1-33 改修
「やれやれ。おいブルー、お前何とかしてくれ。大体、あの船は海に沈める予定じゃなかったのか?」
困った王子様は俺に問題を丸投げにしてきた。そんな事を言われてもなあ。脳味噌の容量が激しく不足中なのですが。
「だって船遊びが楽しいんだもの」
「楽しいって。お前が船に乗って遊べるわけではないと思うのだが」
「何を言ってるのー。船は乗せてもらうより、自分で操縦するほうが楽しいに決まっているじゃないの。特にスピードの出る船はお金持ちとかにも人気よ~」
地球の話だけどね。地球?
「そ、そうなのか? いや、とにかく何とか提督を説得してくれ。もう帰らないとマズイ。外交にまで影響が出てしまいそうだ」
この爺さん、そんな重要人物だったのかあ。もう半分ボケが利いてどうしようもない感じにしか見えないけど。
「一応トライはしてみますけど期待はしないでね~」
「ああ、やるだけ頼む」
半分死んだ目をしたような王子様が投げやりに答えてきた。これは頭痛薬では駄目っぽい、抗うつ剤の調合はよくわからないな。抗うつ剤?
「ねえ、提督。王子様があんな事を言ってるよ?」
「嫌じゃ、わしは帰らんぞ」
「ですって」
「こらこらこら。もうちょっと粘らんか。あっさりしすぎだろう」
「だって、俺ってただの軟体動物だし」
「はあ~。おい娘、お前なんとか出来ないか」
「ええーっ、無理に決まっているじゃないですか」
網の修繕に忙しいエニスは、全力で拒否した。
それを横目に見た王子様は、こんな事を言い出した。
「毎日網の修繕で大変だな。成功報酬は新品の網でどうだろう。ついでに言うとウミウシ。新品の網があれば、その娘も仕事が減って、一緒に遊んでもらえる時間が増えるのではないか?」
嫌だ! 王子様ったら、またもや俺の欲望を刺激するような事を!
俺の足りない脳みそじゃ、その発想はなかったぜ~。
「じゃあさ、提督。ちょっと王子様と式典に行っておいでよ。そうしたら、その間にマリエール号を素敵に改修しておいてあげるから」
「な、何。本当か?」
「ウミウシ嘘吐かなーい。ちょっと時間がかかるから、ゆっくりしておいでよ」
「むむむむ。そうか、そうか!」
「この今の栄光のマリエール号のお話でもしてあげればいいじゃない。老兵未だ衰えずって感じでさ!」
王子様が、「でかしたぞ、ウミウシ!」って感じで、こっちを見ている。どうせなら、そこは「でかしたぞ、ドラゴン!」にしておいてほしいな。
「それでは、ちょっと王都まで行ってくるかの。今のわしとマリエール号の勇壮な話でも聞かせてやるとしようかのー」
提督は、打って変わって、何か張り切って出かけていった。
「王子様、網の約束は忘れないでよ~」
王子様は素敵な笑顔で手を振ってくれた。医は仁術。俺はお薬無しで、王子様の病気を治せたようだ。
「ところでブルー。改修ってどうやるの?」
「ん? ああそれは元に戻してやるだけ。マストが無いって嘆いてたでしょ」
格好だけ戻してやれば提督も喜ぶと思うの。
「ああ、なるほどー。でも邪魔だから切ったんでしょ」
「うん。でもまあ、エンジンの俺の性能が高すぎるから、どの道全力運転には老朽船の方が耐えられないしねえ」
「エンジン?」
「エンジン?」
俺がオウム返しにしたのでエニスも諦めたようだ。エンジン……それは一体なんだったっけかな。まあいいや。
俺は早速沖に出ると、まず船首に取り付けた物見台を取り外した。正しくは鐘楼というらしい。提督は、鐘楼がないといって残念がっていた。それからそれをメインマストに取り付けた。丁寧に切りはずしたので、マストの切断面は綺麗なものだ。
本当はこんな風にしてはいけないんだけれど、マストを「接着剤」でくっつけてみた。ウミウシ、いやドラゴン印の接着剤は超強力さあ。くっつけた接着面が剥がれるより先に、マストの根元がめりめりいって倒れるだろう。根元は船底につけられているのでえらい事だ。はっきり言って沈んでしまうだろうな。
「うーん、マストまでは作ったけれど、ヤード(マストについている太い横棒)とか最初から無かったしな。とりあえず爺さんに相談してみようか。鐘楼があるだけでも喜んでくれるだろう」




