37 二体とは……
森を駆けながら、先頭のレイミーにカイトが話しかける。
「こんな所でラージコボルトにちょっかい出す奴。見当つくか?」
「いや……ここら一帯だとラージコボルト以外は……グレシャーウルフが万が一ここまで来ているという可能性も、生命反応の大きさから見て無いとは思うのですがっ……」
「チッ……また変なことをっ……」
倒木を飛び越えつつ、レイミーが更に足を速め、それに続いてカイトのスピードを増していく。カイトとレイミーが、焦っているのがひしひしと伝わってくるようだ。
……あ、あぶねっ!俺も慌てて飛び越える。
「……なぁ!!本当に大丈夫なんだよな?」
サバイバルナイフで、垂れ下がるツタを切り裂きながら俺も問いかける。
「確証はありません!それを確かめに行くのですから!」
するとイリーナさんが、ふと
「……ラージコボルトと同じくらいの大きさって……まさか……」
「それは無いと思いますが……」
えっ……なにそのフラグ。
……今更思い出したが、俺って出来るだけ面倒事には突っ込んで行かない(FPSでも同じ)主義だったんだが……まぁ今回はいいか……
テキトーにそんな思いを胸にしまって、俺も全速力で走り続けた。
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「はぁ……はぁ」
能力があってもそろそろ限界が来そうなんだが……結構走ったぞ……
300メトラ=300mだとしても、既に着いていてもおかしくないはずなんだが……
しかし、カイト達はともかく凛も大して疲れていないようだ。……FPSのキャラってそんな貧弱だったかな……それとも、俺のチート能力への慣れが遅いだけか。
能力があっても元、帰宅部ゲーム派FPS部門所属。とにかく、そろそろムリです。
「な、なぁ……まだコボルトの所に着かないのか?」
マジで……もう……ムリ……
「……3体揃って、僕達から逃げるように移動しています……偶然だとは思いますが……」
「チッ……運わりーな……」
カイトが愚痴をこぼした時、木と草だらけだった視界が開け、草原に出た。どうやら森の中にポッカリと空いた原っぱのようだ。
そこそこ広そうだが、先は隆起していてここからは見通せない。
「距離は?」
「250メトラ先に3体とも止まっ……ッ!」
レイミーが急に足を止めた。俺たちも慌てて止まる。……助かった……じゃ無くてどうした?
レイミーは眉を潜め、険しい顔になった。
「ラージコボルトの生命反応が……もう……」
「それって………」
「限りなく、死に近い……瀕死かと……」
カイトも険しい顔になる。
「他の二体は?」
「まだ近くにいます」
「……上級ハンターとして、この件は見過ごせねぇな……すまないが、風吹と凛ちゃんはここに残ってくれ。俺とレイミーだけで行く」
「そ、そんな」
凛が抗議しようとするが、カイト左手で制し
「……これは異常事態だ。駆け出しを巻き込む訳にはいかねぇ。来ても良さそうだったら合図するから、残っててくれ……イリーナ。ガード頼めるか?」
「勿論よ。……ほら、凛ちゃん。そのあいだに魔法のお話一つして上げるから」
「分かりました……」
凛は渋々引き下がった。……昔よりは少し成長したか。
「そいじゃ……ちょっくら見てくるわ」
カイトさっきとは打って変わって、軽い感じでそう言い、レイミーに続いて草原を走って行った。
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それから数分。草原と森の境目の木に寄りかかって、イリーナさんが凛に魔法の話をしている……てっきり凛に魔法を教えるのかと思ったら、まさかの、あの伝説の魔法使いの話の続きだった。俺も隣の木の根に腰掛けて休む。
すると、白い光の珠がレイミー達の向かった方の空に上がった。きっとレイミーの魔法だろう。
イリーナさんがそれを見て
「……来てもいいって合図ね……行きましょう」
凛を先頭になだらかな坂を越え、平原が見渡せるところに出ると、遠くの方にポツン。と黒い塊と、その横に身長差のある人影が2つ。
凛に続いて小走りでそこに向かうと、徐々にその黒い塊が何かが分かってきた。
間もなくしてカイトとレイミー二人と……体の至るところが、あらぬところに曲がり、捻られたラージコボルトの所に着いた。仰向けに横たわったコボルトの体には、無数の深い切り傷も見え、赤い血がドクドクと流れ出ている。
思わず目を逸らしそうになったが、相変わらずカイト達は冷静に観察し、凛は驚きともなんとも言えない顔で凝視している。……ほんと、皆よく見てられるな……
「な、なぁ……コイツ……」
なんとか目を背けずに見ていると、僅かながら胸が上下している事に気がついた。
「ええ、まだ息があります………このままでは辛いでしょうに……」
そう言ってレイミーはサラリと、鞘から小太刀を抜いた。ラージコボルトの犬のような大きな顔は、苦しそうな顔をしており、虚ろな目はどこも見ていないないかのように見開かれている。
この時ばかりは、人に危害を加える、俺達が狩る対称でしかないと思っていたモンスターも、少しばかり可哀想に思えた。
カイトとイリーナさんが目を逸らし、俺も微動だにしない凛の頭を強引に回転させてから目を逸らすと、シュンっと小太刀が命を絶つ音と、鞘に小太刀を納める音だけが、草原に響いた。
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「痛みを、出来るだけ感じ無いように切りましたよ……」
レイミーがそうい言って一歩下がる。
「いつになっても……命を頂いてる仕事だって事を忘れんなよ……これは上級者ハンターとして教える事と、俺から教えたい事だ。……ちょっと早くなっちまったがな……」
少し照れくさそうにカイトがそんな事を言い、後頭部をポリポリ掻きながらしゃがみこんで、傷口などに顔を寄せて観察し初めた。レイミーも同じように調べ始める。
ハンターも、ただ単にモンスターを狩りまくってるワケではないのか……
……これからはいつものカイトと、ハンターとしてのカイトを別人として扱おうかな……
しかし、色々調べようとしていたカイトはすぐに立ち上がって
「……ダメだ。俺は専門じゃねぇからよくわかんねぇわ。レイミーは?」
「僕もダメですね。素人じゃとても……」
レイミーも立ち上がり。再度険しい顔になった。
あ、すっかり聞くこと忘れてた。
「なぁ。ところで他の二体は?」
「あ?ああ。言うの忘れてたな……それが……」
「『消えた』んです」
「「「えっ!?」」」
俺と凛。イリーナさんが同時に声を上げる。
イリーナさんがすかさず
「レイミー、ずっと探知魔法使ってたんでしょう?」
「それがですね……目視で確認する前に僕の探知範囲から消えまして……」
「外側に行ったんじゃなくて?」
「ええ……反応は僕の探知限界距離よりの50メトラ余裕がありましたから……それなのに途中でフッと反応が消えまして……」
「そ、そんな事って……」
イリーナさんも黙って考え込み初めた。
「再度掛け直したのですが、反応も無く…………とにかく。原因不明です。ですが、今は何処に行ったのかではなく、重要なのはその二体が共にこのラージコボルトを襲って、瀕死に追い込んだということです」
「……それにざっと見た限りじゃ、こりゃ殺しきれなかったんじゃなくて、あえて途中で離したって感じでもあるからな……」
再度検死していたカイトも立ち上がり、そんな事を言い出す。
「とにかく、すぐにギルドに報告しなくては」
「……そんなにか?」
「ええ、ここらは初級ハンターも訪れる場。正体不明のモンスターが出没するとなっては、初級、中級ハンターにとっても十分危険ですからね……」
なるほどな……
「そうね……じゃあ一応これでクエスト完了だし。戻りましょう?」
「そうだな。俺がこのモンスターをさっきの場所まで運ぶ」
コイツ運ぶのか!?……凄いな……
「そしたら回収班をもっかいよんで、街にもどるか……」
「わかった」「分かりました」
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そこからはカイトがさっきの場所にラージコボルトの死体を置いて、回収班を呼び、麦畑の横を街の方向に向かってひたすら歩き続けた。
急いで伝えるためだろう。流石に走りはしなかったが、行きの時よりもハイペースで歩いて行く。
そして体感で一時間ほどして、街の城壁に大分近づいてきた時にカイトがふと
「あ、そういやぁ。今日大剣とかの練習出来なかったな……どうしよう」
「そうですね……フブキさんの弓の練習も……一応?」
やんなくても大丈夫だと思うが……俺は一人で銃を撃つ練習でもしたい所なんだが……まぁ凛の練習もあるしな……今回は見送るか……
するとカイトが
「……家の庭でやるか?」「いいんじゃない?それ」
武器の訓練って家の庭でやるものなのか?
そんな事を思いながら大きな門をくぐり抜け、皆で街へと入って行った……




