63 事前準備
「レスト。作戦は後程伝えるから、今は引き続き周囲警戒をしつつ動向を監視、動きがあった場合は直ちに連絡してくれ」
『ん、分かった。またね~お姉ちゃん』
「……ああ。現場は任せた」
光らなくなった通話石から、皆は改めてピンの配置された地図に目を向ける。
改めて地図にある情報をまとめると、蟻達は街の東の平原に本拠点の巣。更にそこから北東方面に向かって支線を伸ばし、その先に小さな拠点を作っている状態だ。そしてそれらの中には合計1500余りの蟻。その周辺のは広範囲に拡散している出撃ポイント。
「本拠点も重要だが、先ずは小拠点を叩く別動体を編成する必要があるな……」
フィナさんがそう言いながら今度は緑色の、よく戦略マップで見るような凸の形をした駒を取り出す。……どっからそんなに出てくるんだよ。というか準備良すぎ。
フィナさんはしばし口元に手をやって考え込む動作をし「地形的にここが最適か……」などと言いながら駒を動かしていく。
最終的に複数の駒は、中心にある三ヶ所の出撃ポイントを半分囲うような形で配置され、小拠点の方にも1、2個配置された。
「平均的に配置するとこうなるが……分隊員一人一人、そのパーティーの能力によっては細かな配置は変わる。ギルドの登録者一覧と、その中で出撃できるハンターを知りたいのだが……」
そう言ってフィナさんが会議室の扉……というよりはギルドの方向に顔を向けた。
「……細かな作戦を練るには時間がかかる。他のハンター達には先に把握できている情報を伝えて、明日に備えて貰うのが懸命だろう」
「分かりました……じゃ、取り敢えず皆。ギルドカウンターの所まで行きましょう?」
レイナさんに促され俺達ハンターはフィナさんと共に会議室を後にした。
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他のハンター達に続いて廊下を抜け、ギルドカウンター内に出ると、入った時と変わらない喧騒に包まれる。
「ハンターの皆さ~ん!!ギルドカウンターに注目ーーー!!!」
レイナさんが手を口元にやって大きな声で呼び掛けると、固まっていたハンター達が気がつき、話すのを止めてカウンターに向きなおった。それを確認したレイナさんは、コホンと咳払いをしてから話初める。
「今回ハンターの皆さんに集まってもらったのは、知っての通りこの非常事態に対応してもらう為です。様々な憶測が飛び交っているでしょうが、先程調査団の方々から詳細な情報が送られてきました」
レイナさんは一拍おいて皆の顔を見回す。
「このアデネラの安全を侵そうとしているのは、王都指定第一級危険生物に指定されている『蟻』という中型モンスター達で……」
それからは先に俺達に説明したような、街の東の草原に大規模な巣があること。その中に1300程の蟻がいること。そしてハンター達をいくつかの分隊に分け、出撃ポイントを爆破して攻撃する事などを全員に伝えた。
しかし、ハンター達はレイナさんが話を終えると口々に「そんな奴ら相手にできんのか?」「いくらなんでもそんな……」「おいおい。冗談だろ」と言い、ギルド内が一気にざわつく。
当然か、街を1つ滅ぼした事があるモンスター達を相手すると聞いたら、誰だって飛んでもない話だと思うだろうし。
「……しっかりと戦線を保てば大丈夫ですから……って皆聞いてるっ!!??」
みんな互いに話し合っていて聞いてない。
すると、黙って聞いていたフィナさんが声を張り上げた。
「皆の者よく聞けっ!!!」
そう叫んでフィナさんが……ギルドカウンターに登り、立ち上がった!!マジですか……
ハンター達の視線が一気にカウンターの方に集まり、レイナさんが「あ、あの……」と引きぎみに言うが、フィナさんは構わずにギルド中に声を響かせる。
「いいか ! ! 相手は第一級危険生物に指定されてはいるが、その理由は数と結束力にあり、一個体はさして強くはない ! !」
それを聞き、静かになったハンター達は顔を見合わせる。
「いかに効率的に蟻を狩り、前線を維持できるかが勝利の鍵となる。私の立てる作戦に従い、皆の実力を発揮してだえくれば勝てない相手ではない。だから今日は皆、明日に備えてしかと準備をしてほしい。以上だ」
話を終えるとカウンターからヒラリと降り立ち、元いた位置に戻る。横に並ぶ上級ハンター達は横目でチラチラと見るが、全然気ににしていないようで。
「と、取り敢えずそういう事ですので準備はしっかりと……明日再集合は……」
レイナさんがフィナさんに視線を送ると、フィナさんは顎に手を当てて考え込む。
「そうだな……作戦説明や事前準備の為に、7:00には全員に集合してもらいたい」
「分かりました……皆聞いたわね?明日は寝坊しちゃダメよ。じゃぁ…………解散!!」
レイナさんが手をパンと鳴らし、三度ギルドが騒がしくなる。
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ハンター達が一気に移動を開始し、出入口付近があっというまにすし詰め状態になる。しばらく出られそうに無い。
フィナさんとレイナさんは早速ギルドカウンターの内側に入り、先程の扉の奥に消えた。
俺の横に立っているカイトがふとぼやく。
「しばらく出られそうにねぇな…………」
すると、何か思い出したような顔で俺の方に向き直った。
「そうだ。まだ今日のクエストのついて詳しく聞いてなかったな。何があったか教えてくれねぇか?」
「ん?ああ。今日のクエストは…………」
イリーナ、レイミー、凛を交えて今日のクエスト。あのやたら強かったラージェスト(LL)コボルトについて話した。
一通り今日あった事を話し終えると、三人は眉を潜めたり腕を組んだりして難しい顔をする。
「……風吹さんと凛さんがそこまで苦労するとは……そのコボルト。明らかに異常です」
「そうね……それに凛ちゃんの火炎魔法だったら、よっぽど魔法耐性がないと防げないんだけど……」
しかしLLコボルトには、殆ど魔法耐性は無いモンスターだ。
「亜種とか希少種みたいなものですかね?」
凛がそう訪ねるとカイトは首を横に振る。
「いや、この情報だけじゃなんとも言えねぇな……ま、回収班とこに行って、その死体を確認して見ればなんか分かるだろ」
「そうだな……」
「ま、今はそれどころじゃねぇか……」
そう言ってカイトは、空いてきたギルドの出入口に目をやる。確かに、今は明日の作戦に備えて準備しないといけない。と言っても、何を準備すればいいのかよく分からないが。
「どうだ。一緒に買い出しに行くか?」
するとカイトが親指でギルドの入り口を指してそう言う。
「ああ」
「よし。じゃあまずはキラーナ通りに行くか……たぶんで人いっぱいだけど……」
カイトに続いてギルドの出入口へと向かう。
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「うわ……酷いな……」
ギルドから中央広場に出た瞬間に、カイトが口からそう漏らす。
まぁ……酷いっちゃ酷い。ハンター達はある程度解散したものの、街の門が通行止めになっているせいで、中央広場は馬車でぎっちりと詰まっている。
「ったく……迷惑なモンスターだぜ……」
ぶつくさ言うカイトに続いて広場の端を歩き、大通りへと出る。ここも馬車でいっぱいだ。そのまま道の端を歩き始める。
「なぁ。具体的に何を買うつもりなんだ?」
レイミーにそう聞くと少し考えこむ。
「そうですね……取り敢えず風吹さんの矢の補充と、凛さんの大剣のメンテナンス。予備の回復ポーションの購入とかですかね」
「分かった……」
そうか……それなら手持ちのお金だけでも足りるだろう。最近のクエストで数万バイト稼いだばかりだし。
そんな事を考えているうちに大通りを左折。キラーナ通りに到着した。そして通りにある店達には……
「「「「「うわっ……」」」」」
当然ながら、行列だらけだった。




