1-39 ミランダ・ルール
「なあ、アニキい。本当に村を襲うのかい?」
「それは、お前。このままじゃ、どうにもならないだろう。村を追い出されたんだ。魚を獲っても売りにいけないし。もうやるしかない」
2人の男が物騒な話をしていた。片方はまだ少年といってもおかしくない感じだ。
「でもさ、お兄ちゃん。こんな島で暮らすのなんて、あたい嫌だよ」
「アンデ、我儘を言ったってしょうがないだろ」
アンデと呼ばれた一番年下そうな少女は、思いっきり溜め息を吐いた。自分のバサバサになった茶色の髪を手で弄っている。どうやら本物の兄弟のようだ。
「美味い物が食べたーい。お風呂に入りたーい」
両手を後ろ手に投げ出して、足も前方にVの字に投げ出している。まるでやる気なしのムードだった。少年もうんこ座りしているので、チンピラ臭が漂っているだけだ。
アニキと呼ばれた男は、いかにも海賊といった風情でボロボロの服を纏い、無精ひげを生やしている。本人は悪そうにしているつもりのようだが、はっきり言ってしょぼい。結論から言えば、ただの漂流者にしか見えない容貌だ。
小さな島の海沿いにある小屋の中で、開きっぱなしの窓から見聞きできる光景を検分してみたけど、正直どうしたものかな。とりあえず、聞いてみよう。
「ねえ、君達って海賊?」
「うわ、びっくりした。誰だ、俺達に話しかける奴は!」
窓に駆け寄った弟は、すぐに固まってしまった。
「ア、ア、ア、アニキ……ば、ば、ば」
「何だ? 何言っているんだ、お前……」
そして、お兄ちゃんも固まった。
「うわあ、化け物だあ~。アンデ、銛だ。銛を持ってこい。早く!!」
「う、うん。わかった」
実はまだ外をよく見ていないので、よくわかっていないのだが、兄のただならぬ様子に銛を取りに走る妹。
「まあまあ、そう慌てないで。俺はブルードラゴンのブルー。君達は本当に海賊?」
「怪物が喋った~。って、ドラゴン? 嘘付け! ただのでっかいウミウシじゃねえか」
少しは落ち着いたらしいアニキが顔を真っ赤にして怒っていた。
「エヘっ、バレました? でも、このへんの人は俺みたいな奴をブルードラゴンって呼ぶんだよ?」
「そ、そう言えば、そんな絵本を見た記憶があるぞ!」
「で、君達って海賊なの?」
「おう、それがどうしたよ!」
俺はにっこりと笑って(そう見えているだろうか?)言い渡した。
「君達には捕縛命令が出ています。大人しくお縄につきましょう。君達には黙秘権があります。供述は法廷で不利な証拠となる事があります。弁護士を呼ぶ権利もあります。弁護士なんて、この世界にはいないけどさ」
いや、この台詞を一度言ってみたかっただけなんだ。弁護士……弁護士って、一体なんだったけかな。法廷?
「くっ、ふざけるな」
男は凄まじい勢いで銛を投げつけてきたが、俺は鰭先であっさりと摘まんだ。ドラゴンの動体視力と運動能力を舐めちゃいけないな。
俺は、あっさりと銛を収納すると、奴を海水で打ち倒した。
「こ、このお!」
「はい、毒あげる」
俺は鰭先から、プッと毒を飛ばした。
「うがあ」
男はあっさりと倒れた。ウミウシ印の強力な麻痺毒にございます。
「アニキー!」
「お兄ちゃん!?」
他の2人は慌てて、兄に駆け寄った。
「おのれ怪物。よくもアニキを~」
燃える目で俺を睨み付ける弟君。なかなかガッツあるじゃないか。気に入ったぜ。というわけで、プッ。弟君も大人しくお仲間になっていただいた。
「お、お兄ちゃん達……やめて、もうやめて。降参、降参するから。許して~」
最後に残った少女は、心が折れてしまったようだった。ズルズルと、その場で床の上にへたりこんでしまった。
「じゃあさー、その2人を船に乗せて。大丈夫、死んではいないから」
「わ、わかったわ……」
なんとか兄2人を船に押し込んで、自分も中に乗り込んだ少女は震える声で尋ねてきた。
「こ、これから私達はどうなるの? 言っておくけど、まだ何にも悪い事はしちゃいないよ?」
「だって海賊だって言っていたじゃないの」
「あー、あれはこれから。もう食うのに困ってさ。絶対に無理だと思うんだけど。このあたりは漁師村ばっかりで、みんな逞しいんだ。この人数じゃ逆にやられちまうのがオチさ。海賊っていうか、船で乗り付けて必要な物を盗む、ただの空き巣だな……」
アンデは兄2人を見下ろしながら、座り込んだまま力無く笑った。
「じゃあ、俺のいる村まで行くから、乗せるよ」
「なんて村だい?」
「さあ。そんな事は気にした事もないな」
「なんだい、それは」
呆れるアンデを横目に、俺は鰭エレベーターで船を背中に乗せた。




