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1-22 必殺ウミウシ拳

「すげえ」

 ちょっと捻くれた感じのラウも、この大海原を船で疾走して、その魅力に取り付かれたようだ。


 片方の目玉を器用に後ろ向きにしてみた。風を感じて気持ちよさそうにしているラウの姿は、まるでオートバイでツーリングしているかのようだ。ツーリング? オートバイ?


 まあ、あのちょっと捻くれたラウが、あんなに楽しそうにしているのだから。俺の気持ちがポカポカしているのは、お日様のせいだけじゃないはずだ。


「あー、あんなところに、ハネトビイワシの凄い群れがいるぜ。いいなあ。網があったらいっぱい獲って帰るんだけど」


「ラウはイワシが好き?」

「おうよ。あんなに美味い物は他に無いぜ。安く買い叩かれちゃうけどなあ」

 残念そうなラウを見て、エリスに聞いてみた。


「ねえ、せっかくだから、イワシを獲って帰らない?」

 俺は、ちょっとだけお誘いをかけてみた。

「えー、せっかく遊びに来てるのに、お仕事はしたくないなあ」


「姉ちゃん。働かざる者、食うべからずだよ」

「あーん、わかったわよ~」

 まあまあとエニスを宥めながら、俺は密かにラウを懐柔し、お友達を増量する計画を立てていた。


「よーし、いくぞおー」

 そして俺はそれを射出した。ウミウシ・ヤーン製の網を、収納から直接発射したのだ。

 哀れ空中のイワシどもは、俺の網にズゴンズゴンに引っ掛かった。これは凄い数だ。


「うお、すげえ! ウミウシ、お前やるじゃん!」

「エッヘン。一応ドラゴンですからねえ~」

 ちょっと語尾に音符が付きそうなほど、俺のトーンは上がっていた。


 俺は、網でイワシを引き寄せて、爪ならぬ棘を立てた。

「あたたたた~」

 俺はイワシを鰭先の棘で超高速で、つくつくに突きまくって、きっちりと生け締めにした。


「マジでやるじゃんか、でかした~」

「これで新鮮なイワシが食べ放題ですよ~。トビウオっぽいから、いい出汁取れそうだし」


「トビウオってなんだ?」

「えーと、なんだっけ。俺そんな事何か言った?」


 ラウはちょっと呆れたような顔をしている。

「ラウ、ブルーにあんまり難しい事を聞いちゃ駄目よ。脳みそが足りないって自分で言っているくらいだから」


「しょうがねえな。所詮はウミウシかよ!」

 あ、2人共~、何気にしどいわ。でも本当の事なんだけどね。


「じゃあ、帰ってイワシパーティにでもする? 今日はもう晩御飯の仕度をする時間でしょ」

「そうだねー。村のみんなと浜辺で食べるのは楽しいし、おばさん達が御飯作ってくれるから」


 エニスは嬉しそうだ。まだ子供なんだから、本当なら母親が作ってくれる御飯を食べたいのだ。ラウもそのへんは同じ気持ちらしい。今日は特に文句は垂れなかった。


「よーし。じゃあ、村までもうひとっ走りねー」

 帰りは、スラロームしたり、少し船を傾けたりしてスリルを味わってもらった。


 鰭で巧みに操るので、引っくり返るなんて事は絶対にない。普通の子供なら酔ってしまうかもしれないが、漁師村の子であるこの2人は全然問題ない。


「きゃあ、ブルー。気持ちいい~」

「やるじゃんか、ブルー」

 ラウも、俺の事をブルーと呼んでくれていた。なんだか、ちょっとだけいい気持ちさ。


 浜辺に着いたら、エニス達のおじいさんが待っていた。今日はラウが一緒にいるので、見に来たのかな?


「なんだ。どこまで行っておったんだ。もう、そろそろ晩飯の時間だぞ」

「あ、御爺ちゃん。ハネトビイワシの御土産があるのよ。ブルーったら凄いのよ。いい漁師になれるわ」

「船はいらないしね」

 陸地に上がれないから、魚を売りにも行けないわけなんだけれど。


「よしよし、でかしたぞ。どれくらいあるんじゃ?」

「えーと、エニスの家の船で10杯くらいはあるんじゃない?」

「それは大量じゃのう。あれは干せば、いい出汁が出るしのう。ありがたい」


 お爺ちゃんも嬉しそうだ。早速、村中にお触れを回しに行った。村長さん達も駆けつけてきて、イワシを捌く台の用意をさせていた。


「じゃあ、ブルー。イワシはこちらに出しておくれ」

 指示されたスノコのようなものの上に、ポンポンと並べていった。


 村の人達は、包丁で手慣れた感じでイワシの内臓を抜いていき、それは桶に集められていった。


「あの内臓はどうするの?」

「肥料にするのよ。身は食べるから」

「へえ、イワシはどうやって食べるの?」

「煮込んだり、焼いたりするわ。漬け込んだりする調理法もあるし」


 俺はちょっと考えて、聞いてみた。

「生では食べないのー?」


「えー、生でー? 漂流なんかをしていて、火が使えない時は生で食べたりするらしいけど。普通は食べないわよ」

「ふうん。もしかして、お醤油が無いんだ? お刺身、美味しいのに」

「お醤油? お刺身?」


「えーと、なんだったけ、それ」

「またあ?」

「てへっ」


 でも頭の中に浮かぶ。三種盛り、海鮮丼、舟盛り、鉄火丼、寿司。ああ、なんの事だかさっぱりわからないけど、なんか涎が止まらない~。


「ブルーもイワシが食べたいの?」

「ううん、別に。まあ、俺はいつも御飯の魔物は生で頂いていますけどね~」

「そりゃあ、ブルーはそうでしょうけど」


「エニスちゃん、いらっしゃい。こっちのお手伝いしてちょうだい」

「はあーい」

 笑顔のおばさんに呼ばれて、嬉しそうに駆けていくエニス。


 うん。イワシを獲ってきて大正解だったなあ。俺はそう思いながら、引き続き浜辺でイワシを並べていくのだった。


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