49 「大剣……」「魔法で」
ガラガラガラ……いつもの、石畳の大通りを往来する馬車の音。しかし、耳のいい俺には違う音が混じっているのが分かる。……ん?これは……息の音?
目を開けてグリンと首を左を回すと……凛の顔が。
「「わっ!!」」
同時に声を上げ、俺はソファーごとずり下がり、凛は尻餅をつく。
……何してたんだよ。取り敢えず起き上がって、ソファーから降りる。凛も立ち上がっり、顔を見合せてぱちくり。……なんも言わんのかい。
「おはよう凛」 「お、おはよう風吹」
凛に名前を呼ばれた瞬間。昨晩の事を思いだして恥ずかしくなり、目をそらして頬を指でかく。
そして何故か、凛も少し頬を赤らめる。
「その……今日の朝はどうしたんだ?」
「きょ、今日は起こそうかと思ったんだけど……」
凛は視線を落として、もじもじしだす。
「……俺が先に起きちゃった。と」
「うん……どうやって起こせばいいかなって……」
相変わらず完全フル装備で、大剣を背負った凛はそう言う。……起こしてくれとは言わない。けど、起きたら目前に凛がスタンバイというのは困る。心臓的な問題で。
「別に、わざわざ起こさなくてもいいよ……」
わざわざ起こそうと思ってくれるのは、俺としては嬉しいけど。
そして、優しく揺さぶって起こしてくれるのが理想です。出来れば、優しく声を掛けてくれるのも……
「お、お腹空いたから。それとクエストにも行きたいから……」
「……そうか」
色気の欠片もない理由だな。それに俺、まだ着替えてないんだけど……
「先に降りてていいよ。準備まだだし……」
「分かった!」
凛はあっというまに部屋を出ていく。さてと、俺も装備整えて行くか……
∗∗∗∗∗
ささっと着替えて、じいさんに気を付けながら装備を整える。これ以上銃の気配?を察知されたら、言い訳がしづらいからな。銀行へ出す書類も忘れずに手に持ち、部屋の鍵を閉めて階段を降りる。……結局、今日はじいさん。何も言わなかったな……ま、こんな日もあるか。
そう思いながら、いつもように一階食堂へ。凛は既に用意された朝食にがっついていた。
俺も席について朝ごはんを食べ初めると……
「あら、風吹君おはよう。昨晩は楽しかったわよ♪」
家主さんが俺の両肩に手を乗せて、そう声をかけてきた。昨日のハイテンションが抜けていないのか?
それに、楽しかった。って……別に……
「……お、おはようございます」
「ごめんなさいね。昨日の夜、刺激しちゃって。フフっ。でも反応、可愛かったわよ♪」
「ゲホッ!!」
思わず咳き込む。な、なんて誤解されるような事を……
「ふ、風吹!?」
凛がえっ!?という顔で、俺と家主さんの顔を見比べる。
「いや、なんも無かったからな!!?」
「ええ~忘れちゃったの?」「いや、そういう事じゃなくてっ!」
家主さんは、面白そうにクスクスと笑う。
「あ、あわわ……」
やめてくれ~凛がどんどん引いていくから~
そんな感じで、異世界生活5日目。訓練生活4日目が始まる。
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なんとか凛の誤解を解きながら、馬車と人が大量に行き来する大通りを通って、中央広場へ。ギルドに行く前に、書類を出す為に銀行に入る。
相変わらず静かで、奥で作業する音だけが大理石の床に響く中、白髪のおじいさんのいる受け付けへ歩み寄る。
「あの、昨日の住民登録の書類を持ってきました」
二枚の羊皮紙をカウンターに並べる。
「承りました」
そうおじいさんは言って、書類に目を通すと……
「トウキョウト……」
眉をひそめる。いい加減この反応にも慣れた。しかし、おじいさんはそれ以上何も言わずに、奥へと持っていった。
「……住民登録は完了でございます」
「……はい」
なんか、あっさりと終わったな。おじいさんはそのまま続ける。
「税金の徴収に関しては、銀行口座から自動的に引かれる仕組みとなっておりますので。お気をつけ下さい」
へぇ……自動的か……
「こちらが詳しい説明書になりますので」
そう言って、おじいさんは字がびっしり書かれた羊皮紙を渡して来た。
「ありがとうございます」
羊皮紙を降り立たんで革コートのポケットにしまい、銀行を後にする。
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そして、いつも通りのギルドへ入ると……
まず目に入ったのはあのゴツい王都から来た討伐団……もとい調査団。相変わらず銀色に光る鎧で完全防護している。
「では、南の森へ調査に行く。何かがあればこの通信石で連絡するのでいつでも出られるようにしておけ。以上だ」
「承知しました。お気をつけて……」
レイナさんが頭を下げるが、リーダー何も言わずにはマントを翻してこちらに向かい、部下達もそれについて歩いてくる。
俺と凛は邪魔にならないように道を開けると、こちらに見向きもせず、無言で通過していった。どことなく気にくわない奴らだ……
調査団が行った後のギルドを見渡す。……今日もまた珍しくも十数名のハンター。そして相変わらずの酒場のマスターと受け付けのレイナさん。そして……
酒場の椅子で正座して、イリーナさんに向かってペコペコ頭を下げるカイト。
「――なんだか分かんないけどゴメンっ!!」
……バカかよ。
カイトの謝り方は限りなく0点に近い。いや、あれじゃマイナスだ。謝罪というのは、取り敢えず謝ればいいというものではないのだ。イリーナさんが無視するのも分かる。
「はぁ……」
それを呆れ顔で眺めるレイミー。とにかく、レイミーの所へ行く。
「……おはよう」
「あっ。おはようございます」
「なぁ。カイトとイリーナさんは……」
「ダメダメです……」
だよな。
「一緒に住んでいる人の身にもなって欲しいですよ……あっ、失礼しました。今日のクエストの話をしましょうか」
そう言って、カイト達の席と離れた場所のテーブルに行き、レイミーが一枚の羊皮紙を置く。クエスト受領書のようだ。
「今日も昨日と同じようなクエストで、フブキさんと凛さんの連携攻撃の練習をしてもらいます」
どれどれ……受領書を手に取り、凛と一緒に目を通す。
『依頼主 ギルド
クエスト内容 南部。草原のゴブリンの群れ、及びスモールコボルトの殲滅
サブクエスト内容 ラージコボルトの討伐
報酬 60メガ(60,000バイト) 追加 討伐数×10メガ(10,000バイト)
危険度 ☆6
森から出てきたモンスターを殲滅してください。馬車道に被害が及ぶ可能性があるので、出来るだけ早急にお願いします。尚、スモールコボルトの数は少ない筈ですが、ラージコボルトもいる可能性がありますので、その時は討伐して下さい』
「そうだな……昨日のと似てるな……」「そうだね……」
ラージコボルトがいるかもしれないのか……ま、なんとかなるか。
「今日はもうちょっと、違う連携もやりたいので」
「分かった……で、カイト達は大丈夫なんだよな?」
未だに仲直り出来て無いけど……
「僕達は上級者。仕事に私情を持ち込んだりは……しますね」「だな」
カイト達は……というかカイトは、戦闘中だと思いっきり性格が変わる。それはもう「THE.一流のハンターです」みたいな感じだ。でも、クエスト中であったとしても武器を構えていない時は……ふざけ&間抜け。良いところは何も無い。
「はぁ……とにかく、影響が出ないようにはしますよ……イリーナさん。カイトさん!クエストに行きますよ!!」
やはり、このパーティーの実質的リーダーはレイミーの様だ。
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若干のカイトとイリーナさんの険悪ムードを気にしながら、昨日来たあたりの草原に到着する。
「いたな……」「いましたね……」
かなり離れた場所に、ゴブリンの群れが見える。どうやら移動中のようで、10匹位で列をなして歩いている。
カイトが遠くのゴブリン確認してから、口を開く。
「ふん。あの様子ならエリートはいねぇな。風吹が数発矢を撃ち込めば、あいつらバカだから激昂してこっちに突っ込んで来るだろ。それを凛ちゃんが大……」
「ブリーチング・フレイムの火属性魔法で攻撃ってのはどう?」
「えっ。いや大剣……」
カイトが反論しようとすると、レイミーが睨みを効かせる。
「そうだな……うん。イリーナに賛成」
「……は、はい。分かりました」
凛が若干戸惑いながら頷く。
カイトもイリーナさんも、変な争いをしないでくれよ……
「とにかく、俺が最初にやればいいんだな……」
気を取り直し、弓を左手で構える。
今回はかなりの距離があるな……
俺の確信に近い直感だと、恐らく120m位の距離だ。直感的に分かったのは恐らく。FPSの中で、俺は敵の見える大きさで距離を把握できたから。遠くなれば遠くなるほど、物が小さく見えるというアレの原理だ。
既に俺はゴブリンに遭遇しているので、大きさが分かる。すなわち距離も分かった、という事だろう。
風を読み、重力による弾道落下の度合いも直ぐに算出。矢の軌道は完璧に予測。
「……この距離でいけますか?」
レイミーが不安げに訪ねる。
「ああ。頭一個だって抜けるよ……」
思わずFPS用語を使ってしまった俺の返しに、レイミーは
「は、はあ……」としか言わない。
風の読みは抜かりなし。それに人間・光学視差式距離計とも言われた俺だ。軌道予測にも問題はない。矢をセットして、角度を付けて狙う。弓を限界まで引き絞り……溜められた力を、一気に解放した。
シュビィイイッ!!…………
斜め上に放った矢は、大きな弧を描きながら思った通りの軌道を通って……120m先のゴブリンの行進の、先頭にいた奴の頭を貫いた。
「「おお~」」「やりますね」「風吹やっぱり凄い……」
「ワンダウン(one down)……」
少しだけゲーム的な感じがしたのと、照れ隠しのつもりでそう呟く。
叫び声は聞こえないが、ゴブリン達は明らかにこちらに気がついて、攻撃体制に入っているのが見て取れる。続けざまに矢をセット。連続で1本……2本……遠くで、二体のゴブリンが地に倒れる。
すると、カイトが俺の肩にポンっと片手をのせて。
「そんなもんだろ。後は凛ちゃんにバトンタッチだ」
「分かった……」
残った十体程が、こちらに向かってバラバラに突撃してくる。……まぁ、このまま俺が倒そうと思えば倒せるのだが、連携の練習の為に、カイトの言う通りにあえてこうするのだ。
「凛。頼んだぞ」
「分かった……」
凛が一歩前に出て、右手を胸の前に出す。そして凛の周囲がオレンジ色……炎のような色で染まった。すると、突き出した手の先に大きな火の玉が現れた!!そして……
「ブリーチング・フレイム!!」
凛が叫んだ瞬間。空中でメラメラとする炎は一気に勢いを増し、ゴブリンの群れへと一直線に突っ込んで行った……
頭一個…………遮蔽物で頭一個分だけを晒している状態。
相手にこれをやられると手強い。いつも通りに攻撃できる&面積の小さい頭だけしか晒さない=被弾しにくい。からである。
という事で、こちらとしては、頭のみを狙って攻撃するか、逃げるか隠れるかグレードでも投げるか……
風吹君は、楽々頭だけを狙うことができる腕前を持っている(FPS)
とあるゲームでアプデが入るまでは強かった。(使えた)




