38 謎の二体と人間一体
「れ、レイミーの探知魔法から消えたぁ!??」
受け付けお姉さん……レイナさんがあまり女性らしからぬ声を上げ、ギルド内に奇跡的にいた数名のハンターの注目を集める。
「ああ、信じらんねぇけどな」
「ええ……僕の光属性魔法から逃れるとは……とにかく──」
カウンターを挟んで、肩肘をついて立っているのはカイト。そしてその横にはレイミーも立ち、今日あった出来事を説明している。
しかもギルドの受け付け内には、朝はいなかった職員らしき男も二人おり、奥の机でせっせと羊皮紙に羽ペンを走らせたり、ハンコを押してている。
……なんだ、他にも職員いたんじゃん。当たり前か、街に一つのギルドなんだし。
俺と凛は酒場の長椅子に揃って座り、その様子をしばし眺めている。
イリーナさんは先にギルドの報酬金を換金しに、銀行へ行ってしまった。
まだ説明は終わりそうに無いので、凛に話しかける。
「なぁ。今日の大剣の手応えはどうだった?」
少し考え込み
「……まぁまぁかな」
そう答える。
「そうか……でも、俺は結構凄かったと思うぞ?二撃目なんて、やられるかと思って皆ヒヤヒヤもんだったし」
「そう?私は余裕だと思って攻撃したけど」
そ、そうだったの?結構カイト達も焦るレベルだったけど。……流石引きこもりゲーマーと言うべきかなんと言うべきか……
「うん。最初のあれよりは大分良かった」
「そ、それは言わないでよ!……と、とにかく全然完璧に出来てないから、もっと練習しないと……」
凛は若干気恥ずかしそうにそう言った。
「そうだな……」
過去に横で見てきた俺には分かる。今日のあの際どい攻撃は全然、凛のゲームセンス……能力を引き出した物じゃない。100%の凛ならあんな状況。素手で殺ってしまいそうな所だし……
そう思っていると、レイナさん達の方が騒がしくなる。
「──そうね、それなら調査隊を送らないと行けませんね。直ちに南の森のクエストは全部受領停止。上級者を手配して下さい!」
シーン………何故か奥の男二人は反応しない。レイナさんは再度
「ほら!貴方達!!さっさとクエストの受領証を回収。一般人からの依頼はその人に連絡!」
「はっ、はいっ!」
小柄な一人は、気迫に押されたのか若干飛び上がりつつ、慌てて掲示板の元へ
「ほら、貴方も!昨日遅くまで飲んだ暮れて、まだ出動してないパーティーがあったでしょう!?そいつら起こしてさっさと現地に向かわせなさい!!水掛けても来ても何でもいいから!」
なんだその上級者。そんな奴ら行かせていいのか?
「は、はぁ……」
軽薄で長身な男は、首をかしげつつ、ギルドの出入り口から出ていった。
耳のいい俺には、そいつの漏らした愚痴が微かに聞こえた
「はぁ……俺達、銀行員なんだけどなぁ……でも、美人さんの言うことは聞いとくべきか……」
ギルド職員じゃねぇのかよ。
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「さてと、報告はすんだぞ……」
そう言ってカイトが俺と長テーブルを挟んで向かいに座る。レイミーの方は……
さっきまでの緊張感は何処へやら
「れいみぃ~」
と甘い声でレイナさんが手招きをし、レイミーはため息をつきながら、カウンターにヨイショっと腰かけて、レイナさんと同じ視線の高さにしてから何か話し始める。
俺は率直な疑問を投げ掛ける。
「なぁ……レイナさんとレイミーってどんな……それにレイナさん、今朝からなんか変だし……」
「いや、いつも通りさ。お前達がここに来る前が機嫌悪かっただけだ。それに……」
レイナさんがレイミーの頬っぺたをふにぃー、っと摘まみ、それを払いのけられている様子を一瞥してから視線を戻し
「……それを訊くのは止めとけ。いや、訊かない方が身のためだ。俺だって話したくないし、話したら俺が殺される
「は、はぁ……」
真面目な顔でそんな事を言われるから、腑抜けた返事を返すしかない。どうなってんだよ……それに、殺されるって比喩かなんかだよな?
カイトは気にせずに話題を変える。
「そうだ、イリーナが戻って来たら、俺達ん家で大剣とかの練習をするつもりなんだけど。いいか?」
「習ってんのはこっちだ。任せるよ」
大剣の扱いを習うのは凛の方だけど。
「わかった……」
そういって、レイミーとレイナさんがずっと何かぶつぶつ話しあっている(流石に俺も、内容は聞き取れなかった)音を聞きながら数分待っていると、イリーナさんがギルドに戻ってきた。
直ぐに俺達がの所に気がついてやって来る。
「はい、二人まとめて報酬」
イリーナさんが小さな巾着に金貨を入れて渡してくれた。
「「あ、ありがとうございます」」
俺と凛が礼をすると……
「たぁっく!!誰だぁ!俺に水掛けてギルドに来させた奴はぁあ!!」
腹に響くような大声を放ちながら、デッカイハンマーを肩に担ぎ、薄い黄土色の服の上からでも分かる、筋肉マッチョの大男がギルドに入ってきた。
面倒そーなの来たなー
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後から続いて、キツい、狐のような目をした推定年齢35歳の槍っぽいのを持った女(同い年そうでも、全然タオレ荘の家主さんの方が美人だ)と……あ、昨日行った道具屋さんの、トォールとかいう青年も太刀を背負って入ってくる。
「お前かぁ!?」
間髪いれずに、座って傍観していたカイトに向かって、そう叫んだ。うるせぇ消えろ。
凛がビックリして俺にピッタリと身を寄せてくる。おっちゃん、やっぱありがとう。もう少しやって……じゃ無くて怖がらすんじゃねぇ!埋めるぞ!
勿論言えないが……
するとカイトは体格が二周り以上デカイおっさんの前立って勇ましく……
「ああ?起こしたのは俺じゃねぇが。呼び寄せた原因は俺かもなぁ?デカブツ」
……勇ましく対抗したんじゃ無くて、ただ喧嘩売っただけだった。
「ぅんだとゴラァッ!」
早くも殴り合いそうになる。辺り騒然。イリーナさんまでもが怒ったように立ち上がり、レイミーがすかさず間に入ろうとカウンターから飛び降りると……
「黙らしゃっい!!」
バンッ!とカウンターを叩いたレイナさんがそう叫び、皆の動きが止まった。
「あぁ!?」
おっさんが声の主の方向をにらみ……一瞬ビクッとなって振り上げていた右腕を下ろした。
カイトの方もビクッとなって一歩下がる。
さっきまでカイトのいた位置に立ち、レイナさんが両手を腰に手を当て息を吸い込み……
「あんたが連日、酒ばっか飲んでハンターの責務を果たしてぬぁあいだろうがぁぁあああッッ!!!」
と叫び、凄い形相で睨み返した。俺と凛は唖然。
「ひ、ヒィッ!すいませんでしたっ!!何でもお申し付け下さいっ!!」
ツルツル頭を思いっきり下げると、レイナさんがその頭にビタンッ!!と羊皮紙……恐らくクエスト受領書を貼り付け。
「報酬は出すから。しっかりと調査してきなさぁああいいッッ!!」
「わ、わっかりましたぁあ!!お前達、行くぞ!!」
そう言って、頭に受領書を貼り付けたまま、ギルド……レイナさんから逃げるように出ていった。
……受け付けのお姉さん……やっぱり最強なのか……
するとカイトが。
「ま、俺のおかげで一件落……」
バコォン!メコォオ!!
次の瞬間。レイナさんの持っていたトレイとレイミーの拳が炸裂した。……やっぱりバカだ。
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「痛いよぉ……」
毎度の如く、うずくまっているカイトを放って、レイミーは口を開く。
「……さてと調査依頼も済んだ事ですし、練習にいきますか……」
「お、おう……」
「後は調査結果を待つだけね……」
あんなので大丈夫なのか不安だが……
「……あれでも上級者。僕達より経験の深い人達ですから、何かしら掴んで帰ってくるでしょう……」
「そうね……」
平然と話しているレイミーとレイナさんにとてもじゃ無いがついて行けない。凛も驚きを隠せないようだ。なにか言いげだが、どもってしまっている。
「……あのオッサン、なんでカイトに盾ついてたんだ?」
「あの人ですか……あの人は若くして上級者になった僕達が、気にくわないらしいのですよ……」
とんだ困りもんだな……
「それに……高能力を持つリンさんの教育係が、僕達になった事も原因の一つかと……」
俺が入っていないのが少し気になるが……そういう事か……
「妬み嫉み……と」
「そういう事です……さ、こんな話をしてないで僕達の家に行きましょう……」
「ああ……」
なんとか回復したカイトと共に、皆でギルドを出た。




