1-21 弟
しばらくして、約束の廃船が届いた。王国の軍艦が曳航してきてくれたのだ。かろうじて浮いてはいるが、もう竜骨が駄目になっているそうで、廃船扱いだ。全長約50m。ちょっと背比べをしてみた。きっと俺の方が3ミリくらい勝っていたよ。
解体して廃材として売ったり、焚き付けにしたりするしかないのだが、費用がかかるので放置されていたものだ。なまじ丈夫に作った軍艦なので解体作業も大変らしい。
俺は受け取ると、楽しみに船体を弄り回した。いや、鰭で撫で回しただけなんだけどね。どこに沈めようかなあ。そうだ、タコ魔人君に相談するとしよう。
その前に少しお遊びをしたいので、軽く修復した。痛んだ部位に俺の固まる体液を流し込んで補修してみる。あと、糸でガッチリ補強して、それごと固めてみた。
その他に、俺は色々と収納から取り出して準備を済ませた。
「エニス~」
「なあにー」
「あのさあ、今日は暇?」
「もうちょっとで繕い物は終わるから、待っててくれたら1刻くらいなら遊べるわよ」
「いや、せっかく船もらったからさ。沈めちゃう前にちょっとだけ遊ぼうかと思ってさ。ちゃんと補強したから大丈夫だよ」
「そうねー、じゃそうしようか」
そう言いつつも、繕い物をする手は休めないエニス。
「エニスは働き者だねえ」
「だって、しっかり働かないと生きていけないわ」
「それもそうだねえ」
俺は波打ち際で、海水をちゃぷちゃぷしながら待つことにした。
「お待たせー。で、何をして遊ぶの?」
「じゃあん、これです」
そう言って取り出したものは、「海ソリ」だ。何、俺がロープで帆のない船を引くだけのものだが。エニスの座る所だけは、特にしっかり補強しておいた。
マストは落として風の抵抗を受けないようにし、マストについていた物見台を少し高くなっている前部甲板にくくりつけて、よく見えるようにしたものだ。
「じゃあん、ドラゴンボートの出来上がり~」
「わあ、面白そう」
「じゃ、乗って乗ってー」
「あ、ちょっと待って。弟も連れてこられないか聞いてくるから。あの子、船がとっても好きなのよー」
弟君は、いつも仕事が忙しくて、あまり話をした事がない。ちょっと捻くれた感じの子だ。悪い子じゃないと思うんだけど。同年代の子は遊んでいてもいいのに、自分が遊べないから僻んでいるんだな。
すぐにエニスが弟君を連れて戻って来た。
「やあ、ラウ」
ラウは亡くなったエニスのお父さんの名前と同じだ。
「おっす、ウミウシ」
「ウミウシじゃなくてドラゴンですよ~」
「やかましい。いくら図体が大きくたって、ただのウミウシじゃないか。ウミウシなんか食えないんだからな」
それは幸いだなあ。食べて美味しかったら、人間達に狩られちゃって大変さあ。
俺がまったく堪えた様子もないので、ラウはムスっとしていた。
「こら、ラウ! 今から乗せてもらうんだから、文句言わないの。ごめんねー、ブルー」
「どういたしまして」
ウミウシの心は、海よりも広いのさあ。
俺はドラゴンライダーセットを取り出して、2人に乗るように促した。
「お前って本当に変なウミウシだなあ。なんか頭悪そうなのに、こういう物とか平気で作っちゃうみたいだし。お前、本当はブルードラゴンじゃないだろ。伝説のブルードラゴンは、喋ったりしないし、こんな変な事ばっかりしないぞ」
ぎっくう。俺だって、エニスや他の人から勝手にブルードラゴンに認定されているだけなのだ。自分が何かなど知ってはいないのだった。でも村の人も、伝説のウミウシって言っていたから、間違いじゃないと思う。そう心のノートには刻んでおこう! すぐ忘れちゃうけどね。
「まあまあ。それは、ここからこっちに置いといてー、今この時を楽しみましょう~」
「気楽なやっちゃなあ」
「まあねー。ウミウシは最強なので、すぐに獲物は手に入るので食うには困らないのです」
「ブルー、自分でウミウシって言っちゃってるよ」
「おっと、いっけない。本当はドラゴンですよ~」
「馬鹿くせえ」
ラウは呆れたような顔で、それでもウミウシ・ライディングは楽しんでくれたようだった。
「さあて、ここから本番ですからね。えいっ」
俺は気合と共に、元軍艦の海ソリを引っ張り出した。いや、気合を入れなくても出てくるんだけど、それだと迫力が無いし。
「うお! いきなり、こんなでかい船が出てきた!」
「この船、大きいのねえ。ブルーとどっちが大きいかしら」
「俺のが3ミリ長かった!」
「ば、馬鹿なのかよ! 大体、ミリってなんだ、ミリって」
「えへっ。本当は、ちょっと背伸びしてました」
俺は3ミリ径で作った、試作ウミウシ糸を取り出して、ラウに渡してやった。
「それが直径3ミリの糸ですよー。結構丈夫なんだよ」
品質には自信ありさ。ラウも、糸を引っ張ってみたりして、出来栄えには感心しているようだ。
という訳で、2人に船を検分してもらった。
「ちくしょう、いいよなあ。世の中には、こんなデケエ船を我が物顔で乗り回している奴らもいるんだ……」
「まあまあ、ラウだって立派なものじゃないですか。お爺さんに厳しく仕事を教え込まれて、お父さんの後を継ごうとしてるんだから」
「う、うるせえ。俺だって本当は、船乗りになりたいんだ。あんな小さな船で魚獲って一生を終えるなんて」
よっぽど悔しいのか、涙まで溢している。
「さあ、乗って乗って。爽快に走れば、涙も乾くよー」
2人が乗り込んだのを見て、俺は船を引き始めた。俺特製のロープを20本ほど、鰭と船を繋いであるので、操縦は自由自在さあ。では、出発進行ー!
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