18 昼ご飯です
「じゃあ…今からリンちゃんに大剣の極意…じゃなくて基本とかを教えてあげよう。ちょっと広いところでな。」
全員で滝壺近くの開けたところに移動した。
「ここらへんが丁度いいかな…リンちゃん。こっちに。」
カイトと凛はさらに滝の方まで近寄って行った。
「じゃあ、私たちは先に…」
そう言うとイリーナさんが近くの木陰に、どこからともなく取り出した大きな風呂敷を敷き始めた。
「ん?何するんですか?」
「お昼御飯よ。」
まじか。ありがたい。
「……凛とカイトは?」
「先に食べててくれ~って言ってたわよ。」
ふーん……するとイリーナさんが肩に掛けていた小さなポシェットから、赤チェック柄の布で蓋をされた、弁当箱くらいの大きささのバスケットを1つ取り出した。……これだけ?
するとさっきのポシェットからもう1つ同じ様なバスケットを取り出した。…よく入ったな…3つ目…ん?。4つ目…はい? 5つ目…な…… 6つ目……
しかも3リットルは入りそうな縦長の水筒とコップを6つも出した。
風呂敷の上に置いたもの達は明らかにポシェットの体積の5倍は超えている。
「一人一バスケット分ね…紅茶はご自由に。」
ご丁寧にどうも……じゃなくて!
そのポシェット、明らかに物理の法則ガン無視してたぞ!?
「……そ、それ……どうなってるんですか……」
「え?このカバン?…ああ、これには空間拡張魔術と物体軽量魔術が掛かってるのよ。」
…はい?魔術?
「大して大きくないけどね…入れ口以上の大きさの物は入れられないし…それほどの物じゃ無いわよ?」
いや、空間拡張とかヤバいだろ。空間ねじ曲げてんのか?
「まあちょっと珍しいかもね……普通は売ってないし…」
……魔法って何でもありなんだな……そんなことを思いながらイリーナさんと一緒に風呂敷の上に腰掛ける。
バスケットに掛かった布をほどいてみると、バスケットの中いっぱいにサンドイッチが詰められていた。
「おお~……手作りですか?」
「そうよ。」
へぇ……料理家ではないがどれも上手にできていると思う。そしてどれも美味しそうだ。
「頂きま~す!」
「どうぞ。」
そう言いながらコップに紅茶を注いでくれる。そしてイリーナさんも一緒に食べ始めた。
食パンの間には、赤いキャベツの味がする野菜の葉。青色のトマト?と普通のゆで卵を細かくしたものが入っていた。この味だとマヨネーズの様な物も入っていそうだ。
どれもシャキシャキしていて、とっても美味しい。
食べる手と紅茶を飲む手がどんどん進む。
「ゴクッ………どれもとっても美味しいです。」
マジで上手いっす。
「そう、それは良かった。」
イリーナさんは嬉しそうだ。
「お店で出してもいいくらいですよ?」
「そんなに?嬉しいわ。」
イリーナさんが微笑む。
「毎日作っているんですか?」
「ええ、クエストに行くときはほぼ毎日。…趣味で休みの日に作ったりもするけど。」
どうりで美味しいわけだ……いいなぁ、毎日こんな美人さんにご飯を作って貰えるなんて…
うらやましい…俺もいつか凛の手料理を………あぁなに考えてんだ俺は。
「…あれ?レイミーは食べないの?」
レイミーは座るどころか、腕を組んで離れたところにつっ立っている。そして反応がない
「…イリーナさん。レイミーどうしたんですか?」
「…そっとしておいてあげて…魔力検知魔術を掛けてるだけだから…」
…なにそれ?魔力検知?首をかしげる。
「…近くのモンスターの存在とか位置を探知する高等魔術なんだけどね……別に必要無いのに…」
「どうしてです?」
「私とカイトだって違う方法だけど一応警戒はしてるのよ?それなのにレイミーったら心配性だから「警戒していても直ぐに迎撃できる人がいなければ意味がありません。」とか言っちゃていつもあんな感じなのよ。止めても聞かないしね。それと今回は貴方達がいるから更に慎重になってるのよ…食べ終わったら交代してあげましょう…」
…慎重なんだなぁ……
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一通り食べ終わって紅茶をゆっくり飲む。依然として二人はなにやら話している。
カイトと凛の方に耳を傾ける……
「──よし、ある程度のの大剣の注意事項は説明したな。次は実際に剣の使い方を教えよう。そいじゃ、こうやって両手で前に、真っ直ぐ構えてみてくれ。」
「はい。」
カイトが大剣を抜刀し、持ち手を両手で持って前に構える。凛もそれに習って構える。
「よし、それでいいぞ。次は基本の縦振りだ」
そう言うと右足を一歩踏み出して「はぁぁッッ!」と上から下へ真っ直ぐ大剣を振り下ろし、地面の前で寸土めする。
「…とこんな感じ。やってみてくれ。」
「はい。」
「はぁっ!!」凛も同じように大剣を振る。
「おお~、いいセンスだなぁ。よしもう一回!」
「はい!」
カイトと一緒に大剣をいろんな風にブンブン素振りを始めた。
───気合い入ってるな…剣道みたいだ。
つくづく思うが、人間によくあんな鉄の塊みたいな剣が持てたり、それを自由に操ったり、炎やら癒しの何たらが手から出てくることが未だに信じられない。まぁ目の前に使える人たちがいるんだけどな…
カイトはいったい、どんな鍛え方をしたらああなるのだろうか…大してマッチョには見えないが装備の下にはきっと筋肉が沢山ついてるのだろう。
凛は…完全にチート能力のお陰だろう。…じいさんやりすぎじゃあないか?明らかに元の世界と同じまんまの普通の少女の体型だぞ…あの細腕であのバカでかい大剣をぶん回していると違和感しかないぞ…
それもそうと…俺も射撃練習とかしたいんだけどなぁ…気軽にポンポン出して撃つわけにもいかないしなぁ…どうしよう……
そんな事を思いながらコップの紅茶を飲み干す。
「ごちそうさまでした。美味しくてお腹いっぱいです。」
「……お粗末様です。私もごちそうさま。」
イリーナさんが俺のバスケットもポシェットに入れてくれた。…本当に優しいなぁ…
「そろそろ一時ピッタリくらいのかしらね…レイミー!お昼ご飯~!!!」
イリーナさんが立ち上がって手を振る。
するとレイミーがチラッとこちらを向いてから、足元に置いていたバックパックを持ってこちらへ歩いてきた。
「見張りありがとう。」
「いいえ、仲間として当然のことです。フブキさん達もいますし…見張りの交代。お願いします。」
ほらね?と軽く苦笑いしながらイリーナさんが俺の方を見てきた。俺も軽い苦笑いで返す。
「──あと、たぶんまだ一時にはなってないと思います。たぶんそろそろなる頃かと…」
細かいな…
「細かい事はいいの!今日はサンドイッチとアッサムの紅茶よ。」
「はい。ありがとうございます。」
仲間に対しても律儀なんだな…ん?そういえば何で時間がわかるんだ?
懐中時計を取り出してみると、いま13時になったところだった。…レイミーの言った通りだ。
「ねぇ何で時間がわかったの?」
「感覚ですけど。」「私もなんとなく…」
「正確だな…」
「時計なんて普通は使いませんからね…みんなある程度わかるもの何ですよ……カイトさんは昼ご飯の時間以外分かりませんけど…」
…異世界の人すごいなぁ…
感心しながら懐中時計をポケットにしまおうとすると、イリーナさんが。
「あら、それもしかして時計?」
「え?そうですけど…」
「懐中時計ですか?珍しいですね。……後学のために見せて貰えませんか?」
後学って…まぁそんなに見たいなら別にいいけど。
「はい。」
右手の平に持って前に出すと、レイミーとイリーナが時計を覗き込む。
「すごい綺麗な時計ね…」
「そうですね…これは機械仕掛けですか?」
……わからん。ボタン電池ではないと思うが…
「ごめん、俺にもわかんない。貰い物だし。」
「…ちょっと持たせてもらっても?」
「別にいいよ。」
レイミーに手渡すと。顔を近づけて見たり、文字盤の奥の歯車を見たり、裏返しにしてみたりして、じっくり見ている。……鑑定士かい……
「すごい時計ですね…とても精巧に作られています…それに純銀製の上に見たことのない宝石も…」
レイミーはなにやら興奮ぎみに話す。
「純銀製?と宝石?凄い高価なんじゃない?」
天界製だからな…たぶん高級。
「貰い物だけど…たぶん…」
「貰い物…ですか…」
するとなにやら背を向けてヒソヒソと何か二人で話始めた。
「(また貰い物ですよ…)」「(きっとリンちゃんの大剣をくれた人と同じ人よ…
)」「(だとしたらその人は相当なお金持ちの人ですね…)」「(もしかしたらお金持ちのボンボン…)」「(あり得ますね…)」
貰い物だって信じてくれたのは嬉しけど、変な誤解をされてるんだが…
ちょっと中途半端ですね…




