1-10 財宝引き上げ
「タコ魔人くーん」
「おや、なんだい。青いの」
クラーケンのタコ魔人は、海底でのんびりと8本の足を伸ばすと、リラックスした声を出した。大きな生き物がおおらかで気がいいのは、ここでも当て嵌まっているようだ。
見た目はそのまんま、大きなタコである。ミズダコっぽい感じか。でも、ここの海はミズダコの生育に適したように寒くはないんだけど。なんで、俺はそんな事を知っているのか。
「もう。俺の事はブルーと呼んで、って言ったじゃないー」
「ははは。悪い悪い。して、今日は何かいいお話でもあるのかい?」
「それよ、それ」
俺はタコ壷が手に入るかもしれないという話をしてみた。
「なんだって? そりゃあ凄いな。ブルー、御手柄だぜ」
「でしょう? 早く船の荷物を取りにいこうよー」
タコ魔人君は、その大きな体に似合わない動きで海底からふわっと浮き上がると、水中を猛速で移動し始めた。俺も鰭を高速で動かして、それに付いていった。
移動した先で、深海へと潜水し断層の裂け目のような場所に横たわる難破船。全長50mにもなるのではという大型船だ。その潜伏に開いた裂け目のような穴に、タコ魔人君は触手を伸ばしていった。
「何か見えるー?」
「うーん、まだだね」
タコ魔人君は触手の先で、見る事ができるのだ。普通のタコじゃないからね。
そして、ほどなくして色々な物を引き出してきた。冷たい海水の中でそう痛んでいないもの、あるいは塩分にやられてボロボロになってしまったもの。剥き出しの金属で出来た物は腐食が激しいようだった。
俺はそれらをとりあえず空間魔法で仕舞いこんでいった。粗方の荷物を取り出したので、引き揚げることにした。
「じゃあ、ブルー。壷は頼んだよー」
「うん。あの王子様なら約束は守ってくれそう。じゃ行ってくるねー」
俺はタコ魔人君と別れて、すいすいっと浜まで一泳ぎだった。水中で、体から排出される二酸化炭素の気泡を体の周りに纏わせて、まるでスーパーキャビテーション・システムの潜水艦のように超高速で水中を移動できるんだ。
スーパーキャビテーション? 潜水艦?
また難しい言葉が頭の中に沸いてきたなあ。
まあいいや。俺は浅瀬に上がりこむと、エニスを呼んだ。最近は、“念話”の技術を応用して呼びかける方法を学んだ。仲間を呼ぶ時に使う能力だ。テレパシーみたいなものかもしれないな。テレパシー?
ほどなくしてエニスが来てくれた。彼女も、いつも浜辺で仕事しているわけではないのだ。
「どうしたの、ブルー。あれ? もしかして、もう船の積荷を取ってきたんだ」
「うん。近いところにあるからね~」
近いといっても、50kmはあるけどなあ。
「村長さんに言って、代官さんを呼んでもらってよ」
「わかったー」
エニスは可愛らしく浜辺を駆けていった。
やがて村長さんが駆け付けてきた。
「おお、ブルー。首尾はどうじゃった」
「上々だよー。でも海の中にずっと浸かっていたんで、結構ボロボロかなあ」
「それは、いたしかたあるまい。今、街へ使いをやっておる」
俺達は無駄話をしながら、代官がやってくるのを待った。エニスがこうしているのは珍しい。今日はたまたま網の修繕の仕事がないらしい。家で繕い物をしていたようだ。
やがて遠くに、馬車が2台と騎士達が飛ばしてくるのが見えた。王子様も一緒に待っていたらしい。
「ウミウシよ、積荷は見つかったのか!」
やや興奮気味の王子様が捲くし立てた。
「うん。でも、だいぶ痛んでるよ。海中に長くあった物を空気の中に晒すと、急激に痛むかもしれないから注意して」
「お前、頭悪いとか言いながら、何気に物知りだな。確かにそういう話は聞くな」
俺は、ごっそりとお宝を出してみせた。
大昔の金貨。純度が高いらしくて、そう痛んではいない。腐食した装飾品は銅の合金かな? 青銅かもしれない。木製の飾り物は大丈夫そうだが、空気に晒したのでどうだろうか。
そして王子様は、2つのエンブレムを刻み込んだ机の上に置く事ができるようなプレートと、「友情の剣」と書かれた剣を手に取った。そして、変わった形をした首飾りのような物。
「でかしたぞ、ブルー。これこそ探し求めていたものだ。早速隣国に届けねばなるまい。どうせ痛んでしまうのだ。後の物はお前が預かっておいてくれ。金貨などは報酬としてやろう」
ウミウ……いやドラゴンがそんな物もらってもと思ったが、いつかエニスが必要になる時がくるかもしれない。たまに海の中で拾うから他にもたくさん持っているんだけど。光っていると、つい拾ってしまうんだよね。金塊とかいう物も沈んでいることがあるし。
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