになるはずだ。その頃にはアホの子なのは治るだろうかと、少しいらん心配をしてみた。
新しいお友達ができたようなので、俺は踊った。浅瀬で立ち上がり、思いっきり踊った。村の子供達も集まって踊り出した。姫様も踊りだした。
爺やさんや、騎士さん達も踊り出した。まだ子供である姫様の御守りをしているので、こういうノリでやっているのだろう。みんな、いい人ばっかりだな。
俺は「ちょっと待ってて」と言い置くと、さっと沖まで出て、急いで色々な海産物を仕入れてきた。魚や貝に海老や蟹など盛り沢山だ。もちろん、獲るのに毒なんて使わない。
「ほお、これは立派な海産物じゃな」
爺やさんも感心した。冷蔵輸送技術が無いから、海から遠いと運べないのか。冷蔵?
「お前達、せっかくの心尽くしじゃ。早速調理をいたせ。村の衆にも振る舞ってやろう」
爺やさんは、騎士達に命じて仕度をさせた。専属の料理人さんが一緒に来ているので、素敵な料理を作るつもりなのだろう。
「そうそう、オデッサちゃん。これ御土産~。割と珍しい貝殻だよー。綺麗でしょー」
「おお、ブルー、ありがとうなのじゃ」
姫様は、とても嬉しそうに貝殻を受け取って、眺め回した。
「ブルーって手先、いや鰭先なのかな? とっても器用だよね。大体、物はどこにしまっているの?」
「うん。鰭の間にも隠しておけるんだけど、空間魔法で収納してるよ」
「ええっ魔法~?」
「一応、ドラゴンですから」
ここは、ちょっとアピールしていいとこのはず!
「凄いのー。都でも魔法を使える者は少ないのだぞ」
姫様から褒めてもらっちゃった。そうだったのかー、やっぱりドラゴンって凄い?
「ブルーは強いのかの?」
「少なくとも今まで負けた事はないよー。負けてたら食われちゃってるけどさ」
「生き物の世界は辛いのお」
「でも、今は俺が食べる側だから幸せ~」
俺は、うっとりと幸せを噛み締めた。
「まあ、その図体したブルーを食べるなんて、よっぽどの怪物だよねー」
「まあ、それでも俺は毒をいっぱい持ってるから、そう簡単には負けないよ~。それにいざとなったら逃げるからー」
今までの経験上からいくと、それが最強だぜ!
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