47 Zzz……凛
前回投稿した47 「Zzz」……(凛)を一旦削除。
こちらは(前47)を改稿、分割した物になります。ご迷惑をおかけします。すいません。
改稿したと言っても、そこまででは無いので、(前47)を読まれた方は、読まなくても大丈夫……の筈です。
「な、なぁ……教えてくれてもいいじゃんか!」
「そんくらい自分で考え付け……」
脱衣所で俺が体を拭いて服を着るなか、カイトは腰に巻いたタオル以外をつけず、執拗に俺に問いただしてくる。……近すぎだし、しつこいぞ。さっきから。
「……早く服着ろよ」
そう言って着替え終わった俺はバックを担ぐ。そして抗議するカイトを背に、とっとと脱衣場を後にした。
「教えてくれてもいいじゃんかぁ!!」
「そういうのは自分で解決すべきだ」
お前、俺より五年も長く生きてんだろうが。
「で、でもさぁ!!」
ズリっ!!ドシン!!
次の瞬間。ろくに体を拭きもせずみ追っかけてきたカイトは、滑って転けた。……バカか。
……ったく。そんくらい自分で考え付けよ……じゃないとイリーナさんも可哀想だ。
転んだカイトを置いて脱衣場を出ると、既にイリーナさんと凛は広間のベンチでフルーツオレを飲んでいた。
火照って頬を少し赤くした凛が、男湯の暖簾の方を見て俺に訪ねる。
「なんか音したけど、カイトさんは?」
「ん?ああ、なんでもないよ……多分今、着替えてる頃だと…」
すると、イリーナさんはごくごくと一気にビンの中を飲み干し……
「きっと頭でも冷やしてるんでしょ。先に帰ってましょう」
「「えっ……」」
そこまで仲悪くなってるのかよ……イリーナさんやり過ぎだと思うんですが。というか理由も無理やり過ぎな気が……
そんな事を気にせず、イリーナさんは凛の分のビンも一緒に売り場の横に返却する。
「行きましょう」
「「は、はい……」」
若干気圧されつつ、イリーナさんに続いて風呂屋から道へと出る。
「じゃあ、また明日の朝ね。おやすみなさい」
「はい……おやすみなさい」「また……」
なんか、どんどん悪化してないか?
今更だが、少しくらい教えてあげたほうが良かった気もするな……
∗∗∗∗∗∗∗∗
イリーナさんと銭湯の前で別れて俺と凛はタオレ荘へと帰る。タオレ荘の扉を押し開けて中に入ると、揺り椅子で編み物をする家主さんがいた。
すぐにこちらに気がつき、編み物を置いて立ち上がる。
「あら、お帰りなさい。お風呂帰り?」
「ええ……あ、書類を銀行で貰いましたのですぐに……」
「そう、じゃあ。後で持ってきて頂戴ね」
「分かりました」
そう言って凛と一緒に、3階の部屋へと行く。
ドアを開けて中に入ると、荷物を床に置いた凛が、真っ先にベットへ飛び込んだ。
シーツに顔を押し付けたままの、くぐもった声で。
「今日も疲れた……私もう寝たい……」
「そうだな……」
今まではなんやかんやで、あまり動いて来なかったが、今日は本当にフルで動き回ったし。本格的に狩をしたのも、今日が初めてだし。
「凛、俺は家主さん所に行って……」
スー……スー……
うつ伏せになったまま、何も言わなくなった。
「……凛?」
反応は無い。寝ちゃったのか……下で書類を書くついでに、羽ペンの使い方でも教えてあげようと思ってたんだけど。まぁいいか……
てか、その体勢だと窒息しないか?うつ伏せじゃ息苦しいだろう。仰向けにしてあげようかと思って、近づいてみたものの……
「……無理だ」
幼馴染みと言えども、正当な理由があったとしても。寝ている女の子の体に勝手に触るのはダメだろう。どうしたものか……
「う~む……」と悩んだ末、凛が下に敷いていた毛布を引っ張って転がし、なんとか仰向けにする事に成功した。
「こ、これでいいか……」
ふぅ……なんとか触れずに済んだぞ。
そのまま、その毛布を体にかけてあげる。
「……」
胸上下させ、スヤスヤと静かな吐息をたてて眠っている凛を、改めて見つめる。
あれから、もう一年半か……凛も、俺も。随分と成長したものだ。一年半というのは、以外と大きい物なのかもしれないな……
俺は凛と離れて一年の間、アメリカに行って様々な事を経験してきたし、様々な事も学んだ。その一年で大きく成長したという実感は自分自身でも感じる。
凛だって一年半の間、それなりの経験してる筈……無いかぁ……引きこもってたんだし。しかも不健康……
それでも、凛は内面的にも外見的にも、前よりずっと大人っぽくなったとは思う。
俺が言えた事では無いが、まだ子どもっぽいところもあるけどな。まぁ、まだ15歳だし、可愛いから別にいいか……本当に……
その……凛、このくらいは許してくれるよな?………さっきの紳士対応は何処………引き寄せられるように、スヤスヤと眠る凛の頭に手を伸ばす。そして透き通るような、漆色の滑らかな黒髪をゆくっりと、優しく撫でる。艶やかな髪が、俺の手をくすぐり、手のひらを流れていって心地いい。……本当に、大きくなったな。前よりもずっと、しっかりとしてきた。まだ頼りない事もあるけど、それでも今は十分だ。
それに、これは昔から思っていた事でもあるが……
とっても綺麗な女性になったな。凛。
今だって、俺はそんな凛に見入られてこんな事をしているのかもしれない……いや、実際にそうなのか。凛を思う気持ちは……今も昔も、変わらない……いや、少し変化してきたのかもしれない……
俺自身、今の気持ちが良く分からない。……なんか、情けないな……自分の心が。良く分からない。カイトに偉そうに訪ねたが……自分の中で、凛という存在が何処にあるのか、時々分からなくなる。幼馴染み。仲良し。ゲーム友達。仲間。それとも………好きな人…………恋……人………
カァァアッッ……自分の顔が熱くなるのを感じる。お、俺は何を考えてるんだ……
勝手にドキドキしながら、そんな事を考えつつ。しばらく凛の頭を撫でていると……
「ふぶき……」
「はっ、はいっ!?」
超音速で右手を引っ込め、反射的に敬語で返事してしまう。お、起こしちまったのか?!お、俺は何も、変な事を……
「うぅん……」
凛は目を閉じたまま、そう言って寝返りをうち、横にある枕をギュッと抱き寄せた。
ほっ……起きてはいないな……って……
りっ、凛!??お前今、一体どんな夢を!?
「ふぶ……きぃ……」
凛はそのまま枕をギュッと抱き締めた。そして何も言わずに、幸せそうな顔でスヤスヤ眠り続ける。なんか、見ているこっちが恥ずかしくなってきた。自分の頬が紅潮するのを感じる。
「……」
変な事を考えるな俺。ほ、ほら……あの……冬で吹雪がヤバいという、夢を見てるかもしれないだろ!枕は……しらん。
これ以上枕を抱いた凛を見ていると、妄想がどんどんイケナイ方向に走って行ってしまいそうなので、無理やり視線を離して立ち上がる。
そしてソファー脇の机の前まで移動し、その引き出しから書類取り出した。
∗∗∗
こんな事してる暇無かったんだ。早く家主さんの所に持っていかないと……
改めて記入欄を確認する。住所、氏名はいいけど……出身地とかはどう記入したものか……ギルド登録は『東京』とそのまま書いて、だいぶ不審がられたけども……
じいさんに聞いておこう。懐中時計を取りだし、摘まみを押し込む。
「なぁじいさん。住民登録に書く事について、質問があるんだけど……」
返事はすぐにかえってきた。
「フハハハハ、どうした。幼馴染みの女の子の頭を勝手に撫で回して、変な妄想に耽っていた青年y……」
oを発音する前に、迷わず摘まみを引く。そしてもう一回摘まみを押し込む。
「なぁじいさん。住民登録に書く事について、質問があるんだけど」
「ねぇ!さっきの会話無かった事にしないでくれるか!?折角、どこかの仮面公爵の真似をしてみたのに……」
「訳の分からねぇ事言ってんじゃねえ。それに凛は寝てんだ。静かにしろ」
「……んな事分かっておるわ」
はぁ……つくづく分からない奴だ。
それに、分かってるなら声のトーン落とせよ……
「……てか、何でお前さっきの状況を知ってるんだ?」
摘まみは引いていたんだが……
それに、なんか思考を読まれて……た?
「ん?ああ。音は聞こえなかったが、大体何が起きているかは、こちら側から把握できるぞ……まぁ思考は私の勝手な憶測だが」
……そうか。流石に頭の中は読めないのか……って
「……覗き見とか。やっぱ変態だな」
「なんでそうなる!!覗き見じゃ無いわ!!それに、女の子を撫でて、変な事を考えていたのは貴様だろ!?」
「うっ……そんな事……考えてねえよ……」
結構危ない所まで行ってました。
「ははぁん。その狼狽えぶり。図星だなぁ」
ふふーんと。いう鼻息がきこえてくる。
ジジイのにやけ顔が目に浮かぶ。うぜぇ。
「……女に化けて、地上に降りる奴に言われたくない」
『グワタンッ!!』「イテテ……」
倒れたな。お前も十分動揺してんじゃねえか。
「だから!あれには……その……」
「ただの変態」「ちっ、違うんだって!!」
「はぁ……強情な奴だ。まぁいいや、話を戻そう」
「強情って……そ、そうだな……うん」
こっちも、これ以上触れられると困るし。
「……で、なんだったかな。出身地の事か?」
「ああ。……ギルド登録の時は、適当に東京って書いちまったけど……」
「適当に書くなよ……まぁ、大丈夫だ。現代社会……日本みたいに、いちいちその街を調べて、問い合わせるなんて事無いさ。東京と書いておけば良かろう」
「そうか……ありがとう」
「ウム。礼はいらん」
これなら、聞かなくても良かったな……
懐中時計で覗き見されないように、後で鉛の箱にでも……あ、ポケットに入れてたのに、見えたってことは意味ないか……くそ。魔法ってやつは……
そんな事を思いながら魔法ランプをの明かりを消して、家主さんに会うべく部屋を後にする。




