59 緊急帰還
「緊急事態って……何があったんですか?」
俺がそう訪ねる半ば、彼女は手綱を握り直し、調査団が駆けていった方を見据える。
「私も直ぐに行かなければならない……情報は既にギルドへ伝令済みだ。詳しい事は、ギルドに行ってから聞いた方が良いだろう」
「そう……ですか。でも、僕たちは今クエストの途中で……」
それに、今回のクエストは大事な最終試験で……
それも伝えよう思ったが、その前に彼女は口を開く。
「構わん。クエストを中断して、直ちにアデネラのギルドへ戻ってくれ。緊急時でのクエスト中断の罰金は取られないようになっている筈だから、心配はいらない」
俺と凛は黙っていると彼女はこちらに向き直り、俺を見てそのまま話を続ける。
「……とにかく寄り道せず、真っ直ぐギルドへ行ってくれ。ギルドに戻れば何かしらの指示が待っているだろうから、出来るだけ早くな。……いいな?風狙君」
「はい……」
分かりました。と言い終わる前に彼女は「ハイヤァッ!!」と高らかに言いながら腕を振るい、マントと白く長い髪をはためかせながら、馬に乗って駆けていった……
「最終試験だってのに……」
……別に、俺は金とかの問題を気にしていた訳ではない。ただ、あれだけ苦労して一頭目のLLコボルトを倒したというのに、ここで中断させられるのが堪らなく残念で、悔しいだけだ。それに、武器召喚だって……
懐中時計を握る拳に思わず力が入り、彼女、そして他の調査員と謎の者が過ぎ去っていった先を見つめていると……
「風吹、早く行こう?」
振り向くと、森の先で凛が手招きをしていた。
「……ああ、分かった」
……今回のクエストがラストチャンスという訳ではない。だったら、最終試験と武器召喚は次のクエストに持ち越しにすればいいだけの話だ。折角一匹目を倒したが……それはもう、しようがない。
握りしめていた懐中時計をポケットに放り込み、凛に続いて街へと走り出す……
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一瞬たりとも足を止めることなく森を駆け抜け、その先にある街へと続くなだらかな下り坂に差し掛かると、前方にはアデネラの城壁にめり込むチリア山と北東門が見えた。
見たところ、それらに異常は無いようだが……北東門から伸びる大きな馬車道の様子が、いつもと違う。
いつもなら絶え間なく街へと流れ込む馬車達は、現在は途中で止まるかそのまま引き返して、門のすぐ手前では、十数台程の馬車が立ち往生しているのだ。
「どうしたんだろうね……」
凛は走りながら、遠くを見てそう呟く。……異常事態と、何か関わりあるのか……
「……さぁな……ま、つけば分かるだろ。今は走る事に集中しようぜ……」
本当は、俺が頭に酸素を回してる余裕が無いだけだけども。
「うん……」
そろそろ、走るのキツくなってきた……
∗∗∗∗
チラチラと馬車を気にかけながらも、そのまま黙々と走り続けること十数分程。門まであとちょっとの所まで来たけども……
「はぁッ……はぁッ……ちょ、もうムリ……」
いくらFPSゲーマーの能力があるとはいえ、元はただの高校生ゲーマー(帰宅部速攻ゲーム:FPS派)。一時間も全力疾走していたら流石にバテる。しかし、凛の方は……
「そ、そんなに…… ? 私は大した事ないけど……」
汗一つかかないとは言わないが、軽くジョギングした程度にしか見えない。
「……」
なんか、悔しいというか、情けないというか……って、なんでRPGゲーマーがFPSゲーマーより勝ってるんだよ!?どっちもスタミナ有り、無しが混在してるってのに……それともあれか?プレイ時間が関係してるのか? だったら絶対凛に敵わないけど……
水筒の水を一気に飲み干し、ゆらゆらと歩いてなんとか門まで行き着くと……さっきから聞こえていた声が、はっきりと聞こえてきた。
「───どういう事だよ!!こっちは5日もかけて来てるんだぞ!?分かってんのか!!」「そーだそーだ!!」「こっちは冷却魔法石が無くなりそうなんだよ!!魚がみんな腐っちまう!!」
「いや、しかしですね……」
馬車の持ち主だろうか。ガタイのいい男数人が、道を塞ぐよに門の前に立っている守衛達に怒鳴り散らしていた。そしてその様子を、他の商人や街の人が何事かと傍観している。
「なんだろうね……」
「さぁな……」
結構怒ってるみたいだけど。守衛の数人も押され気味だが、なんとか両手を広げて「ダメなものはダメです!!」と言って抵抗する。そんなのじゃ、あの男達を止められるとは思えないが……
丁度近くにいた、あたふたしている守衛の一人に話しかける。
「あの、あそこで何があったんですか?」
ビクっ!!と反応したダメダメ守衛は、ハンカチで汗を拭いばがら答える。
「あ、その……街の周辺で緊急事態が発生したということで、安全の為に門は全て封鎖。この街に来た馬車達は、入れられるだけ入れて、他は帰ってもらうという措置を取ってるんですが……」
そう言って守衛は門の中。外から街の中心までを繋ぐ大通り指して。
「この通りで……」
門から街の中を覗くと……そこには馬車で埋め尽くされた大通りがあった。
「うわっ……」「こりゃ酷いな……」
「ええ、全くもってその通りで……もう他の馬車が入る余地が無いんですよ……」
これじゃあ何と言おうと、街に馬車は入れそうに無い。すると、守衛が俺と凛の服装を交互に見て。
「あの、ハンターの方々は早急にギルドに集合しろとの命令が……」
守衛がそう言い終わる前に、門の前で怒声が上がった。
「あぁ!?なんだってんだこの野郎」「こ、コラっ!!?止めなさい!!」
そう言った一人の男が守衛に掴みかかる。……あーあ、とうとうやっちゃった。
守衛と男取っ組み合い始まる。それを見た目の前の守衛は
「ぼ、僕も行かなきゃ……!!で、ではこれで失礼しますっ! !」
そう言って、慌てて騒動の中心へと突っ込んでいった。弱気な割に大胆な様で。
「……後は任せて、俺達も早くいこう」
「うん……」
まだ若干疲れているが、この際はしょうがない。辛さをこらえてギルドへと、大通りの端を走り出す。
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ペースは落ちながらも、なんとかギルドに到着する。ギルドの扉を押し開けると……
「「うわっ……」」
ギルドの中は、受け付けラッシュや夕食時と比べ物にならないくらいのハンター達でごったがえしていた。この船型のギルドの建物はかなり広いはずなのに、移動するのも一苦労しそうな程の量だ。
俺と凛は大量のハンター達を見て、思わず一歩後ずさる。取り敢えずカイト達合流したいが……こんなので見つけられるだろか……
そう思いながら喧騒の中に立ち尽くしていると、目の前の人混みから……
「───ちょっと失礼、ああそこどいて、はいどうも……」
カイトの声が聞こえて来たかと思うと、人混みからカイトが出てきた。
「よっ、フブキ、リンちゃん。無事に帰ってきて何よりだ……」
「ああ……」
あんまり無事では無かったが……
「だいぶ早かったけど、クエスト終わったのか?」
カイトは期待した顔で、俺と凛を交互に見る。なんか期待を裏切るようで悪いが、全部話すしかない。
「その、実はだな……」
カイトにこれまでの経緯と異常なLLコボルトの事も全部説明すると、カイトは次第に険しい顔になり。
「異常な強さのラージェストコボルトか……何かあれと関係が……」
ぶつぶつとそう言いながら、後頭をかき
「まぁ、それについては後だな……」
すると、カイトが向き直ってニカっと笑い。
「ま、とにかく無事で良かった。それ、今回が最初で最後の試験って訳じゃ無いんだ。そんな気を落とすなよ」
そう言って、俺と凛の肩をポンと叩く。
「それにタイミングもいい。……とりま、俺についてきてくれ……」
タイミング……?
俺が思うなか、カイトがそう言ってまた人混みの中に入っていく。俺と凛も他のハンターを避けながら、カイトについていった……
おまけ
・止めに入った気弱な守衛 注)三人称
「き、君!!止めないか!!」
守衛はそう言って喧嘩を止めようと、勇敢にも騒動中心へ突っ込む。
「あ?!なんだテメェは!!」
しかし男に全く効果はなく、逆に……
ポカッ!!
「フギャッ!!」
男の拳ひと振りで、守衛は軽くはね退けられた。
「おらぁ!!雑魚はいらねぇからもっと強い奴来い!!」
「親方!!主旨が変わっています!!」
「お前もだよ!!」
他の数人も加わり、さらにヒートアップしていく。
「もう……ヤダ……」
昇進できない理由は、気弱以外のこれにもある。
因みに、そのあとは他の守衛が参戦して、無事に騒動は収まったそうな。




