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57 フレンドリー&フレンドリーファイアー!!!

 


 頭に電撃のような痛みが走り、またもや視界が暗転。足の力が抜けて地面にぶっ倒れる。内側と外側から来る痛みで頭が割れそうだ。クっソ痛ぇ……日に何回倒れりゃいいんだか……ここまで酷いと人生って、嫌な事しかないんじゃないか。とそう思っていると……


「――風吹(ふぶき)……!!」


 草を掻き分けて走る音と、凛が呼ぶ声が遠くに聞こえてくる。そうだ、凛が……

 その音が近づいてくると……また電撃のような痛みに襲われ……


 再び、意識が飛んだ。




∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗




「うっ、うう……ひぐッ……私の…私のせいで……風吹が……」

 

 再び意識が覚醒すると、俺の頭上……というか顔の真上から、泣きじゃくっている凛の声が聞こえる。


「……ほらほら、そんなに泣くことはないさ。ただの脳震盪のようだから、命には関わらんよ」


 そして俺の革コートのポケットから、凛を励まそうとするじいさんの声が聞こえてきた。


 意識は戻ったものの、まだ頭にはじわじわとした痛みが残っている。そして心なしか、後頭部には地面とはちょっと違う、少し柔らかい感触。

 頭が何かの上に乗っているような気が……


 そんな事を思っていると、凛がまた泣きそうな声で「ふ、風吹が……わ、私のせいで……」と言い、じいさんがまた「まあまあ。そう気を落とさんでも……」と励ます。

 

 ……これ以上心配かける訳にもいかないな……

 そう思い、俺は重い目蓋(まぶた)を細く開けると……

 目に涙をに浮かべた、今にも泣き出しそうな、悲しい顔をした凛の顔がそこにはあった。


「うっ……ううぅ……」


 凛は目が涙でいっぱいしているせいか、俺が薄く目を開けた事に気づかない。俺が口を開こうとすると……先にじいさんが凛に呼びかけた。


「ほら、気がついたみたいだぞ?」


 じいさんにそう言われて凛はハッとなり、黒いセミロングの髪が揺れ、涙の滴がいくらか俺の頬に落ちた。

 凛はそれを自分のハンカチですぐに拭い……


「ふ、ふぶ……き」


「凛……」


 目をしっかりと開け、俺は凛の事を見つめた。

 別に、そんな悲しそうな顔をしなくてもいいのに……


 しかしそんな、「そこまで気にするなよ」という思いと共に、「そこまで俺の事を心配してくれてるのか」と思うと嬉しさを感じるのも、また事実だった。


────ていうか。この状況は……


 少し禿げた草地にうつ伏せに倒れている俺の頭は、間違いなく一段高い何かの上に置かれ、そこからはちょっとした柔らかさと、温かさが伝わってくる。そして俺の目に映る上下逆さまの、俺の顔に影を落としている凛の頭。視界の上端に映っている凛の服と、頭のてっぺんの柔らかい感触。

 これらを総合して、今の状態を冷静に考えると……


「……ひ、膝……枕 ? 」


 そう思わず口に漏らすと、凛がどうしたのかと俺を見つめる。


「……へっ?」


「あ、いや……なんでも……」


「そ、そう……」


 ……なんでもじゃ無い。間違いなくこれはそれだ……なんで今俺はこんな嬉しい状態になっているんだ?俺はこの場に生きていて良いのか?……いや、俺は既に死んでいて、天国かなんかにいるのか?

 そんな感じで思考をめぐらせていると、じいさんが喋りだす。


峰薪(みねまき)君。この懐中時計を、風狙君の頭の所まで持ってきてくれんか?」


「は、はい……」


 じいさんにそう言われた凛は、俺に膝枕したまま前屈みになって、俺のコートのポケットへと手を伸ばす。……すると必然的に、凛の上半身が俺の顔に被さるわけで。

 しかも「あ、あれ……?」と腰を浮かせてポケットを探るもんだから俺の頭が少し持ち上がる。すると時折、凛の胸とおへその間辺りの服が擦れて、少しくすぐったくて。そしてほのかな、甘くて良い香りが伝わってくる。


 人生捨てたもんじゃない……というか俺、やっぱり死んでるのかもしれない。

 そう思い初めていると、凛は懐中時計を見つたのか上半身を起こした。あーあ……至福の一時終了。べ、別に?もうちょっと探しててくれなんて、思わないもん!!

 

 勝手に頭の中で葛藤していると、凛は俺の銀色の懐中時計を俺の頭の近くへ持ってくる。


「文字盤を風狙君の顔に向けてくれんかね」


 じいさんに言われ、凛は俺の顔の前……正確に言うと真上に懐中時計をかざし、文字盤を顔へと向けた。


「……こうですか?」


「うむ、いいぞ。少しそのまま固定していてくれ……」


 じいさんがそう言うと、文字盤の中央から、いつしか地図を差し示す時に出ていたレーザーポインターのような緑色の光の筋が伸び、俺の額に伸びて這い回る。


「フムフム……脳震盪が起きたようだが、だいぶ自然回復しているようだな。幸い、後遺症も無いみたいだぞ……だが……」


 そう言ってじいさんは言葉を詰まらせ、ウーム……と唸る。


「だが、倒れた理由は他にもありそうだぞ?だいぶ脳に負担がかかって………」


「ああ、たぶんそれは……」


 体質のような物なのだが……凛で言えば「スイッチが入った」と言ったところか。あの凛がゲームで鬼強くなるヤツ。

 FPS(ゲーム)中、一時的に思考力、判断力、反射速度が急激に上がる現象。それになった時は、自分でも驚く位の驚異的な強さになるのだ。ゲーム内でしか役に立たないものだったが、今回は貰った能力のおかげで、凛の「スイッチ」の様に、現実で使う事が出来たのだろう。


  しかしその反面、少しの間それになっただけでも、その後に猛烈な痛みが頭を襲うので堪ったものではない。

 今回は貰った能力で、ある程度なら軽減できると思ったのだけども……結局は脳震盪とのダブルパンチで倒れてしまった。


「……ちょっと、本気出しすぎたって感じだ」


「なんじゃそりゃ……」


 じいさんはため息をつくようにそう言った。


 ……あれには今まで数える程しかなった事がないし、とあるFPSの世界大会に出た時も発動しなかったから、自分でも発動条件はさっぱりだ。……なんでこのタイミングで起きたのやら。


「しょうがないだろ……自分でも良くわかんねぇんだから」


「へぇ……まぁ大丈夫そうなら、それでいいんだが……」


 大して大丈夫ではないんだけど……

 そう言いたいが、凛のことを思い、あえて口にはしない。



∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗



 まぁ、結果オーライか。二人とも助かったし、ラージェストコボルトも狩れたし。それに……

 視線を、倒したLLコボルトから凛へと移していると……


『ぴとッ……』


 と、ひんやりした物が俺の額に貼り付けられた。

 な、なんだ……?

 そう思って額に手をやると……


「その……濡らしたハンカチ……」


 そう言って凛は、俺が見える位置に水筒を持ち上げて見せた。凛は少しだけ頬を朱に染めて目を逸らし。


「ちょっとでも……良くなるようにって……」


「あ、ありがとう……」


 凛……お前……

 すると、凛は俺の顔をチラチラ見ながら不思議そうな顔で。


「その……風吹、さっきから顔赤くなってるけど大丈夫?水足す?」


「えっ?いや、別になんも……十分冷たいから大丈夫……」


 いつの間に赤くなってたんだろう………ますます恥ずかしくなってきた。なんか、このまま凛の膝の上にいたら沸騰しそうなので、おでこに乗せられた濡れたハンカチを押さえ、上体を起こす。


「起きて大丈夫……?」


「ああ、だいぶ良くなってきたし」

 

 そう言って、凛と向かい合うように地べたに座った。

 すると、凛は少しうつむきながら口を開き……


「ごめんね。風吹……私が……私の魔法制御が下手で、爆発に巻き込んじゃって……」


 凛の声が次第に、また泣きそうな声になってきて……


「……そもそも、私が風が止まっても気付かなかったのが原因だよね……大きな魔法も、もう近くで……使わないようにするから。う、グスっ……もっと周りに気を付けるから……だから、許して……」


 凛は涙を拭いながら、震える声でそう言い終えた。

 そんなに気にしてたのか……


「……なに言ってんだ」


「……ふぇっ?」


 俺がそう言うと凛はすっとんきょうな声を出し、顔を上げて、涙を浮かべた瞳を俺に向けた。

 

「それって……」「別に謝るような事じゃないし、俺はちっとも怒ってない。ってことだよ」


 そう言って俺は凛を見つめ返す。


「あれは状況が状況だったし、風は止まる物だってのを考慮しないで作戦を立てて、コボルトの足止めが出来なかった俺も悪い。だから今回の事はおあいこだ」

 

 それに……


「凛、結果的に俺はお前に助けられたんだ。多少俺まで吹っ飛ばしたからって、気にするこたぁねぇよ……」


 これは嘘とか、慰めの言葉じゃない。


「ありがとうな、凛」


「風吹……」


 凛の頭を優しく。でもちょっと強めにクシャッと撫でると、凛ははにかんで、また溢れてきた涙を袖で拭った。


「私も……ありがとう。最後の時、風吹が射ってくれなかったら、私勝てなかったから」


 そう言って、凛は俺の真似をするように、俺の頭を誉めるようにポンポンとし始めた。……可愛いやつだ。

 そして次に……


「「どういたしまして」」


 俺と凛の声が同時に発した言葉が重なり、凛はクスクスと。俺はハッハッハと笑い初める。



 結果よければ全てよし。いや、笑う門には福来る。か……











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