51 明日は最終試験
今回地の文が多いですが、数日間の事とちょっと重要な事を詰め込みました。飛ばさず読んでくれたら幸いです。では\(_ _)……
それから数日の間、俺達はカイト達と共にクエストを受け続けた。共にと言っても、カイト達から戦術や特性などの様々な事を教えてもらいつつ、俺と凛での連携攻撃や凛単独での大剣や魔法での攻撃、俺一人での弓攻撃なんてのをやっていたので、実際にクエストをこなしていたのは俺達だったが。
それなのでカイト達は「俺達はただ教えてるだけだし、クエスト報酬は全部持ってっていいぞ」なんて事を言ってきたのだが、俺達が助けたお礼や上級者ハンターの義務だったとしても、自分達の時間を削って俺達にハンターのやり方を教えてくれるのだから流石にそれは気まずい、と言ってなんとか断ったりと。そんな事もありながら、俺と凛はここ数日でハンターとしての力をめきめきと付けていった。
おかげでカイト達からは次あたりで受けるクエストは最終試験として受け、その少し難易度の高いクエストを俺達だけでクリアすることが出来れば、もう一人前にやっていける許可が下ろせるぞとの事だった。
最終試験を受けてもいいという許可は、教育を担当するハンターとギルドの人が下ろすのだが、カイト達もレイナさんも特に悩む事もなくパッと許可を出した。こんな短期間で最終試験を受ける許可が下りた新人ハンターは、この街では非常に珍しいとの事だった。天界から貰ったチート能力と、能力の高さに直結する俺と凛のゲーマーとしての強さ。この2つがあったからこそ、出来た事だろう。
俺はFPSの世界大会で優勝した奴らを一人でフルボッコにしたり、無双しすぎてチートと勘違いされてBANされたりと、まぁ一応FPSで敵なし。凛の具体的な戦績が分からないが、以前の鬼神のような強さは、横から見ていてよく知っているし。その後は、底なしの廃人ゲーマーの凛が自分の部屋にずっと引きこもっていったのだから、1日の大半はRPGとかMMOをやっていて更に強くなっている事だろう。
そんなゲームの腕に関しては右に出る者がいない俺と凛。俺は「なんかそれって、将来絶対に必要ない能力だな~」なんて高校で授業を受けながら、ふと思っていたりした事もあったが、異世界に来てこんな形で役に立つとは夢にも思っていなかった。……勿論この能力を生かして、プロゲーマーの道に進むという選択肢もあったのだが、趣味でやってるFPSを色々な制約のある職にするのも嫌だったし、そもそも他の奴の実力が俺と釣り合うとは思わなかったし、共闘する気もさらさら無かった。だから、いくら世界中のクランや組織からオファーが来ても、全部断ってやった。しかし今思うとその選択は、とてつもない間違いだった……
次の瞬間。ふと、過去の記憶が頭をよぎった。
∗∗∗
鳴り止まぬ、玄関の戸を叩く音と罵声が響く毎日。そして隅で怯える自分を優しく抱き締め、慰めてくてた母がいた日々。
自分以外誰もいない家で、額縁の中で微笑む母にどうもしてあげられなかったと、自分を責め続けた日々。これ以上、世界で不幸な奴がいるものかと思った日々。
いつも以上にFPSと二次元の世界にのめり込み。いや、ただただ現実逃避するために、架空の世界の中で過ごしていた日々を……
ただ、その元凶となった男。あいつの事だけは今になっても憎み、呪い続けている。それは今、俺があいつがいる世界と違う世界にいようとも、変わることがない。普段その感情は心の奥底に押し込み、決して表に出ないように隠し続けていたいる……
「クソっ……」
思わず悪態をつく。
こんな事、思い出すんじゃなかった……今どうこう考えた所で、どうにかなる事ではない。全て、過去の出来事だ……
過去の記憶を強引に心の奥底に押し込み、グラスに注いだ水を一気に飲み干した。
∗∗∗∗∗
……大体、こんな能力……というか特技を持ってなかったら、そもそも異世界に行かされる事も無かったのだ。というか、俺の能力はそもそもこの世界に適して無いんだけも。今の所、オマケ能力みたいな弓使いをやって、なんとかやってはいるが……弓だもんなぁ、弓。なんだかなぁ……
そんな事を思いながら、タオレ荘の自室……凛と俺の部屋の窓辺から、夜空に浮かぶ大きな月を眺める。
現在はクエストを終えて夜ご飯も食べて風呂も済ませ、ちょうど10時を回ったところだ。俺は弓の手入れのをするためにまだ起きているが、可愛い廃人ゲーマーさんの方は疲れてベットの上でスヤスヤと眠っている。
イリーナさんの話だと、消費した魔力は夜に寝て回復できる物らしく、魔力を過度に消費すると眠くなりやすいとの事だ。普段は全然問題ないみたいだったけど、今日はクエストが終わった後も新たな魔法をぶっ放して練習していたからだろう。勿論初めて使う魔法ばかりで、調節が効かなくて地形を変えそうになった魔法もあった。
「RPGゲーマーは、やっぱ違うよな……」
そう呟きながら、窓辺から離れて手元の魔法ランプだけを点けて、テーブルの上に置いた弓の手入れに取りかかる。この弓は「僕には必要ない物なので」とレイミーに貰った物だ。弦を外していると……
「……風狙君。ここのところ、調子はどうだ?」
テーブルの上に置いてある懐中時計から、じいさんの声が聞こえてくる。
「まぁまぁって感じだよ……」
少し面倒だったが気を紛らわす為、話に付き合う。
「まあまあか……でも、風狙君も峰蒔君もハンターとしての腕はだいぶ上達したのではないか?」
「まぁな……」
……たしかに、ハンターとしての技能はしっかりと身に付いたし、弓の技術はこれ以上ないって位まで上達したんだけども……
「なんか、違うんだよなぁ……」
はぁ……と、ため息をつきながら丸テーブル側の椅子に座る。
「なんじゃそりゃ?……まぁいい。とにかく、君自身のFPSとやらの能力であっても、この世界でも十分にやっていける事が分かったのだから、よいではないか」
じいさんが嬉しそうにそう言った。
俺は懐中時計の方をキッ!!と見て、弓をいじっていた手を止める。
「はぁ?全然良くねぇよ」
「でも、カイト達も凄いと……」「ぶっちゃけ、自分が使いたくもない武器使ってその腕前が評価されても、こっちとしてはなんも嬉しくねぇんだよ……」
「は、はい……?でも、この世界でやっていけると分かったのは……」
もういやだ。この際ずっと思っていた事を打ち明けよう。
「俺はな……俺はもう、チマチマチナピュンピュン矢を飛ばして、モンスター狩るのはうんざりなんだよ!」
「ええ~!?弓でじゃんじゃん狩って、弓の技能をグングン伸ばしてるのに、そんな嫌いだったのか!?」
このジジイはこの期に及んで、まだ分かっていないのか。
「あったり前だ!!こんなのなんも楽しかねぇ。まだマスケット銃(火縄銃)の方が百倍マシだっ!!」
「そんなに嫌だったのか!?じゃあ、なんで弓を使い続けて……」
「そんなの人目があるからに決まってるだろ。そして俺は剣も魔法もサッパリだ。そういうのもあって俺は銃が使いたい。だから次、俺と凛だけで行くクエストでは銃を使わせてもらう。以上だ」
俺はキッパリとそう言い、弓をテーブルの上に置いて立ち上がった。
「いや、まてまてまて!!銃の召喚はダメだからな!?それに動機が完全に私情挟みまくってる理由だし!」
「確かに俺の趣味ではある……」
「認めたっ!?」
事実。俺自身がちょっとつまらないとか、やるせないとか、そういうのもある。けれども……
眠っている凛の顔を見つめながら。声のトーンを落とし、改まってじいさんに話しかける。
「……でも、俺が異世界に来た理由はあくまでも、凛の事が心配だったからだ。だから最初に襲ってきたゴーズキの時みたいに、いざという時は俺が凛の事を護れるようにしたい。だけど、俺の溜め射ちが出来ない弓の技能じゃそれにも限界があると思ってる。だから、もしもの時の為に銃の練習はある程度しておきたいし、後の魔王討伐にも銃は必要なんだろ?だったら、少しくらいは許してくれよ。あくまでも、銃を使う練習の為に」
「風狙君……」
じいさんは、それ以上何も言わない。……納得してくれたか。
「じゃ、明日はFAMASとかM-16A4とかG18とかACE-23とかACW-RとかAEK-971とかMG4とかRPG7とかM1エイブラムスとか一通り召喚して銃の練習するって事で、ヨロシク」
「そうか……風狙君にも、それなりの理由が……っておい!!お前、自分の好きな銃をブッ放したいだけだろ!?というか、ロケランとか戦車混じってるし!!そんな趣味の為に……」
懐中時計の摘まみを引き、部屋の中はしんと静まり帰る。
そして、一瞬だけ摘まみを元に戻す。
「―――お前はそもそも天界規定を……」「おやすみじいさん。明日頼むぞ」「頼むぞって、おい!!――」
……さてと、明日は俺と凛だけでクエストを受けるのだ。いざという時に助けてくれるカイト達はいない。気を引き締めて行かなきゃいけないな……そう思いながらランプを消してソファーに寝ころがると、意識はすぐに落ちた……




