21 …ギルドに戻って…
「へーい、もどったぞぉ~!」
カイトの声がほぼ無人の広いギルドに響き渡る。
受付のお姉さんが言っていた通り、この時間には本当に人がいないようだ。
数人のハンターらしき人達と酒場のカウンターでグラスを拭いているちょび髭のマスター。ギルドの受付お姉さん以外誰もいない。二階は完全にからっぽのようだ。
受付に頬図えをついていたお姉さんが顔を上げる。
「…相変わらず元気がいいのね……クエストはしっかり終わらせてきたの?」
「当然さ!数の割には結構早く終わったぜ~」
フフンと鼻を鳴らしながらカイトがポケットから出した受領証を受付に提出する。
「上級者が中級クエストを受けたのだから当然です」
お姉さんが皮肉めいた口調でそう言いながら、ハンコのような者とインクをカウンターに置いた。
「別にいいじゃんかよ!中級クエストでも☆7で誰も受けそうになかったし、緊急性のあるものだったし!」
「☆7のクエストなら出来る中級者なら十分にいます!きっと受けてくれるハンターだっています。……まぁ新人の教育というのもありますから、しょうがない事もあるでしょうけど……あんまり中級の高額報酬クエストで暴れまわらないでくださいよ?中級者の仕事がなくなっちゃうんで」
「…んなこたぁわかってるよ……」
これがレイミーの言ってた暗黙のルールってやつか……するとカイトが小さな声でぼやいた
「……チッ……新人教育という大義名分で中級クエストじゃんじゃん受けて、チャチャット全部終わらせてガッポリ儲けてやろうと思ったのに……」
おい、聞こえてるぞ。すると次の瞬間、カイトにレイミーの蹴りと、お姉さんの投げたトレイがめり込んだ。
クエストの間に結構見直していた俺が馬鹿だった。やっぱりこいつ、バカでダメだ。
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「痛いよぉう……」
頭とひざを押さえてうずくまるカイトをほおって、レイミーと受付のお姉さんが話し始める。
「……そういえば回収班を呼ばなかったみたいですけど、どうしたんですか?」
「それはイリーナさんとカイトがオーバーキルしまして……」
「……バラバラになっちゃったから私が全部焼却処分してきちゃいました」
ありゃ酷かったからな……
「なんとなく予想はついていましたけど、やっぱりそうでしたか……そうなるとクエスト完了を証明するものが無いのですけれど……」
「私が焼き尽くしたから何も無いけど……たくさん狩りましたよ?ほんとに」
「……」
カイトがよろよろと立ち上がる。
「……ああ…ゴブリン大量にぶった斬ったのは確かだ…森にはほとんど残ってないはずだぞ……」
「……」
なぜかお姉さんは何も反応しない。
するとレイミーがお姉さんから渡された羊皮紙にさらさらと何かを書いて、それを読み上げた。
「『森のゴブリン出没ポイントを全て周回した結果、計53匹のゴブリンを発見したため、全て排除したことをここに証明します。』以上です。これでいいですよね」
「ん、わかったわ。それならクエスト完了ね」
「「ちょっとぉ~!?」」
カイトとイリーナさんが声をあげる。
「なんでレイミーの言うことだけ聞くんだよ!」
するこお姉さんは当然。というように
「レイミーの言うことなら信憑性があるからよ。」
「「それひどくない(ですか)!?」」
「ひどく無いわよ。現に嘘ついたことあるでしょ?二人とも」
自分達のせいじゃん……しかもイリーナさんまで……
二人がワーキャー抗議しているうちに、お姉さんが受領書に判を押した。今度は小さな羊皮紙を出して羽ペンでサラサラと何やら書く。
そして、それにまた同じ判を押してレイミーに渡した。
「はい、ゴブリンの掃討クエスト完了ね。報酬の70メガになります。」
「ありがとうございます」
レイミーが分厚い財布にしまって内ポケットに羊皮紙をしまった。
「あれ?報酬金は?」
俺達最初は金貨渡されたけど…
「さっきの小さな紙ですよ。あれを銀行に持っていって換金するんです」
へぇ~
「…初級クエストみたいに報酬金が少なかったら、ここで硬貨を直接渡すんですけどね。中級、上級だと硬貨の量が多いからね…」
「なるほど…」
そうゆうことね…重いんだったら紙幣にすりゃあいいのに…
ホントに古い時代…じゃなくてこれが今なのか……
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カイトとイリーナさん、抗議が終わって復旧。終わったと言っても、受付のお姉さんはずっと右から左のようだったけどな。
「……にしても、今日は早く済んじゃったおかげで晩飯までけっこう時間があるな……」
「そうね……フブキ君とリンさんも一緒に夜ご飯食べる?」
「じゃあ折角だから、ご一緒させてもらおうかな…」「うん…私もいろいろお話したいし……」
「じゃあ夜ご飯は決まりね。それまでの間どうする?」
観光とかもいい気がするけど……するとレイミーが
「そういえば、フブキさん達はこれからこの街に住むんですよね?」
「……一応その予定だけど……まだ家とか特に無いしな……生活用品とかも全く無いし」
そもそも異世界の生活必需品はわからない。いつか買うであろう家だってどうすりゃいいんだか………あ、じいさんがいるんだった。後ででまとめて聞いておこう。
すると凛が
「私たちほとんど手ぶら来ちゃったしね……」
「「ええ~!!」」「ほんとうですか……」「いい根性してるわね…」
受付のお姉さんまでもが反応した。
……またそういうこと言っちゃうからもう……
カイトとイリーナさんがまたしゃがんでコショコショ話し始める。
「(やっぱり、わけありでこの街に来たんじゃ…)」「(元に住んでいた街でなにかあったのよ…)」
レイミーはチラッとこちらを見てから視線元に戻してカイト達の会話を聞いている。
ホントにやめてよぉ……
「(変な詮索をするにはよそおって決めたんだし…)」「(今は気にしないでおくか…)」
そんなことを言ってイリーナさんとカイトがもとに直る。へんな誤解はやめてくれ~
「……それじゃあこの街に住むために生活用品とかを一緒に買いに行く?私たちもそろそろ買い足したりしないといけない頃だし…」
「そうだな……いい店教えてやるよ」
「……ついでに街の案内とかもできますしね」
……まぁいいんじゃないか…誤解されっぱなしなのは癪だけど…
「そうだな…凛、いいだろ?」
「うん」
「じゃあ一緒に買い物もいかせてもらうよ」
「じゃ、決まりだな、買い物に行くなら装備とか置いて来なくちゃいけないな。じゃあ装備とか置いて必要なもん持ったらここに集合だな。えーっと、集合時刻は……今何時だ?」
「15:30くらいかと……ほんとに分からないんですね、異常者ですか……」
「……その言い方やめてくれよ……じゃ、とりあえず一時間後の16:30にここに集合ってことで」
ほんとに時間わかんないんだな…まぁ他の人たちが普通に時間がわかるのが俺にとっちゃ異常だと思うが。当然俺と凛にそんな特殊能力はない。
一同がギルドから出ていこうとすると、レイミーが
「あっ、報酬金の分配について話すのを忘れてました」
そう言って酒場の長テーブルにさっき財布に入れていた羊皮紙を置いた。
「見ての通り。今回の報酬金は全部で70メガ。70,000バイトになりますので、均等に五人で割って一人14メガ。14,000バイトですね」
「いいのか?特に何もしないで教えて貰っただけなのに…」
「そーだそーっ……」
ドゴォォッッ!! グシャァアッッ!! レイミー足払いと肘鉄がコンボで喰らってカイトが叩きつけられる。
ヒエ~っ!!怖え~!すんげぇ音したぞ…
レイミーはカイトにゴミを見るような視線を送ったあと、何事も無かったように平然と続ける。
「これはある意味、未来の一流ハンターへの投資でもあるんですよ。代々みな、ハンター達は教育の度にこうしてきたんです。ですから是非、受け取って下さい」
「ええ、当然のことをしてるだけよ。遠慮しないで」
頭まで下げられちゃったよ……受けとるしかない。
「じゃ、じゃぁ…ありがたく…」
「ありがとうございます。では、後で銀行で換金したら手渡ししますので、僕たちは先に装備品を置いて来ますよ…」
「じゃあ、16:30に集合ね~」
カイトはレイミーに襟首掴まれて引きずられ、イリーナさんはそれを見て半ば呆れ顔、半ば面白そうな顔をしながらギルドから出て行った。
「相変わらずね……」
受付のお姉さんも少し面白そうだ。
「じゃ、俺達も行くか……」
さっそく金曜日過ぎました。すいません。




