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1-16 新しき伝説

 ほんの2時間ほどでいつもの浜に戻ってきた。なんと王子様が浜辺で海を睨んでいた。まだ村にいたのかあ。もしかして、物凄い暇な人のかな。もう夕方に近いんだけど。


この村は王都から100kmくらいらしいから、馬なら3時間も飛ばせば着くんだから都に帰って待っていればいいものを。


「おお、ブルー。これは早くに戻ってきたものだな。やっぱり駄目だったのか?」

 少し失望したような顔で俺を見る王子様がいた。


「失礼な~。このブルー様に失敗の二文字は無いのさ(嘘だけど)。はい、これなんとかいう王様からの親書」

 俺は鰭の先で器用に挟んだ親書を王子様に鰭渡した。


「そ、それは! でかしたぞ、ウミウシ」

「ウミウシじゃなくて、ドラゴンですよー」

 うん、よかった。王様の名前を忘れていた件については、突っ込まれなかったよ。


「む、うむむ。これは!」

 親書を読んだ王子様の顔色がたちまち変わる。


「おい、ハインリヒの姫が毒にやられていたのは本当か」

「うん。俺の見立てでは、間違いなく毒だよ。まあ命に別状はなさそう。王様は、もう犯人がわかったみたいだし」


「そうか……。でかしたぞ、ブルー」

 王子様はぐっと拳を握り、上気した顔で褒めてくれた。エッヘン。


「よし! 早速父上に御知らせせねば。褒美についてはまた申し出るがよい。大役、御苦労であった」

「じゃあ、俺はハインリヒ王国に戻るねー。姫様の治療が途中だから~」

 俺は鰭を振って、騎士を引き連れて馬車を飛ばしていく王子様を見送った。


 それからハインリヒ王国の王都に戻った俺は、引き続きお姫様の治療に当たる事になった。

 浜辺には、すでに専用の治療小屋が作られていて、騎士達が護衛していた。


「はーい、お姫様。お加減はいかがですか~」

「ありがとうブルー。もう手助けしてもらえれば立ち上がれるようになったのよ」

 両側を侍女さんに支えられながら、お姫様は嬉しそうに笑った。


「毒の供給が途絶えたので、効き目が弱まったね。毒の種類がわかればいいんだけどな」

 とりあえず、新しく試す毒消しを体内調合しつつ、お話を続けた。


「ねえ、ブルーのお話を聞かせて。きっと人間にはできない冒険とかしてきたのよね」

「まあ、そうたいしたものじゃないよー。大方は、弱肉強食の厳しい自然の掟の中の物語だから。そうだねえ。じゃあ、南の島の洞窟にあった、どこかの国の提督の残した航海日誌や宝物のお話とか?」


「わあ、聞かせて、聞かせて」

「うんうん。昔々、ある国に伝わる伝説に……」

 こうして、俺と姫様はお友達になったのであった。


 しばらく俺は姫様の治療のためにハインリヒ王国の浜にいたのだが、姫様もだいぶ具合がよくなってきたようだ。毎日、エリスと遊ぶような感じで楽しくやっていた。だが、完全に毒の影響が抜けたわけではないので、まだ1人で歩きまわれるほどではなかった。


 ある日、王様がやってきて、こうおっしゃった。

「ブルーよ。これが姫に盛られていた毒だ。犯人を問い詰めたが、解毒剤は無い物だと。調べさせたが、本当のようだった。お前には解毒剤を作る事はできるだろうか」


 王様の顔は暗い。巡らされた陰謀は明らかになったものの、娘の容態は思わしくない。

「ふーん、ちょっと見せてー」

 チェック、チェック~。瓶の蓋を開けてもらったので、そこから香る分子を本能でチェックした。分子?


「んー、これは」

「どうだ、何かわかるのか?」

「うーん、ある種の魚が持っている神経系の毒に似ている気もする……。多分、解毒剤は作れるのじゃないかな」

 神経系の毒? よくわからないな。でも、よく知っているものだ。


「本当か!」

「やってみないとねー、それ貰ってもいいかな」

「おお、いいともいいとも」

 嬉々として瓶を渡してくれる王様。


 俺はそれをひょいっと瓶ごと飲み込むと分析してみる。

 みるみるうちに、体の中で毒に対する抗体ができていき、その毒を分解できる解毒剤が作成完了した。俺は鰭の中に溜めたそれを、またポキっと折って王様に渡した。


「飲み薬ですからね~」

「そうか! さあ、アイリスよ。これを飲むのじゃ」

 王様は手ずから愛娘に薬を飲ませた。


 まだ顔色の青かったアイリス姫は、みるみるうちに顔色がよくなり元気そうになった。そして起き上がると、父王の首ったまに齧り付いて泣き出した。


「お父様、ご心配をおかけしました。アイリスはもう大丈夫です」

「よかった。本当によかった」

 王様も、泣きながら娘を抱きしめた。


「ブルーよ、お前には本当に世話になった。何か褒美を取らせたいが、何がよいのかのう」

 まあ、ウミウシ……じゃない、ドラゴンはお金とか欲しがらないしね。


「そうだなあ。やっぱり、俺の美しさを称える何かがいいなあ」

「そうか。よし! それでは、お前をこの国の守り神とし、その功績を称える物語を絵本にしよう。立派な挿絵をつけてな」


「わあい。それ、俺にもくださいねー」

「わかっておる、わかっておるとも」

 俺としては、小躍りしたい気分だ。あ、マイヤール王国の王子様からも、何か御褒美が貰える約束だった。


「じゃあ、いっぺん村に帰るんで、また遊びに来ますねー」

「ブルー、約束よ!」

「うん、また何かお話を仕入れてくるねー」

 嬉しそうな姫様に鰭を振って、お暇しようと思ったが王様に呼び止められた。


「ブルーよ、この笛を持っていくがよい。ここに来たらそれを吹いておくれ」

「笛ですかー」

 なにぶん、小さいな。


「お父様、それはブルーには小さ過ぎるのでは?」

「むう、そうじゃのう」

 失敗じゃったかと頭をかく王様。

 だが、俺はチャレンジしてみた。ふふっ。軟体動物を甘くみちゃいけないぜ。


 俺は口をキュッと笛に合わせて、上手に音を出してみせた。何か独特の音色ですぐにそれとわかるものだ。息の長いドラゴンブレスで吹いてみせたので、それは長く力強く、人間にはとても出せない音になった。


「ホホっ。さすがは伝説のブルードラゴンじゃわい。たいしたものじゃ。これならば、お前が来たとすぐにわかろう」

「本当~。じゃあ笛の音が鳴るのを待っているわ」


 まあ念話を使ってもいいんだけれど、笛は素敵な音色だったので嬉しいな。そして、俺は今度こそ鰭を振って王様とお姫様に挨拶して海へと消えた。


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