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あの、FPSゲーマーですけど。ジャンル違うんですけど。  作者: きょーま(電傳)
第三章 ありんこ達をやっつけろ!!
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72 皆の声

「で、どうします?変更はできないのですよね?」


 腹を押さえてうずくまるカイトの横で、レイミーがそう問いかける。カイトがうずくまっている理由は、言うまでもない。


「変更は出来ない事は無い。ただ、均等な配分というのはパズルのようなものだ。先程は何とか上手く調整できたから良いが、またとなると時間が……」


 恐らく俺達とカイト達を入れ換える際、他の人達まで変更されたのだろう。

 二百人のハンター全員の能力を(かんが)みて配分を行っているのだ。時間が掛かるのは当たり前だ。実際、フィナさん達は一晩中掛けて配分したのだし。


「ですよね……だったら、もう風吹さんと凛さんがやるしかないのですが……」


 しばし、皆は沈黙する。

 高機動部隊とか言われてもな……フィナさんが言っていたように、臨機応変に立ち回らないといけないらしいが。つまり遊撃部隊という事だ。 

 果たして、その役割が自分に勤まるだろうか。相手は中級モンスター程とはいえ心配である。まぁ、フィナさん達はサポートすると言っているし、変更も出来ないからこの際やる他無いのか……

 そんな事を考えていると、凛が俺のコートの端を軽く引っ張ってきた。


「私は構わないよ?やることそんなに変わんないだろうし、大丈夫。やるよ」


「ああ……分かった」


 凛の性格上、やると言うだろうとは思っていた。確認も出来たし、だったら……


「ちょ、ダメよ!いくらなんでも、いきなりそんなのを……」


 イリーナさんが俺の前に出てそう言った。すると、よろけながらカイトが立ち上がり、それを制する。


「い、いや……ゲホッ……本人達がやらせてくれって言うなら、別に構わねぇんじゃないか?」


「「「「……」」」」


 どの口がそんな偉そうな事言えるんだ。


「………この期に及んで調子に乗っているのなら、また一発喰らわせましょうか」


「い、いや……もう結構です……」


 レイミーが睨みを効かせ、カイトは引き下がる。


「話を戻しますが、レミントンさん。風吹さんと凛さんは確かに強いです。それは保証します。ただ、お二人はハンターを初めて入って一ヶ月程で、ハンターの経験自体は浅いです。二人の能力なら僕達の代わりでも大丈夫だとは思うのですが、最終的な判断はそちらに任せます」


「わ、私は大丈夫とは言ってないわよ」


 イリーナさんが再度反対するが、レイミーは揺るがない。


「カイトさんの言う通り、能力も見合っている事ですし、本人達がやる……まぁ(なか)ばしょうがなくですが、そう言っているなら止める理由はありません。何事も経験ですし、活躍の場を奪う権利は僕達にありませんからね」


 やたら前向きの発言だな……そこまで俺と凛の能力を評価してくれているのか。嬉しいが、少し重荷にも感じて複雑な気持ちである。


「……俺も、二人の強さは保証するぜ」


 カイトもボソッとそう言った。

 二人の発言を受けてか、イリーナさんは「別に、風吹君と凛ちゃんじゃ出来ないって言ってる訳じゃないのよ……」と言い、それ以上反対しなくなった。

 能力はあっても経験値(ハンター歴)の低い俺と凛を心配し、イリーナさんは反対してくれたのだろう。でも、すまないが今回はやらせて貰おう。


「じゃあ、やるということで」


 俺がフィナさんにそう告げると、彼女は迷う事なく答える。


「分かった。私自身、風狙君と峰薪の事をよく知らないが、上級ハンターである君達が保証するから了承したのだ。今さら止めはしない」


「よし、決まりだな!!じゃあ、現地行こうぜッ…」


 メキャっ!!!


 調子に乗ったカイトに、本日二発目のレイミーの拳が下った。


「行くぞ。中心となる私たちが遅れてはどうしようも無い」


 悶えるカイトを放置したまま、フィナさんに続いてギルドの扉に向かった。その際、フィナさんは誰にも聞こえないくらいの小さな声で、ため息を吐くように呟いた。


「(なんでこんな奴が上級ハンターになれたんだ……)」


 ごもっともです。





∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗





「あれ?あんなに沢山いたのに、何処行ったんだろう……」


 中央広場に出た途端、凛がそう呟いた。

 何の事か、俺もすぐに分かった。朝方広場にいた大勢の馬車が、全部居なくなっていたのだ。先に見えるハンター達が列を成して歩く大通りも馬車は大分減り、道が広くなっている。


「ああ、私達が出発するまでの間に、道を開けておく手配をしておいたのだよ」


 フィナさんはそう言いながら、入口の前に用意されていた馬に跨がる。


「街の門は全て封鎖してたんじゃないんですか?」


「いや、実は西側の門を今朝解除したんだ。蟻が巣を張っているのは街の真東だからな。ハンターが移動出来ないのでは意味が無いだろう?」


 成る程、そういう事だったのか。


「まぁ、作戦が始まる時には閉めてしまうがな」


 手綱を軽く振るい、馬を前に進める。それに並んで俺達もハンターの行軍に加わった。


 やはり、作戦が始まる時には閉じるのか……といっても、蟻にとってはあの高い壁だって、ただの乗り越える障害物にしか過ぎないし、あまり関係無いのだが。気休めといった所だろうか。


 だから俺達が、街の前で食い止めないといけない。


 そんな事を思いながら、いつもと変わらぬ街並みを横目に大通りを進んでいると、前の方が騒がしくなってきた。

 何事かと首を伸ばすと、ハンターの列の両脇に人だかりが出来ていた。


「あれは……」


 凛やイリーナさん達もそれに気がつき、背伸びをしたりする。そしてなにやら、応援のような声が聞こえてきた。


「頑張れー!!」「勝ってこいよ!!」「頼りにしてるからなーっ!!!」


 そんなアデネラの住民の声援が、ハンター達に降り注いでいたのだ。列の両脇で手を降っているだけでなく、大通りに面した建物の窓からも、ギルドの紋章が入った旗を振っていたりする人までいる。まるでパレードのようだ。

 

 突然の住民からの声援に皆は驚いているようだが、フィナさんは至って冷静であった。そして静かに語り出す。


「実は昨夜、町内会にいざという時に避難して貰う為、話に行ったのだがな……その時に、この話が持ち上がったんだ」


「応援……ですか?」


「ああ。『こっちも、ハンターが解決するまで黙ってるなんて事は出来ない』と言ってきてな。通行の邪魔にならないようにすればなんでも良いと言ったのだが……」


『ヒューヒュー!!生きて帰ってこいよ~!!』


 紙吹雪が舞っているのは気のせいだろうか。勝利した後の帰路じゃなくて、これから戦いへと向かう行軍なのだが……


「……まぁ、良いじゃないか。ハンター達の士気も上がる事だろう」


「そうですね……」


 間も無くして、俺達も声援の中を通る事になった。住民の声援と共に、紙吹雪や花びらが降り注ぐ。……だから、これから戦うんだってば……


 フィナさんは表情を変えずに悠然と。レイミーとイリーナさんは若干戸惑うものの、胸を張って堂々と。凛は恥ずかしいのか頬を朱に染め、少しうつ向きながら大通りを進んでいく。

 俺はというと、こんな経験は初めてだからやっぱり気恥ずかしくて、目のやり場に困ってしまう。緊張を紛らわそうと知り合いの顔を探してみるが、この大人数では見つけられそうになかった。結局、高校の入学式みたいに緊張した面持ちで、真っ直ぐ前を見て歩く事になる。


 なんだか恥ずかしいし、今から行くのだからこんな事止めてくれなんて思ってしまう。ただ、住民の一人一人の声が。俺達ハンターに対する期待と信頼する心が。それもそれでなんか嬉しくて。より一層、蟻に対する闘志が湧いてきたのであった。


「……やるのか」


 自分の口から、そんな声が漏れ出した。

 作戦会議の時に言われた蟻の数。森の奥で別動隊が当たる60匹も合わせ、1300匹を仲間と共に大草原で討伐するのだ。

 初めてこの瞬間、それを実感をした。やり遂げなければ、この人達の声援に答えなければ、アデネラの街は無くなってしまう。その事実を、自分達しかやる者はいないという事を再認識させられ、拳を固く握り締めた。


 すると凛が俺の肩を小突いてきて、こう言った。


「風吹……緊張し過ぎ」


 お前が言うなよ……

 俺、そんなに固くなっていたのか?それとも、凛も気を紛らわすために、こんな話をしたのか。


「顔、怖かったよ?」


「そ、そんなにか?」


 自分の顔に触れてみるが、そんなんじゃ分からない。鏡が欲しい……


「ん。大丈夫になった」


 凛はそう言って、にこやかな笑顔をした。その顔を見たお陰か、俺も少し気が和らぐ。


「そうか……ならいいけど」

 

 結局、俺と凛は買い物に行くときみたいな雰囲気のまま 

東門にたどり着いてしまった。

 住民の列もそこで終わり、敬礼する門番を横目に大きな門をくぐり抜け、アデネラの街から外の世界に踏み出す。

 

 背後で閉まり行く門を感じ、今一度街の方に振り返る。だんだんと狭まる街並みの中に、まだ声援を送り旗を振る人達の姿が合わせて見えた。

 だが、それもとうとう見えなくなり、ハンター達の装備の擦れる音と足音。調査団の乗った馬の蹄の音。一見平和に見える草原を駆ける、風の鳴る音。それだけが、俺の感覚を刺激する。

 閉ざされた門。壁に囲まれたアデネラから視線を離し、前に向き直った。

 

 既に俺の中で、戦いは始まっている。






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