32 伊達に引きこもりゲーマーじゃない
遅くなりました。そして今回は自信作……ではなくて自信話!!
「ど、どこだ!?見えねーぞ!?」
カイトがピョンピョン跳ねて、レイミーが指差した方向を見る。
「今は地面を掘り返しているとことですよ……」
「なんで分かるんだ?」
麦はレイミーの背丈より高いし、背の高いカイトからだって見えていないのに……
「気配察知の光属性魔法をですね……」
……なんじゃそりゃ
「す、凄い……」
凛が魔法と聞いて目を輝かせる。
「チェッ……先に教えてくれればいいのに……」
「てっきり、とっくに気がついているのかと」
「……恥かいたじゃねぇかよ……」
自信たっぷりに「あっちにいるはずだ!!」って言ったからな。
「動いたな……」「林の方に向かってますね……」
確かに……麦をかき分ける音が森の方向に移動していっている。なおもカイトとレイミーは相談し続ける。
「……やるか?」「僕達も畑を荒らすことになりますよ?」「そうか……」
じーっと五人揃って身を低くし、麦畑の端を見ていると……出てきた。ここから目測50メートル先。麦の間から、ぬっと姿を表したのは……
「あ、あれは……」
「ラージコボルト。スモールコボルトをそのまんまデカクしたような奴さ。ちっとはスモールよりも、知能と戦闘力が高いけどな」
「へぇ…」
ほぼ真っ黒な体毛の人柄の生き物。頭はさながら犬を不細工にしたような形をしている。体格はあのゴーズキ程では無いが、それでも筋肉が隆起しているのがここからでもわかるし、身長は俺より少しデカイ……大体180センチ位だろうか。図太い両腕の先には、尖った長い爪のついた手がくっついている。
「……お腹いっぱいで森の巣に戻る所ですかね……」
「そうだな……周りは警戒してないみたいだし……凛ちゃん。後ろからザクッと斬れるか?」
「え?いきなりやらせんの!?」
いくら能力高くても、いきなりそりゃないだろう……
「いや、昨日の練習を見てた限りじゃ、俺はイケると思う。二番の突撃。出来るか?」
凛は少し迷ったようだが……
「……いけます!!」
自信たっぷりにそう言った。……マジか……
凛を引っ張って、耳元で小声で話す。
「(本当に大丈夫なのか?)」
「(うん……手応え良かったし、結構扱いに慣れたと思うし……)」
「(ゲームとは違うんだぞ。本当に大丈夫か?)」
「(大丈夫……信じて)」
「(……そうか……)」
凛が真っ直ぐと俺の目を見てそう言う。……仕方ない……
凛を離して、カイト達の方に向き直る。
「……安全なんだよな?」
すると、カイトが眉をつり上げて
「あ?ハナッからハンターに安全なんてねぇよ。ただ、どれだけ事故を減らせるか。それだけだ」
「……」
……確かにその通りかも知れない……けれども……
「心配すんのは分かる。けど、このまま俺が殺ったって、大して意味は無いぜ?いつまでもビクビクしてたんじゃ始まんねぇ。俺達が全力でサポートするから、俺は凛ちゃんにやらせる」
そう言うとカイトが大剣を鞘から抜いた。
「私も」
イリーナさんは右手上に、小さな火の球と水の球を浮かべる。
「僕も」
レイミーは小太刀を抜刀する。
「あ、ありがとうございます」「……俺からも……ありがとう」
「ほら、そんな事言ってないでとっとと行った方がいいぞ。森に入ったら厄介だ。危ないと思ったら迷わずこっちに帰って来いよ?」
「はい!」
凛がラージコボルトの方に駆けて行った。
「気を付けろよ~!!」
俺もそう言って、さりげなく。ベルトに挟んだSAAのグリップに手を添えた……
************
現在、ラージコボルト(以下Lコボルト)はノッシノッシと、麦畑から山岳方向の森に歩いている。
凛が、Lコボルトの視界に入らないように、麦畑すぐ横を颯爽と駆けて行く。スイッチが入ってゴーズキに突進した時よりは遅いが、それでも十分に速い。途中で直角に折れ、Lコボルトの真後ろから詰め寄る形になった。
Lコボルトとの距離はみるみる縮まっていくが、Lコボルトはまだ凛の存在に気づかない。ゆっくりと歩くLコボルトは麦畑と森の間の平原。
凛はさらに距離を詰め、残りLコボルトとの距離10メートル程。凛は走る速度を変えず、背中に肩の上から手を回して大剣の柄を握り締めた。
残り……5メートル……
凛がそこのまま大剣を抜刀して、振り被ったまま突撃する。
すると、Lコボルトもそこまで低能ではなかったのだろう。凛の足音か何かに気が付いたのか、歩く足を止めて凛の方向に振り返った!!
「チッ……流石に気づくか……」
カイトが舌打ちをして、自分の大剣を握り直す。俺も思わず、銃のグリップを強く握ってしまう。
すぐにLコボルトは状況を察知し、「グゥオオアォォォッ!!!!」と盛大に吠えて威嚇する。ここまで空気が揺れるのが伝わってくるほどに、うるさい。
凛は怯まず、更に距離を詰め大剣を振り下ろす体勢に入った。すると、Lコボルトの方も、己の鋭く尖った、長い爪の生えた手を振り上げた!
「おっおい!?」「凛ちゃん!」
俺もイリーナさんも声を上げ、イリーナさんは火球を大きくして、俺は思わず銃を引き抜きそうになる。
しかし、カイトとレイミーは俺とイリーナさんを手で制止しながら冷静に、
「……イケる……」「いけます……」
「グゥオオアァァッ!!!」
Lコボルトがその凶悪な爪で凛を引き裂こうと、手を振り下ろして来た!!だが……凛のほうが速い。
「でりゃぁぁああああッッ!!!!」
凛も負けじど、思いっきり声を張り上げ……コボルトの爪が届く前に、凛の振り下ろした大剣が胴体を右上から斬り裂いた!!
「グッ!グゥゥォオオオッッ!!」
Lコボルトが振り下げ損なった右腕で斬られた跡をあてがい、唸りながら凛から数歩後退りする。傷口を手で押さえてはいるが、コボルトの出血量は凄まじい。このまま倒れるか……と思われたが……
今度は大剣を振り下ろしきって、無防備になった凛の背中に尚も攻撃しようと左腕を振り上げた!
「クソッ!しぶとい奴め。イリーナ!!レイミー!!」
カイトがすぐさま指示を出し、イリーナもレイミーもそれぞれ赤と白に発光して攻撃体勢になった。
俺も心の中で舌打ちをする。
……チッ。ヤバいじゃねぇか!!クソッ俺がまた狙撃銃で……でもカイト達が……………
……構うものか。天界規定がどうした。人の目がどうした!護るために、凛について来たんじゃないのか!?迷っている暇はない。今が緊急事態だ!
自分にそう言い聞かせながら懐中時計を取り出し、リクエストオーダーをしようとするが……
「信じて……」
ふっ、と凛が真剣な顔で、俺にそう言った事を思い出した。一瞬、リクエストオーダーと言いかけた口を閉じてしまった。
………すると、凛の方から……
「させるかぁああッッッ!!」
凛がそう叫び、物凄い勢いで振り下ろした大剣を、そのまま上に振り上げた!!
ドゴォォォォッ!!大剣の縁がコボルトの下顎に炸裂した!!さながら大剣のアッパーカットだ。
「ゴッッ……グハァアアッッ!!」
Lコボルトは最後にそう口から漏らし、硬直したまま両膝をガクッとついて動かなくなった。
見守っていた俺たちは、攻撃しようとしていた腕を止めた。
「殺った……のか?」
「……生命反応は消えました……完全に殺りましたね……」
凛はすくっと真っ直ぐ立ち直り、大剣をブオンッと振って、血を払った。
……か、カッケぇー……
凛はそのままこちらに振り返って、
「や、やった……やったぁ!!」
凛が嬉しそうにピョンピョン跳ねて喜ぶ。
「スゲェじゃねぇか!!」「よくやりましたね!」「凄いわ!!」
そう言ってカイト達が凛の方に駆け寄って行った。
……モンスターぶっ倒して喜ぶ美少女って……ま、いいか。本人がそれで喜ぶなら。
苦笑しながら、カイト達と一緒に凛の方に向かって駆け出したが……
「「「「あっ……」」」」
俺たちは顔面蒼白になって足を止めた。
「えっ?どうしたの?」
俺達が急に止まったので、凛が戸惑いながら俺達の事を見る。
レイミーが恐る恐ると凛の後ろを指差して……
「う、後ろ……」
「えっ?後ろ?…………わっ!わぁああッ!!」
凛が後ろに振り向いた瞬間。膝立で死んだ、血だらけのコボルトの死体が凛に向かって倒れ……
「助け………」
凛の姿がLコボルトによって完全に見えなくなった。
「「「………」」」
「………は、早く退けろぉ~!!」
俺がそう叫び、皆我に帰って凛の元に駆け寄った……




