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62 実行可能な作戦は

ギルド内会議室にて──────


『伝令。地中捜索が完了し、蟻の正確な戦力が判明しました。巣の中心となる本拠点に約1360頭で女王蟻も最深部に確認。支線にはそれぞれ数頭の蟻が巡回しているのも確認──』


 声と同調するように青く発光する通話石から、調査員の男の声が聞こえてくる。それを聞いたフィナさんは青ピンを動かしながら「大体予想通りね……」と呟いた。


(なお)、本拠点から北東方面へ太い支線が伸びており、直線にして約6レトラ。その先に小拠点が形成されており、そこにも約60頭程の蟻がいる模様』


 フィナさんはそれを聞き、青ピンの囲いを北東の森の中に追加した。……レトラってのは初耳だけど、距離的にレトラ=キロメートルといった具合だろうか。


『巣の内部の様子ですが……』


 調査員が淡々と報告を続けようとするが……


『あっ、あの……ちょっ……』


「……?」


 向こう側で何か起きてるようだ。会議室にいる皆は何事かと顔を見合せる。すると調査員が小さな声で。

 

『(レストさん ? 今は交信中でして体に登るのは……え ? お姉ちゃんなら替われ ? それはレミントンさんの事ですか ?……いやしかし……は、はあ……分かりました……)』


 素に戻ったような話し方をしていた調査員は、咳払いをしてからまた最初の調子で。


『その……「詳しい事は、その道のプロフェッショナルが伝えた方がいい」との事で……レストさんに替わります』


「あ、ああ……」とフィナさんが困惑気味に答えると、次に通話石から聞こえてきた声は、跳ねるようなハスキーボイスだった。


『あ、もしもし~?お姉ちゃん?』


「……フィナ・レミントンだ」


『オッケー……えーっとねお姉ちゃん。先ずは蟻さん達の情報ね……』


 どうやらミーナが喋っているようだ。……フィナさんに対する態度が他の調査員の人より軽いけど、あの子は一体どんな地位なのだろうか。それにさっきの男の人、ミーナに対して敬語だったし。


『今の所、女王蟻は卵を殆ど産み終えたみたいだから、孵化した蟻達が成長するのを待ってるみたいなの。だから今は小拠点を通じて森に入って、ひたすらモンスターを狩ってるみたい』


……なるほどね。どうりで最近、東の森でのクエストが少なかった訳だ。


『──襲撃をかけるのは恐らく、皆が成長しきってから。このペースで成長してくと……全部成虫になるのは、2日後のくらいかな』


「了解した」


『それとね、蟻さん達って頭いいみたいでね。もう出撃ポイントを準備してるみたいなの』


「……出撃ポイント?」


 フィナさんが眉を潜める。 


『うん。幾つかの地点の地表ギリギリまで掘って、一挙に飛び出せるようにしてるみたい。位置は全部分かったから、座標伝えるね~』


 そう言うと、ミーナは淡々と数字の羅列を喋り出す。それを聞いて、フィナさんが緑色のピンを巣の周辺にポンポンと配置していった。……ミーナが言っているのは座標かな。よく見ると、地図が薄い点線で正方形に区分けされ、番号が振られていた。


『どーお ? 分かった?』


「ああ。位置は全てマークした」


 合計9個の緑色のピンが、巣とその周辺に配置された。出撃ポイントは円形の城壁に沿うように、等間隔に扇状に広がっているようだ。


「マズイな……こんだけ広範囲に広がってると、真ん中で迎撃する奴らが包囲されちまうぞ……」


 そう言いながら、カイトは地図上の緑ピンを見つめる。


 出撃ポイントは等間隔で配置されているのだが、その間隔が微妙に遠い。カイトの言うようにこれだけ範囲が広いと、とてもではないが前線を維持するのにハンターの数が少ない。

 やられなかったとしても、前線に穴ができてそこから陣地に侵入されてしまう。そうなったら、蟻達は包囲殲滅しようと中央にいるハンター達を集中攻撃してくるだろう。


「……確かに、一斉に全部のポイントから出られたら終わりだな」


『ま、十中八九。全部から出てくるだろうけどね~』


 こちらの重い雰囲気に似合わぬ、軽い感じでのミーナはそう言う。……なんでそんな軽いんだか……そう思ってると凛が。


「どうせなら、攻撃してくる前にこっちが攻撃するのはどうですか ?」


「……どうやって ?」


 俺がそう訪ねると、凛は人差し指を口元に持っていき、考え込む動作をして、しばし黙りこむ。


「うーん……地面を爆破して巣を全部晒す。とか……」


 いい案な気がするけど、全部だと1300頭の蟻が一挙に出て来て大変な事になる気が……一部分なら大丈夫だとは思うが。

 そう思って手を上げようとすると、フィナさんが先に口を開き、代弁してくれた。


峰薪(ミネマキ)だったか?悪くない案だが、全ての地盤を爆砕しては蟻が全部出てきてしまう。やるなら迎撃しやすい箇所だけだ」


 フィナさんはそう言いながら、地図に目を落とす。


「巣の上部開けるとしたら、爆砕するのはこの辺りが適切そうだが……」


 そう言って、巣の縁の部分を指差す。


「……レスト、話は聞いていたな。地表から巣までの距離は最短で何メトラある?」


「えーとね……50メトラくらい」

 

 深っ!!地下50メートルって10階のビルくらいなら、すっぽり入る程の深さだ。六本木駅より深いぞ……


「……そうなると、ポーションや魔法での爆砕は無理だな」


『そうだね』


 それを聞いて、期待して少し明るくなっていた皆の顔がまた暗くなる。


「……そうだレスト。お前の大地属性の魔法でなんとかできないのか?」


『う~ん……私の魔法でも、流石にこれは無理っぽい。しかも蟻さん達が闇属性を放ってるせいで、尚更無理』


 大地属性……?なにそれ。


「……そうか」


 そう言ってフィナさんが肩を落とす。どうやら、凛の先制攻撃で巣に穴を開ける作戦は不可能のようだ。

 何か他に無いかと、皆黙りこくって頭を悩ませる。


 緊急事態ということにして……というか緊急事態だから、何か武器召喚させてもらえないかな……C4爆弾とか地中貫通爆弾(バンカークラスター)とかなら、数発で巣に穴開けられそうなんだけど。蟻の殲滅だって簡単……の筈だ。……まぁ許可されたところで、皆の目があるから使えないんだけども。

 

 改めて思うけど、武器召喚って不便。凛以外の人に見られちゃいけない訳だし。



……他に何かいい作戦が思い付くだろうか。巣に(こも)ってる奴らに先制攻撃を仕掛けるんだったら、巣をつっつく=穴を開ける以外にない。けど、地面が厚すぎて開けられ……ん?

 ふと、ミーナの話していた事が頭に引っ掛かった。


「あれ……出撃ポイントって、出やすいように地面ギリギリまで掘ってるって……」


 皆の視線が、一挙に俺に集まる。


「「「「『あっ……』」」」」


 どうやら皆も、俺が何が言いたいか気づいたようだ。

 すかさず、フィナさんがミーナに問いかける。


「レスト。出撃ポイントの地面の厚さは?」


『2メトラくらいかな……爆発魔法でも余裕』


 出撃ポイントとは、蟻が出やすいように地表までの距離が短くしてある。ミーナがそう言っていたのを、さっき思い出したのだ。


「作戦としては、出撃ポイントの二、三ヶ所を強制的に開けて、他のは何かで塞ぐ。そうすれば、上手く蟻を殲滅できるんじゃ?」


 俺はそう言ってフィナさんの顔をちら見する。……この案はどうだろうか。これ以上何も思い付かないので、却下されないかが心配だ。

 フィナさんはしばし胸の前で手を組んで地図をじっと眺めると、通話石に向かって話だす。


「レスト。出撃ポイントの封鎖はできるか?」


『そんくいなら大丈夫 ! ! 地中動かして塞げるよ~』


「よし……ならばこの作戦が、現時点で最も有効な作戦だと私は考えるが……異論、又は他の案がある者は?」


 そう言ってフィナさんは皆の顔を見回す。皆はそれを受けて、「この案に賛成だ」「異論は無い」「いいんじゃね?」「いいと思うわ」と口々に言う。


「それなら風狙風吹(かざねらふぶき)の案を採用。『出撃ポイント爆破での先制攻撃作戦』として、分隊員及び陣形を決めていく」
















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