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1-35 童心に帰って

 天気はピーカン。絶好の試乗日和だ。

「ふおお。これはまた素晴らしい眺めじゃな」

 どうやら隣国の大臣らしき人がそんな事を言っていた。


「しかも、これを引いているのが伝説のブルードラゴンと来ているのだから。人に言っても信じてもらえんのではないか?」

 別の偉い人が、そんな事を言っている。


 えー、それは悲しいな。俺って少し宣伝が足りないんじゃないかと思うの。

「みなさーん、乗り心地は如何ですか」


「うむ。最高じゃ」

「なかなかのものだぞ、ウ……いやブルードラゴンよ」

 ウでスン止めしたあたりが、なかなかだな。


 その時、いきなり船の横の水面が泡立ったかと思うと、巨大な触手が現れた。言わずと知れたタコ魔人君である。


「うお、なんだアレは!」

「気をつけろ、魔物か?」

「まさか、クラーケン?」


「タコ魔人くーん、お久~」

「おーっす、ブルー。また船で遊んでるのか。少し外観が変わったか?」


 俺達が会話しているのを見て、乗客が全員ズッコケた。

「な、なんと。クラーケンが喋っておる」

「これは、また」

「ウミウシよ、こいつはお前の知り合いなのか?」


 やだなあ。ウミウシって言われちゃってるよ。

「お友達で、クラーケンのタコ魔人君でーす。人間を襲ったりはしないので安心してください。ちなみに俺はドラゴンですからね~」


「なんで、このあたりの大型魔物は、こんなのばっかりなのかのう」

「さあ、ただ今脳の容量が不足しておりますので、わかりかねます。ご了承ください」

「そういう問題なのか?」

 少し悩んでいるお客さんは放っておいて、タコ魔人君に話しかける。


「そうそう、この王子様がクラーケン壷を作ってくれてるんだよ」

「へえー、そうなのか。こんにちは」

「お、おお。こんにちは」

 王子様も毒気を抜かれてしまったようだ。


「へっへっへ。旦那あ、壷の出来は如何でしょうか」

 8本の足で、揉み足しながら媚び媚びなタコ魔人君。


「あ、ああ。ただ今、鋭意製作中だ。かなりいい線まで来ておる。職人どもも燃えておるよ。お前があの品々を引き揚げてくれたのか。感謝しておるぞ。父にもよろしく言っておこう」


「いや、ブルー。なかなか出来た王子様じゃねえか!」

「王子様は苦労人っぽい人だからねー」

 その苦労の一部を担っている者達が好き放題に言っているのを王子様は頭が痛そうに聞いていた。


 乗客たちも巨大ウミウシが引く船に乗りながら、伝説級の魔物達がのんびりした会話を楽しんでいるのを、なんともいえない気分で眺めていた。


「ところで、どこに行くんだ?」

「大回りしてエニス島まで」

「なんでわざわざ大回りしていくんだあ?」

「だって、近いからすぐ着いちゃうじゃないの。この人達って船を見に来たんだから」


「へえ、よくわかんないが。まあいいかな。タコには関係ない話だ。じゃあな~」

 タコ魔人君は、特に興味がない事なんかには結構淡白だったりする。ぶらぶら散歩が好きなんだよね。


「お前の友達は、あんなのばっかりか?」

「そうでもないけど。王子様の妹も友達の1人だよ」

「そ、そうだったな」

「オデッサちゃん、元気にしてる? まだエニス島も海底牧場も見せてあげてないんだけど」


 王子様は少し眉間に皺を作った。

「あれは、今あれこれと習い中だ。もうすぐお披露目があるのでなあ。お前と遊んでる暇はないぞ」

「ええーっ、そんなあ」


「仕方あるまい。あれも一国の姫なのだから。父上が甘やかして育てたからな。今頃大慌てでしつけている最中だ」

(うーん、やっぱりアホの子だったのか~) 


「ま、しょうがないね。お姫様なんだから」

 俺はコロっと切り替える事にした。だって、俺から遊びに行けないんだもの。きっと、そのうち遊びに来てくれるさ。


「案外ドライだな、お前は」

「いや海洋生物ですから結構ウエットですよ」

「そういう意味じゃない!」


 すると見張り台に陣取っていた提督がいきなり叫んだ。

「面舵いっぱーい」

「ええっ、なんでー」


「いや、あそこは景色がよくて、昼飯を食うのに最適じゃ」

「そうだのう。なかなかの場所じゃ」

「悪くないのう」


「エニス島で御飯の予定だったんだけどな」

 王子様は接待に専念しているので、俺に頼んできた。


「悪いが、言う事を聞いてやってくれ。今日のお客様は怒らせるわけにはいかないんだ。幸い、提督が張り切って相手してくださっているからな」

 なんか提督が童心に帰っているだけのような気もするが、俺はできるウミウシなんで王子様の顔を立てる事にした。


 しかし、一国の跡取りの王子様が、接待で取引先の偉い爺さん達をもてなしている営業社員みたいなことを言っているな。営業社員?


「よーし、じゃランチ停泊しまーす!」

 俺は元気良く叫んで、船の方向を変えてビューポイントへと向かっていった。


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