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17 馬鹿でも強し



「ん…残り火は無いわよ…」


「ありがと」


 さっきまでの悲惨な戦場は雑草と共に黒焦げの炭になってしまった。…きれいな円形状だな~。

 やっぱり魔法って凄い。


「さてと…綺麗に片付けたことだし、後は適当に出現ポイント周って、軽く掃除かな…」


 片付けるとか掃除とかえげつないな……


「そんなに全滅させなきゃダメなのか?」


「まぁな、ゴブリンは一匹二匹じゃたいした事は無いけど集団になるとやたら攻撃性が増す上に結構手強いんだよ…まぁ俺達は上級者だから関係ないけど。だから全滅とまではいかないけど出来るだけ狩っておくべきなんだぜ。」


「なるほど。」


「そいじゃ。行くぞー」



********



 更にカイトに付いて森の奥へと進んで行くと…

目の前が少し開けると川が流れていた。川幅は3m程だろうか。


「あ。あそこ!!」


 凛が指した先を見ると、川の上流方向の少しカーブした先に少し高い崖から水が流れ落ちている。

 その下、少し大きな滝壺の縁にゴブリンが数匹のゴブリンがいた。

 四匹は先を尖らせた木の槍でバシャバシャと水に突き刺しまくっている。二匹は少し滝壺から離れたところで。もう二匹は剣を持って辺りをうろうろしている。しかもその内一匹は薄汚れた赤いバンダナを巻いている。


「なぁあれって…」


「リーダー格ですね。少し頭が良かったり強かったりするんですけど…大した事は無さそうですね。」


「つったって見張りはしてるけどな。」


 それにしてもあんなにやたらめったら突いてたら魚が全部逃げちゃうだろうに…


 「よし、丁度いい。今から近接戦闘を仕掛けるときの基本とかを教えよう。」


 いかにもという感じでカイトが人指し指を立てる。


 俺も狩りの基本はファー○ライ(若干サバイバルFPSゲー)とかである程度心得てるつもりだが…まぁ現実とはいろいろ異なるだろう。しっかり聞いておこう。

 

 「えーとだな……うん、こうゆうことはレイミーのほうが詳しいからパス。」


「「「「…」」」」 ムギュッッ!!


 レイミーがカイトの足を踵で踏みつけた。……安定だな…


「…人に説明するつもりなら、しっかり話す内容を決めてからにして下さい………」


 カイトは足をおさえて跳ね回る。学習能力無いのか。


「さて、説明しましょう。先ずは標的の位置を掴む事です。これが分からなければ何も出来ません。二つ目は敵情の把握です。数、強さ、種類などを正確に把握することは必須です。これが無ければ戦略は立てられません。三つ目。戦略の考案です。敵を効率的に排除するための戦略を立てます。」


 軍人かよ……堅苦しくて分かりづらいけど一応はわかった。

 するとカイトが、


「そうだな…例えば今回の場合だと…まぁ、あいつらは泳げないしバカだ。しかも二匹を除いて完全に戦える状態じゃあない。だから先ずはリーダー格を初撃で殺ってからもう一匹の武装したやつ。後は流れかな…」


ウンウン。と俺と凛はうなずく。


「取り敢えず初撃で相手が慌てるのを狙って奇襲、戦力の分断が定石かな…」


「分かりました。」「分かった。」


 基本はFPSと変わらないんだな…凛も「大体想像と同じだった…」と呟いてる。MMOも大して変わらないのだろうか。

 凛は大剣だし元々ゲームでモンスターと戦ってきたからきっと大丈夫だろうが、俺の場合。FPSの相手は人間だしみんな遠距離攻撃武器だからな。多かれ少なかれ俺の立ち回りは変わるだろう。

 しかも相手は俺達にとって未確認生物だし…もしかしたらアーチャーとかに聞いてみるのもいいかもしれないな…


「ま、言葉だけじゃなくて実際に見ないと解らないだろうな…さっきの俺とイリーナのはちょっと相手が多かったから上級テクも使ったけど…あいつらくらいなら俺一人の基本戦闘だけで充分だ、俺の大剣なら。いや大剣だからこそ…」


 いきなり大剣の宣伝やめろ。


「──やっぱりこのリーチと一撃の重さがあるからこそ──」


「いいから早くして下さい…」


 レイミーが蹴りの体勢をとる。


「あーーっ!!分かった!分かったから!!黙ります黙りますッ!」


 …アホか…


「こ、これから隠れて接近して、奇襲仕掛けるから、しっかりと動き見といてくれよ!!」


 カイトは逃げるようにして川沿いの茂みを進みながら滝壺に近寄って行った。



*********



 カイトがゴブリンのリーダーの近くの茂みまで近寄った。

 ゴブリン達の動きはさっきから変わらない。

 するとヒョイっと頭を出して様子を伺い始める。


「突撃する前に不足の事態にならないように偵察をするのは必須ですからね。」


「「へぇ…」」


 今のところリーダーゴブリンともう一匹が剣を持ってうろうろしているせいで突撃できなさそうだ。


「カイトならぜんぜんいけると思うけど…」


「今はフブキさん達に基本を教えるためですから。…普段もあれくらい慎重に行動してくれれば…」 


「…そうね……」

  

 仲間に言われてんぞ…

 しばらく待機していると…


バシャバシャバシャ! グギャァァーオッ!!


 水をかき回す音とゴブリンの鳴き声が聞こえてきた。

 どいやら川沿いの方の三匹が魚を捕らえたようで、騒がしくなる。すると滝壺の三匹とリーダー達の注意もそちらに集まった。完全にノーガードになる。…リーダーとはいえ所詮ゴブリンのようだ。


 するとカイトが勢いよく茂みから飛び出した!


「でやぁーッッ!!!」


 真っ先に目前のリーダーを上から両断し、瞬く間にもう一匹の見張り(無能)をその後流れで横から横になぎ払われた。

 すぐに滝壺側のゴブリンは気がついたが、手元には魚を捕るための木の槍のみ。 一応それで反撃をしようとするが、慣れない槍攻撃をカイトがワンステップで軽く回避して、続けざまに


「ハアァッッツ!!」


 三匹、槍ごと大剣の一閃で斬り飛ばされ、滝壺に落ちた。


「「あっ」」


 凛と俺が声を上げた。

 川沿いの方に視線を戻すと、カイトが暴れている間に残った三匹が投げ捨ててあった剣と棍棒を手に持って、カイトの方に突っ込んで行く。

 丁度レイミーの時と同じ様な状況だ。距離は20m程だろうか。


 するとカイトがその場で重心を低くして、地面と水平になるように横向きに大剣を降り被って…


「はぁあああああああ…」


 と、唸る。…これって凛がやってたやつか?

 みるみるうちに体の中心から黄色く発光していく。


「なぁ…あれって…」


 凛も興味津々だ。

 するとレイミーが


「あれはモーションブーストですよ…いわゆる溜めですよ…」


 へぇ…じゃあやっぱり凛がやっていたのも溜めだったのだろう。

 溜ねぇ…なんか凛がやった時はトンでもないことになったが…上級者はどうなのだろうか…

 距離。残り約5m。すると、カイトの光がいっそう強まった!

 すると…


「どりゃぁああぁぁああッッ!!!!」


 いっそう大きな声を張り上げると…


「『ドンッッ!!』」


 空気が震えたかと思うと…ゴブリンの目前に現れた!次の瞬間、凄い勢いで大剣を横にぶん回した!

 あまりの勢いにゴブリンは三匹とも完全に両断され、肉片がはじけ飛んだ。


「ふぅ…」


 大剣の血を振り払って背中に背負い、こちらに戻ってきた。


「ざっとこんな感じだぞぉー…」


 いろいろとやべぇ奴だな…



***********



 カイトの元に俺たちも歩いて行った。


「基本はあんな動作かな。最初は全部こんな感じでやってればうまくいくぜ。」


「は、はい…」


 凛も若干気圧されている。


「…あの溜め攻撃凄かったな。というか全部凄かった。よく一人であんなできるな…」


 一人であの余裕は凄い。


「だろう?」


「上級者が中級クエストをやってるのだから当然です…それに最後の溜めは余計です…」


「たしかに…そうですね…」「うん…カイト、最後はちょっと…」


「「「「オーバーキル」」」」


 またこれだよ。


「いや…折角だから凛ちゃんに溜め技覚えて貰いたいし見せてあげようと…」

「明らかに格好つけましたよね?おかげでまた死体の処理が面倒です。」


「……それは…その…」


 レイミーがナイフに手をやる。お、おいっ!?


「や、あ、そ、その通りでございます!カッコつけました!」


 認めやがった。

…どうしてもこの性格は変わらないだろう。レイミーが常に脅し続けようとも。


「…そもそも凛さんにはまだモーション系統の魔力応用は難しいでしょう。」


「…いや、適性極大だしかじるくらいに出きるかなーと…」


「…それもそうね…できる可能性も…」


 …何言ってるかわからん。凛も理解しようとしてるがちんぷんかんぷんのようだ。

 すると凛が


「…たぶん…ゴーズキと会ったとき…一回溜め攻撃やったと思います。」


 ひっくり返ったけどな。

 

「ああ、さっきのカイトみたいだったぜ。」


「「「…」」」


 三人がピタリと止まる。

 イリーナさんが恐る恐る


「…リンちゃんって全くもって大剣使ったこと無いのよね?」


「初めてでした…」


 三次元ではな。


「「「(やっぱ怪物だ…)」」」






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