1-12 潜入
俺は地図を取り出して確認した。
「うーん、どこから接触しようか。大きなところだと、軍艦がいそうだし。負けたりはしないだろうが、相手を沈めてしまったら最悪だしな。大きな港には大砲とかもありそうだ。いきなり攻撃されても話が全くできないし」
色々考えた末に港は避けて、王都に近い場所に出て様子を伺うことにする。港は無くて、手頃な崖とかがあって人がいそうなところ。王都には、すぐ近くに大きな港があるらしいから、話が付いたらそこで王国の人と話をすればいい。話がわかる人がいてくれるといいんだが。
そーっと目玉だけ海上に出して、様子を伺う。このあたりは海も深いので、俺の体は見事に隠れてしまう。遠くから賑やかそうな声が聞こえてくる。
このあたりなんか、いいかもしれないなあ。
俺はそーっと崖に近づき、聞き耳を立てた。
「ねえ、お兄ちゃん。ここのお花で花輪を作ってえ」
可愛らしい女の子の声がした。エニスよりは、ずっと歳が幼いような感じがする。
思い切って話しかけてみる事にする。子供なら、受け入れてくれるかもしれない。
「あのう、こんにちは~」
俺は体を持ち上げて、崖の上をそーっと目玉だけ出して覗いてみた。
「だ、だあれ?」
5歳くらいの女の子が、きょろきょろしている。
「お兄ちゃん、今誰かに呼ばれたんだけど、誰も見当たらないの」
「えー、そんなの空耳だろ。待ってな、今作ってやるから」
「あのう、もし」
兄妹は顔を見合わせた。
「誰だっ!」
10歳くらいのお兄ちゃんは、妹を庇うような格好をして叫んだ。感心感心。
「こっちこっち、ほらこっちー」
安心させるように、なるべく控えめな音量で囁いた。
「別に怪しいものじゃないですから~」
崖下をひょいっと覗き込んだ2人は悲鳴を上げた。
「きゃあ~、化け物ー!」
「何だ、お前は~」
あ、傷ついちゃうな。
「きゃああー」
驚いたはずみに女の子が崖から足を滑らせた。
「エイミー!!」
「よいしょっと」
俺は鰭で上手にクッションを利かせて、女の子を受け止めた。この子は、エイミーって言うんだな。
「気をつけないと危ないよ。でも驚かせるつもりじゃなかったんだ、ごめんよ」
「あ、ありがとう。あなたはだあれ。上手に御喋りするのね」
エイミーが俺の鰭平? の上で、可愛く小首を傾げた。
「う、うわあ。怪物が普通に喋って……いる」
お兄ちゃんの方は、歳なりに厳しい反応が返ってきた。
「怪物じゃないよ。ドラゴンですよー」
「う、嘘付け~。よく見たら、お前でっかいウミウシじゃないか」
彼は、ビシっと指で俺を指しながら突っ込んだ。
「ふっ。バレましたか。でも、みんなは俺の事をブルードラゴンって呼んでくれるのさ。こんなに青くて綺麗だろう? ブルーって呼んでよ」
「た、確かに綺麗っていえば綺麗だよなあ」
彼は、ちょっと見惚れるような感じで俺を褒めた。やっぱり褒められるといい気分だぜ。
俺はエイミーを、そっと崖の上に戻してやると、子供達に話しかけた。
「ちょっとお使いを頼まれたんだけどさあ」
「へえ、どんな」
(ウミウシにお使いを頼む酔狂な奴もいるんだな)
「この国の王様にお届け物なの」
「マジで!?」
「うん、だから王様に会いたいんだ。いや、会わなくてもいいんだけどさ。大事なお届け物だから、ちゃんと王様のところに届かないとマズイんだ」
「王様かあ。町の代官さんに頼むしかないね。町はちょっと遠いよ。ここはリンガの村さ。王都アルベスは海沿いの町だから、海から行けば行けるけど、はたして王様がお前に会ってくれるかなあ」
俺はちょっと考えこんだ。それが出来るくらいならば、苦労はしないのだ。
「村長さんとかはいない?」
「いるけど、大丈夫かな」
「いきなり町へ行くよりはいいでしょう。ドラゴンが呼んでるって言ってくれれば」
「そんなわけにいくか~」
「ねえ、お兄ちゃん。呼んできてあげようよ。それに王様にお届け物だって言ってるんだし」
「そ、そうだな。じゃ、呼ぶだけ呼んでやるけど、期待するなよな」
「ありがとう。助かるよ。君の名前は?」
「俺は、トニー。ハイドの息子のトニーさ」
「じゃ、待ってるから。トニー、御願いねー」
俺は鰭を振って、駆けて行く子供達を見送った。
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