27 魔王討伐のためですけど……何か?
「ちょっと待っててくれ……」
そう言うとカイトとイリーナさんが二階へ上がっていった。
レイミーはこの部屋のソファに座ったままだ。
「あれ、レイミーは取りにいかないのか?」
「僕はこれから用事があるので、後で一人で行きますよ。先に行ってて下さい」
「あそう……」
これから用事って、何があるんだ?お酒は遠慮するとか言ってたし。まぁ気にすることは無いか……
すぐに二人が手提げを持って降りてきた。
「おまたせ。じゃあいきましょうか」
「いってらっしゃい……」
レイミーに送られて、俺たちは玄関から外に出た。
大通りとは反対向きに、横道をさらに進んでいくと、カイトとイリーナさんが周りとは違った、木造平屋の少し大きな建物の前で止まった。入り口には紺色の麻布に等間隔で縦の切れ目が入っている。そう、まんま暖簾だ。
しかも屋根がほかの建物と違ってオレンジではなく、なんとなく黒っぽい気がするし高い煙突の影もうっすらと見える。……日本の銭湯みたいだな……
「ここが街一番の風呂屋だ!」
カイトがそういって暖簾をくぐり、イリーナさんもそれに続いた。
すると凛が、
「お風呂屋さんってバスタブ売ってるの?」
「……銭湯のことだけど……」
「あ、そうだったんだ……」
そう言うとフンフフンと鼻を鳴らしながら凛も入って行った。
……凛の国語力大丈夫かな……
そう思いながら俺も凛に続いて暖簾をくぐった……
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中に入ると、床が一段高くなっていた。
「ここは土足禁止な……」
とカイトがここで靴を脱ぐ……へぇ、日本っぽいな……
一段上がると、広いスペースがあり「男」とかかれた暖簾と「女」と書かれた暖簾が左右にそれぞれ架かっていた。
そしてその真ん中には台座のように一段高くなったカウンターがあり、おばあさんが正座して座っていた。
「こんばんわ」
おばあさんが挨拶する。
「ばあさん。大人四人分頼む」
「あいよ……」
カイトが銀貨を支払い、お婆さんから木のかごを4つ受け取った。
「あ……」
払ってもらっちゃった。
「別にそんなケチケチしねぇよ。安いんだから。ほらよ」
そういっておばあさんから受け取った木の籠を投げ渡してきた。
「ありがとう……」「ありがとうございます……」
「ほら、人が増えないうちにとっとと入るぞ……」
「カイト~あんまり長湯しないでね~」
「わかってるよ……」
そういって男女で分かれ、それぞれ暖簾をくぐった。
脱衣所は完全に木製で壁にはかごを置く棚が何段か設置されていた。
反対側の壁には洗面器のようなものと、鏡が置かれている。
カイトが棚にに荷物を置いて、籠の中にポイポイと脱いだ服を放り込んでいく。
……入り口といい、さっきのカウンターといい、なんで風呂屋だけ和風なんだ?ここも体重計とマッサージチェアがあれば日本のそのまんまだ。
「たまに世界観狂ってるよなぁ……」
「あ?」
「いや、何でもない……」
そんなことを言いつつ、俺も服を脱ごうとしたが……あ、やべ。ベルトの銃どうしよう……
「……カイト。この時間、他に客来るか?」
「ん?そうだな……まだ他のハンターたちは飲んでるだろうし、他の住人はとっくに入ってるからこないだろ……」
「そうか……」
「……どうした?もしかして他に誰も来ないなら。隣の方にお邪魔したいなんて思って……」
カイトがニヤけた顔でそう言ってくる。
「……」
なんだろう。今すぐこのバカをベルトの麻酔銃で撃ってやりたい。……とりあえず横目で睨みを効かせる。
「……じょ、冗談、冗談だってば!……さ、先に入ってるぜ……」
そう言うと腰のタオルを押さえて、そそくさと木の引き戸を開けて風呂場に入って行った。
はぁ……取り敢えず邪魔は排除できた。
さて、この二丁の拳銃をどうするか……いくら心配でも風呂場に持ち込むわけにもいかないだろうし、あいにく脱衣場隠し場所なんてない。
しょうがないな……
今日買った服類をいくつかバックから取り出し、バックの底に銃と懐中時計もついでに突っ込んで、着替えの服を残してその上から残りの服を押し込む。……小学生でも思い付きそうだが、これで簡単にうっかり「見られた!」なんてことにはならないだろう。万が一のためだ。
とっとと服を脱いでタオルを巻き、俺も風呂場に入る。
風呂場は思っていたより少し広く、右半分をほとんど埋め尽くすように大きな湯船が広がっていて、湯気が立つ白っぽく濁ったお湯が張られていた。……バスクリン的な何かが入ってるのかな……
左半分には二枚の壁に沿ってズラリと椅子が並んでいて、各椅子の前の壁に一つづつに鏡と石鹸がついており、壁からは木の棒みたいなのがくっついている。
……THE銭湯だな……木製シャワーと石鹸を除いて。
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カイト真中の椅子に座ってワシャワシャと髪を洗っている。
俺も一個開けて隣に座る。……さてと……どうすんだ?
「なぁカイト。お湯って……」
「ん?その出っ張った木の棒の先っちょのレバー引きゃあ出てくるよ……」
ほんとだ。レバーがついている。そして棒の先っちょに、小さな穴が沢山空いていることにも気がついた。
倒してみるとサーっとお湯が出てきた。……へぇ。一応シャワーだな。時代1600年あたりとしてはハイテクじゃないか?
「ありがとう……」
それから頭をよく洗って、体を軽く洗い…………さて、俺も湯船に入るか……
すでにカイトは壁に寄りかかって浸かっていた。
俺も少し離れて浸かる。
新しいお湯がチョロチョロと流れる音だけが風呂場に響いている。
……こうゆう時は静かなんだな……こんなに静かで会話が無いと、なんとなく居心地が悪い。そう思いながら目を閉じて、湯船の縁にタオルを敷いて頭をのっける。
すると、カイトが唐突に話しかけてきた。
「……田舎だろぉ……ここは……」
突然どうした?
「まぁ……ちょっとはな……」
俺からすれば4世紀ほど遅れているが……この世界の基準が分からないから適当に答えるしかない。
「この銭湯だって……汲み上げに魔法石使ってるだけで、湯を沸かすのは火力だし……煙筒見えただろ?」
「あ、ああ……」
だかららどうした……そして魔法石なんて言われても困る。すると次は
「……なあ……なんでハンターになろうと思ったんだ?」
このタイミングで聞くのか……まあ正直に答えておこう。
「まぁ……大きな理由は凛が心配だったから……かな……後は少しだけやってみたい気持ちもあった……」
それは少しだけね。
「そうか……そういうことか……」
またしばらく静かになる。すると
「じゃあ、凛ちゃんがハンターになった理由って知ってるのか?」
そういうこと聞くか……まぁ……
「憧れがあった。ってのもあるだろうけど……」
これは……言っても構わないかな?これからお世話になるんだし。
「魔王を討伐するため。かな……」
バシャンっ!!そう音がしてカイトの方を見ると、尻を滑らせて湯船に沈んでいた。すぐにザバァっと起き上がって咳き込み……
「ゴホォッ!!?ま、魔王討伐ぅ~!!??!?」
と叫んだ。
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「ゲホッ!!ま、魔王の討伐!?!?」
「そ、そうですけど。大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫……」
イリーナさんが湯船でいきなり滑ったのだ。
私がイリーナさんにハンターになった理由を聞かれて、正直に答えただけなんだけど……
イリーナさんがタオルを巻き直して座る。さっきから思ってるけど……イリーナさん……豊か………
「……」
頭を降ってそんな考えを追い出す。か、関係無いことだもん!
「そ、それは立派な考えね……凄いわ」
「は、はあ……」
「確かに魔王は人々に悪影響を与えまくってる奴だけど……そうね……いい心がけね……最近は能力が高くても、対魔王軍ギルドに参加しない人も多くなってきたみたいだし。……本当に魔王討伐まで考えてるの?」
「そうですけど……」
あのおじいさんだって言っていた。あんなに、人々を助けてほしいって言ってたのだから。
「それなら、その……風吹君も一緒に行くつもりなの?魔王のところまで」
「はい」
即答する。
そんなのは当たり前。風吹だってついてくるって約束してくれたし。風吹なら悪いことして人を苦しめてる奴を放っておくはずがない。絶対に。
「そう……そうね……確かに、凛ちゃんみたいに能力が凄い高かったら、もしかしたら夢じゃないかもね。でも……魔王は相当強いらしいわよ?その……フブキ君だと、正直……」
……イリーナさんが言いたい事は私にだって分かる。
風吹の能力値の事を言っているんだろう。私だって正直驚いた。そしてすぐに思ったのだ。
あんなに凄く強いゲーマーの風吹の能力はあんなもんじゃない。と。
きっと何か魔導具の調子が悪かっただけなのだろう。
実際、召喚してまもなく、あのゴーズキとかいうモンスターを私が転んでしまってピンチになったとき、風吹が一撃で倒したんだから。
だから絶対、風吹は本当は強い。
「大丈夫です。私が保証します」
私の保証なんて無いにも等しいと思うけど……それでもそうとしか私は言えない。
「そう……能力値はあくまで暫定。間違いだってあるわ……とにかく、能力があっても完全に使いこなすには時間と経験が必要よ。本当強くなるときまで。頑張っていきましょう?」
「はい!」
「よしっ!何度も言うけど、今週はよろしくね。じゃ、たっぷり浸かった事だし、体をもう一度洗って上がりましょうか」
「そうですね」
そう言って、私とイリーナさんは湯船から上がった……




