1-11 特別任務
ほどなくして絵本が王都から届けられた。なかなか豪華な装丁でわくわくしていた。自分で捲るのは大変なので、暇を見てはエニスに頼んで読んでもらった。エニスの可愛い声で読んでもらうと、また楽しい。
「ブルーってば、本当に変わっているわねえ。海の生き物が本を読みたがるなんて。村の人だって、そうそう読んだりしないわよ。字の読めない人もたくさんいるのに」
「エニスは、本読むの上手いよね」
「うちは、お爺ちゃんが博学だからね。漁師なんてやってたら勿体無いくらい」
ブルードラゴンの物語は、全8巻の素晴らしい物だった。何故こんな長いお話にしたのか、よくわからないが。きっとブルードラゴンは、みんなから愛されていたのに違いない。
ふと街道に目をやると、また馬車が走ってくるのが見えた。俺は高さがあるので遠くまで見渡せる。高い場所から見れば、地平線の距離は遠くなる。確か計算式があったはずだ。
うーん、思い出せない。
「王子様がまた来たみたい」
「へえ、今度は何の用なのかな」
エニスに絵本の続きを読んでもらっていると、王子様の馬車が到着してご本人がやってきた。エニスは何事もないような顔をしている。動じないというよりも、私には関係ないわみたいな感じだ。女の子だし、まだ子供のせいもあるんだろう。村の人でも大人はまた違う。
ほら、村長さんが息せき切って駆けてくる。村長さんは小太りで運動不足気味のようだから、いい運動になるんじゃないかな?
「こ、これは王太子殿下、本日は如何なされましたかな」
「う、うむ。実はブルーに頼みたいことがあってな」
「頼み?」
俺は不思議そうな顔をして訊いた。
「うむ。お前をドラゴンの中のドラゴンと見込んで頼みがあるのだ」
「嫌だ、王子様ったらお上手~。もしかして、また何かの引き揚げの話?」
そう言いつつも、俺のご機嫌は急上昇中だった。相変わらずのチョロゴンぶりだ。エニスが呆れたような顔をして見ている。
「いや、そういう訳ではないのだ。例のお前が持ってきてくれた、隣国からの贈り物の件なのだが、現在ゴタゴタしておってな。引渡しの話もしづらいという現状で、父である国王も頭を痛めておる。そこで、お前に我が国の使者を務めてもらいたいと思ってな」
ええー、それは無謀じゃないですか? みたいな顔をしてエニスが顔を顰める。もう、エニスったら。確かに、俺は頭の出来には自信が無いけどな。
王子様もそれを横目で見ながら付け加える。
「まあ、そう案じるでない。親書を届けてくれるだけでいいのだ。それと贈り物をな。お前の美しい姿を見れば、そう無碍に扱われはしまい。それにお前なら、向こうが驚いて攻撃してきたとしても、簡単にやられてしまったりはしないだろうしな。船で使者を送ったら、途中で砲撃して追い返されてしまったよ。頭が痛い事だ」
それはまた。まあ、やってもいいんだけどな。
「褒美は何くれる~?」
体をくねらせて、ちょっと媚び媚びで訊いてみる。
「そうだな。お前の欲しい物を用意してやろう。何か考えておくがいい」
「わーい」
「大丈夫かなあ」
エリスが心配そうな顔で見上げて呟いた。
「大丈夫、大丈夫~」
俺は浮かれて、褒美について考えてみた。鏡! 絵本! 後はどんな素敵な物があるんだろうか~。
「やれやれ……」
とにかく隣国へと行ってみる事にした。王子様も完全に匙を投げており、駄目元で俺に頼みにきたらしい。俺が渡した引き揚げ品も持ってきていた。
「仲裁に入ってくれた、双方と仲のいい国もお手上げの状態でなあ。なんでまた、こんなに関係が拗れてしまったものやら」
王子様は頭が痛そうだ。そのうち、父王の後を継がないといけないものな。隣国との関係が最悪のままで、即位したくはないだろう。へたすれば戦争になる。それは嫌だなあ。エリスが遊んでくれなくなっちゃうかもしれない。第一、村が無事な保障がないや。
「わかったよ。じゃ、チョロゴンだけにちょろっと行ってくるね」
「ああ、頼んだ」
うーん、真面目なリアクションは欲しくなかったのに。この王子様、容姿端麗で能力も高そうだけど、堅物っぽいのが欠点だな。
「隣国というのは、ここから東にずっと行った小大陸にあるハインリヒ王国というところでいいんだよね」
この間の荷物の中に地図が入っていたのだ。
「ああ、そうだ。現王アレクサンドル8世に会いたいと言ってくれ。追い返されずに、親書と宝物を受け取ってくれたら、御の字だ。では頼んだぞ、ブルー」
俺は見送る王子様とエニスに鰭を振って、ザブザブと沖へと泳ぎだしていった。
ふう。やっぱり大海原は気持ちがいいな。俺はご機嫌でぐいぐいと海中を進んでいた。時速350kmほど出ている。魔法で作るスーパーキャビテーションの上から、魔法で水のバリヤーを作っているんだ。このスピードで何かに当たっても弾き返してくれる。
ただ、今回は要注意だ。この世界の船は木造だから、もし隣国の船に当たって粉砕してしまったなんていったら最悪だ。スピードは出していても、魔法による探知や超音波による探索で慎重に進んでいた。
超音波を放っていると、でかいヤツがいても逃げてくれる。放っているヤツがどんなヤツか、受け手にもわかるのだ。だから獲物を逃がさないように、わざと超音波は使わないこともあるが、今日はその逆だ。進路にいられると邪魔臭い。
おー、船を発見した。おそらく、ハインリヒ王国の船だろう。俺は深く海に潜ってやり過ごした。多分、この船はマイヤール王国の使者を通さないために、ここで見張っているのだ。うっかり話しかけたりしたらマズイ事になりそうだ。
ふふっ。怪獣はいきなり沿岸に現れるもんなんだぜ!
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