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1-38 海賊

「エニスー。暇~?」

「ご覧のとおり、生憎と忙しいけど」

「相変わらずだなー」


 そういう会話をしている間にも、この子は仕事をしている。いつもの事だけど。

「昔、昔、あるところに」


「あら、また何かお話を作るの?」

「うん。とりあえず、ここまで」

「なあに、それ」

 ウミウシ糸を針で潜らせて結束してからベスマギル鋏で切りながら、エニスが呆れたような声を出す。


「いや、昔の物語って、こんな感じで始まるじゃないの。後は何にしようかなと思ってさ」

「ちょっと考えてから話しなさいよ」

「考えてるうちに忘れちゃうもん」

「そうだったね」


 なんとなく納得して、仕事に戻るエニス。この子って、カワイイ見かけの割には何か達観してババくさい。でも、きっとそれは口にしてはいけない事なのだ。生活は大事だものね。ウミウシは細かい心遣いが出来る生き物なのだ。


「じゃあさ、海賊の話をしようよ」

「ふうん? 続けて」


「今、今、あるところに」

「ちょっと、待った!」

 思わずといった感じで、エニスは修理中の網を置いてこちらを見た。


「その今って何、今って」

「昔じゃなくて、今のお話だから。この間、ここから割と近いところにある島に海賊みたいな連中がいてさ」


「それで?」

「そいつらが、どこかを襲う話をしていたよ。そのお話」


 エニスは突然立ち上がると、こう言った。

「ブルー、ちょっと待っててね。村長さんを呼んでくるから!」


「ええー、これからいいところなのに~。エニスってば、忙しかったんじゃなかったの?」

「それどころじゃないでしょう~」


 そして、あっという間に駆けていってしまった。

もう。エニスは、本当にせっかちなんだから。こんな貧乏な村に海賊なんてきやしないってば。来たとしたって、俺がやっつけちゃうよ。


 例によって浜辺でちゃぷちゃぷしていると、村長さんが息せき切って走ってきた。

「村長さん、ちわー」


「はあはあ、ブルー。海賊が出るというのは本当か」

 今日も彼の運動不足の解消に一役買ったようだ。


「このドラゴンイヤーで、しかと!」

 ウミウシに耳ってあるのかなあ。でも音は普通にちゃんと聞こえるしな。


「その島とやらはどこに?」

「ここから50kmくらい先。えーとお、俺の長さの1000倍の距離かな?」


「遠いのか近いのか微妙な感じよのう」

 村長さんも悩ましそうだ。


「俺なら、10分かからないよー」

「ブルーは速過ぎて参考外よ」


「とにかく、場所を教えてくれ」

「紙はある?」

「あるぞ、ほれ」


 俺はウミウシっぽく、あの海中で撒き散らす色付きの液体で、渡された紙に鰭先で綺麗に地図を書いてみせた。


「ここにねー、3人いたよ?」

「3人?」

 村長さんも怪訝そうな顔をした。


「ねえ、ブルー。3人だけで海賊団なの?」

「さあ、でもそこには3人しかいなかったよ。小さな島だから。船もちっこいのが1艘あるだけだし」

 村長さんとエニス顔を見合わせた。


「それって本当に海賊?」

「自分たちでは海賊って言ってた」

「自称海賊?」

 村長さんは難しい顔をしている。


「それは、しょっぴけないが。とは言ってもそいつらを放っておくわけにはなあ。ブルー。お前、そいつらを捕まえてこれるかい?」


「大丈夫だけど」

「じゃあ、頼んだよ」


「ねえねえ、エニスも一緒に行くー?」

「あたしはまだ仕事終わっていないんだけど」

「そうでした。てへっ」


 残念だなあ。ちょっとした英雄譚なのに。ラウなら行きたがるかなあ。生憎と彼も忙しいに決まっている。暇なら遊びに来ているもんな。


「じゃあ、いってきまーす」

「いってらっしゃーい」


 網から目を離さないようにして声だけで見送ってくれるエニス。将来、旦那さんをお見送りする時もこんな感じなんだろうか?


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