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1-3 お役人さん

 そして、そいつらが村へやってきた。立派な馬車に乗っている。あの馬って奴は美味しいのだろうか。でも毒はなさそうだからなあ。俺達は、身を守る毒を得るために毒のある生き物を食べるのだ。


 食料となった生き物から受け継いだ毒を鰭の先に蓄えている。まだ小さなウミウシの頃は、特にそうやって身を守るのだ。


 今は大きくて力も強いから大丈夫だけど、それでも毒の力は小さい頃とは比べ物にならないくらい持っている。そのほかにブルードラゴンしか持っていない力はあるんだ。


 ウミウシの食性は凄い偏食だ。水族館でも飼育困難なほどだからな。ブルードラゴンは、毒のある生き物はなんでも食べる習性がある。ここでは主に大きな毒のある魔物だな。魚は小さいからね。あ、水族館って何だっけなあ。


 あいつらは、なんなのだろう。

「うん? エニス、あの集団はなあに」

「え? あ、ああ。あれは国のお役人さんだよ。ブルーが拾ってきた、その鏡を調べたいらしいわよ」

「へー」


 お役人ってなんだろうなあ。鏡を持っていかれたりしないといいんだけど。まあ、その時は海底から色んな物を集めてきて、それで鏡を買ってきてもらおうっと。


 役人さんは、俺のところにくると、のっけから言った。

「ぬう。本当にブルードラゴンだ。でっかい伝説のウミウシだのう。で、鏡はあやつが拾ってきたと?」

「はあ、その通りでございます」

 怖そうなヒゲを生やした、ちょっと厳しい感じの役人に、村長さんが受け答えをしていた。


「ウミウシですが、何か」

「うおっ。報告には聞いていたが、本当に喋るのだな。伝説では、そんな事は書かれてはいなかったが」

 お役人さんは、被っている帽子を取り落とさんくらいに驚いて、ちょっと仰け反るようにして言った。


「そんな伝説なんて知らないな。ねえねえ、その鏡は持っていっちゃうの~?」

「まあ、そうなるかもしれんな。我々が長年探していたものだとすればだ」 

 役人さんは、右手の指の股を顎の下に当てるようにして考え込んでいた。


「探してあげたんだから、1割のお礼が貰えるよね?」

「むう、褒美を欲しがるウミウシがいるとは」


 ええー、拾得物は拾った人に1割の権利だよね。半年経ったら全部だっけかな。俺は人じゃないけどさ。ん、拾得物?


「一体、何が欲しいのじゃ」

「鏡の新しいのが欲しいの」

「ほっほ。それはまた欲がないな」

 いや、欲望真っ盛りなんですが。俺ってナルシストー。もう鏡が無いと生きていけない。


「立派なのでなくても、普通のでいいからさあ」

「変わったウミウシじゃのう」

「ただのウミウシじゃなくて、ドラゴンですよ~」

 一応、クレ-ムはつけておいた。


「わかった、わかった。鏡の1枚くらい安いものじゃ。褒美として、とらせよう」

「やったー!」

 俺は思わず、巨体をくねらせて踊ってしまったが、役人さん達も思わず釣られて踊ってしまった。


「いかんいかん、仕事仕事。さて、鏡を拝見するか」

 役人さんも人の子だ。厳しい見かけに寄らず、かなりノリのいい人のようだ。役人はじっくりと、鏡を検分していた。お供の人が広げた、古い資料と照らし合わせながら。


 付き添っているのは村長だけで、他の人は仕事に出ている。

 俺とエリスは、しりとりで遊んでいた。もっともエリスは、自分の仕事しながらではあったが。


 真剣に鏡を検分する役人さんを尻目に、俺達のしりとりの言葉と子供達がはしゃいで走り回る声だけが、波の音が支配する静かな浜に響きわたった。


 鑑定作業は終わったようだ。

「うぬぬ。これはまさしく、300年ほど前に沈んだ船に積まれていたという、国宝の鏡。でかしたぞ、ウミウシよ」


「わあい、褒められた~。じゃあ、鏡を買ってねー。大きいのがいいなあ」

「任せておけ」


 俺達は手(鰭)を振って、役人の馬車が立ち去っていくのを見守った。出来ればドラゴンと呼んで欲しかったんだけどね。


 それから二週間ほど経って、国から鏡が届けられた。荷馬車に揺られて、やってきたそれは高さ2m幅1mほどもある、大きなものだった。ちゃんと頑丈なスタンドがあって、浜辺に設置された。


「うひょお~、これは大きいのが来たなあ。バンザーイ」

 前のは、せいぜい1mくらいしかなかったんだよな。それでも、ブルードラゴンのずば抜けた視力をもってすれば、なんという事も無く使えるのだが。


「ブルーは、鏡が大好きねえ」

「だって、こんなに美しい俺の姿が映るじゃないの~」

「やれやれ」


 俺は海へ潜っては、あれこれと綺麗なものを拾い集めては、鏡にお供えした。単に、俺の鏡を飾り立てたかっただけなのだが。

 サンゴ、真珠、珍しい綺麗な貝殻。海底の珍しい石。角のある海獣の死骸から取った角など。


「ブルーってば、結構いいもの拾ってくるんだね」

「え? 綺麗だったから拾っただけだよ。それもお金に困ったら、売れるんなら売ってもいいよ。また拾ってくるだけから」


「うーん、どうかなあ。前にもらったのがあるし。不漁で魚が取れなくなって村が困ったら、そうさせてもらうかもだけど」


 まあ、ウミウシはお金なんかいらないしねー。鏡が割れてしまったりしたら、新しいのが欲しいけど。


おっさんのリメイク冒険日記2巻、11月2日に発売です。

 http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html


ウミウシは飼育困難な生き物ですが、ブルードラゴンは餌がよくわかっているので、その点はいいのですけど。御飯にカツオノエボシや銀貨クラゲみたいなもの要求されてもねえ。習性的に毒クラゲちゃんが大好きですから。

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