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43 収穫なし?


 ガラガガラ……

 ふっと、目が覚めると、馬車の音が絶えず耳に入ってくる。

 ソファーに寝そべったまま、近くの小さなテーブルに手を伸ばし、懐中時計を取る。文字盤を見ると丁度、短針が7と重なった所だった。


「ふぁ~あ……よく寝た……」


 昨日はあの後、着替え等を取りに帰って、再びカイト達と合流し、夕食を食べ、風呂屋(銭湯)にも一緒に行った。

 その後は疲れていたため、タオレ荘に戻ったら即行でソファーで寝てしまった。

 ……えーと、昨日寝たのは10時位だったから……結構寝たな。しょうがないか、昨日も一日中体を動かしていたんだから。


「能力があっても、元はゲーマーだしなっ……」

 

 テーブルに懐中時計を置き、ヨイショッ、と体を起こそうとするが……なんだろう、また左から視線を感じる。

 首を左に回すと……また凛がベッドの端に座り、黙ってこちらを見つめていた。完全フル装備で。勿論大剣も背負っている。

 凛は昨日の様に驚く変わりに、先に口を開いた。


「えーっと……おはよう」


「おはよう……」


 取り敢えずソファーから降りて、立ち上がる。


「……今日も起きるの待ってたのか?」


「うん……でも、途中で一回起こそうかと思った」


「そうか……」


 それで昨日より俺に近いんだな……

 凛に起こして貰えるのは、いつになるだろうか。


 勿論、ツンツンは例外でね。



**********



 ささっと俺も装備を整え、下へ……


「ふぁ~……おはよう。風狙君、峰薪君」


 突如、俺のポケットから声が……じいさんの存在、すっかり忘れてた。


「おはようございます」

「……おはよ。モーニングコールには遅いぞ。それに存在忘れてたわ」


「うむ。取り敢えず、今日も一日……って、私は目覚ましじゃぬぁああい!!」


 相変わらずうるさいジジイだ。


「普段役に立ってないし、そもそも出番が……」


 これを言ってはいけないか。うん、いけないな。


「うっ……そ、それについては、前に言っただろう……」


 そういえば、あの時は凛が可哀想だと言って、深くは言及しなかったっけ。

 ……本当に、武器召喚にこれが必要じゃ無かったら、売り払うか捨てているだろう。カイト達に変な誤解もされたし。


「……ま、いいや。とにかくこれから数日は、カイト達とずっと一緒にいることになるから、よろしくな」


「ああ、無駄に召喚とかするなよ……というか召喚するな」


「……せいぜい弓の練習を頑張るよ」


 保証は全くない。

 

「うむ。その心行きだ。では、また今夜」


 短い会話を終え、懐中時計は沈黙した。


∗∗∗


 ポケットに懐中時計しまい、部屋出て鍵を閉め、一階へと降りる。

 今日も家主さんは、受け付け前で箒を掃いていた。

 

「「おはようございます」」


「おはよう。今日も朝ごはん、用意してあるわよ」


 家主さんは笑顔でそう言いながら、俺達を食堂に案内し、朝食の乗ったトレイを持って来てくれた。

 少し腹ペコの俺と凛は、朝ごはん(今日はパン、赤いベーコン、キャベツ的な何かにドレッシングを掛けた物)をささっと食べ終える。


「ごちそうさま」


 そう言って、厨房にいる家主さんにお盆を手渡す。

 すると、家主さんが皿を洗いながら、俺に話しかけてきた。


「そう言えば風吹(フブキ)君。この宿の月極契約についてなんだけどね」


 そう言えば、まだ「そうします」としか言って無かったな……


「1ヶ月ごとに、ここに部屋を借りる。そうなると、この街に住んでいる事になるのよ。実際そうする予定でしょう?」


「ええ」


「そうなると、住民税(・・・)がアデネラの街……つまり、アデネラを治めている領主の貴族に、税金を払わなくちゃいけないのよ。月極めで借りてるだけだから、固定資産税はとられないけどね。とにかく、この街に住むなら、住民登録が必要よ。だから後で銀行に行って住民登録の書類を貰ってきて頂戴ね。私のサインも必要だから」


 なるほど。ここを治めてるのは貴族なのか……流石中世。

 てか、固定資産税もあるのか。……カイトの家とかヤバいんじゃないか?

 

「分かりました。貰ってきます」


「お願いね。後で支払いについても教えるから、今日の夜にでも、私の所に持って来てね~」


 そう言って、家主さんはウインクした。……若いなぁ。これで俺の倍程の年齢じゃなかったら、ドキッとしたかもしれない。いや、少ししてしまった。まぁ外見も十分若々しいが……


 さてと、またやることが増えたぞ……って、この事伝えるの。あのクソジジイの役割じゃねぇのか?後で問いただしてやる。


「じゃ、そろそろギルド行くか……」


「うんっ」


 後ろで待っていた凛を促して、人通りの多い大通りに出て中央広場へと歩き出す。

 斯くして、異世界生活4日目、訓練生活3日目が始まった。



∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗

 

 

 ギルドの扉を押し明けて、船の形をした建物内に入る。

 今日は数名のハンターがクエストボードに鷹っており、酒場ではちょび髭マスターがグラスを拭いている。


 カイト達も既に来ており、カイトは受け付けでレイナさんと何やら話し込んでいる。その後ろにもハンターが一人並んでいるので、取り敢えず、酒場の椅子に座っているレイミーとイリーナさんの元へ。


「おはよう」「おはようございます」


 レイミーとイリーナさんは直ぐに気がつく。


「おはようございます」「おはよう」


 挨拶をしてから凛と共に反対側に座り、俺はレイミーに訪ねる。


「……カイトは何を話してるんだ?」


「きっと、昨日の事件についてかと……」


「そうか……そう言えば、昨日調査に行ったあのおっちゃん達は何か?」


「それがですね……」


 レイミーが難しい顔をしながら、再度口を開く。


「……何も見つけられ無かったらしいのですよ」


「痕跡無しか?」


「いや……そこに何かいたのなら、必ず何かしらの痕跡は残ります……あの人達は、主に物理攻撃系統が専門。ですから、魔法以外の事に関しては、人一倍優れているのですが……」


「って事は……魔法系?」


「でも、それならレイミーもイリーナさんも……」


 凛も不思議そうに訪ねる。


「……僕とイリーナさんの属性に全く反応しな種類か……あるいは……希少で、危険な何か……」


 希少で危険って……上級者であるレイミーがそう言うなら、相当なのだろう。

 すると、カイトが話を終えて、こちらのテーブルへやってきた。

 カイトはイリーナさんの横に腰かけ、口を開く。


「……今、昨日のあれについて話してきた……レイミーとイリーナの魔法にも反応しなくて、バーンの野郎がなんも見つけられない様な、ヤバいモンスターの可能性が高いって事で、交易場の奴らとかの意見が一致してるらしい」


 バーンって昨日のおっちゃんの事かな……

 とにかく、レイミーの言っていた通りのようだ。


「他の魔法使いとか、調査できる人は?」


「あん?イリーナとレイミー以上の魔法使いはこの街にいねぇし。バーンより調査系に優れた奴もいねぇんだよ」


 え、街一番だったの?凄いな……


「じゃあ、どうやって……」


「レイナが王都に調査依頼を出した。直ぐに王都の調査団がやってくるさ……」


 カイトはなぜか苦い顔をしてそう言う。


「……とにかく、あっち方面のクエストは封鎖。農業も近くは禁止。通行する馬車はその近くを迂回させて他の門から入れるそうだ……ったく、面倒なこった」


「流通、そしての妨げにもなりますからね……」


 輸出産業が主なこの街にとっては、結構痛手かもしれない。


「ああ……ま、そこら辺を俺達が心配してたって、どうしようもねぇ。とっととクエストに行こうぜ……」




∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗




 レイミーが掲示板(クエストボード)の元に行き、中級クエスト、☆5のフォルダーから一枚の受領書を選び抜いて、こちらに持ってくる。


「これでどうでしょうか」


「どれどれ……」

 

 カイトが羊皮紙を受け取り、俺達もクエスト内容を読む。



『依頼主 闇夜の霊媒博士


 クエスト内容 街南西部。草原のエリートゴブリン15体の討伐

         

 サブクエスト内容 エリートゴブリンを取り巻くゴブリンの殲滅


 報酬 40メガ(40,000バイト) 追加 20メガ(20,000バイト)


 危険度 ☆5.5


 ゴブリンごときでこれ程の報酬が手に入るのだ。美味しいクエストだろう?では本題へ……


  フハハハハ。私は闇夜の霊媒博士(れいばいはくし)紛うことなき、闇の覇者だ。全ての迷う霊魂をかき集め、救う。これは生き別れた妹の命であり、私が逆らう事はできない。そこで無謀にも、不可能不能という大海原に、私は漕ぎ出し……』


 その後は延々だらだら。意味不明で厨二な文章が書かれてている。……それに、なんで途中にフハハハハなんだよ……


「……まともじゃねぇな」


「そうね」「同感です」「ああ、ヤバイ奴だな」「そうだね……」


 カイトがそう言い、皆それに同意する

 霊魂をかき集めるって……


「なぁ、霊魂って……」


「気にしなくていい。戯言だ。普通に討伐すりゃあいいだけだ」


 ……そうか。それなら良かった。


 改めて読むと本当にヤバイ。コイツ一旦、精神科とかに行った方がいいぞ。厨二ってレベルを過ぎている。


「こんなやつ受けて大丈夫か?」


「一応、俺の友人だ……大丈夫な筈……」


 そんな奴と友達な、お前も大概だな。

更新遅くなりました。

小説の内容に関して、暫くは1日に数話使うまったりペースではなくなります……たぶん


2017/08/07/月


エリートコボルト コボルト を エリートゴブリン、ゴブリンに変更

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