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11 別に倒れそうなわけではない

「さてと…」


 外はすっかり暗くなっていた。

 といっても月と星の明かりで若干明るいが。

 タオレ荘を探すためにさっきの地図を広げる。

……また何か忘れている気が……分からん。放置。


 さすがに月明かりだけでは読めないのでギルドの窓から差す光で読む。…どれどれ。


「あった!」


 早いな…

 俺たちがギルドに戻ってきたときの道の一本横の大通りの近くにある。

…あ、この流れで思い出した。

 周りに人はいないな…


「じーさーん?」


「ん?ああ…お前たちか…」


なんか暗いぞ


「どうしました?」


「…よびかけても反応しない、無視して普通に他人と会話してる…てっきり空気扱いしてるのかと…」


 なにすねねてんだよ。まぁミュートしてたのは俺たちのほうだが。

 どうやらミュート機能は知らないらしい。


「あーごめんな。ほら。知らない人がいきなり喋る懐中時計を見たら怪しまれるだろ?」


「まぁそれもそうだが一言ぐらいは…」


 ごにょごにょ言っているのを聞き流しながらすっかり人と馬車のいなくなった大通りを歩いていく。街灯の代わりに月明かりと道沿いの家々の窓からもれる光が道を照らしてくれる。

 たびたび通る横道には屋台に変わって酒場やらなにやらの看板が並んでいた。


 地図は凛に任せながら10分ほど歩いていると。


「お、ここをひだ…」「風吹。ここ左だよ!」


「…」


…今のところの数少ない仕事をとらないでおいてやれよ…ますます拗ねるぞ。

 タオレ荘がある横路は他の道よりちょっと広い気がする。

ちょっと歩くと。


「お、これだな。」


 名前に反してしっかりとした三階建ての石でできた他より少しい大きな建物に到着した。



*******



 「タオレ荘」という看板を確かめてから両開きの木製扉を押して中に入るとにっこり笑顔の女性が出迎えてくれた。


「いらっしゃい。」


「こんばんは…」


 なんだ。あの二人おばさんとか言っておきながらけっこう若いじゃないか。推定年齢35歳の栗色ロングの人だが、かつてもっと輝いていたであろう美貌を今でも十分に保っている。

 やはり異世界の水準は高い。


「あなた方が予約されたフブキさんと凛さんですか?」


「は、はい。」


「そうですか…なら最初に謝らなくては…」


 ん?どうした?


「先約の方々が沢山いてですね。一部屋しか確保出来なかったんですよ…もうしわけありません。」


 深々と頭を下げている。

 は、はぁ…困ったな…


「そうですか…ならもう一部屋はどっか他ん所で…」


「あの…言いづらいのですけれど。たぶんこの時期だと宿は一つも空いてませんよ?」


 …そういやレイミー(司教男)そんなこと言ってたな…


「その代わりに一人分の料金しか頂かないので…どうですか?部屋は十分な広さがあるので…」


 相部屋、か…昔はよくゲームをやるために泊まりっこなんてこともして一緒に寝た事もあったが…年齢が上がると共に徐々にそうゆうことをしなくなっていた。

 昔は良かったが今は曲がり無しにも高三と高一?だからな…

 べ、別に変な事考えてる訳じゃ無いぞ!


 そーっと凛の顔を疑う。


「凛?その…相部屋でいいか?」


 一瞬の間。


「あっ…うん…別に良いけど…」


「…いいのか?ほんとに…」


「べっ、別に気にしないから…」


俺、ちょっと拒否られてるのかな……哀しい…


「じゃあ…相部屋で……二人分の寝床ありますよね?」


「それはもちろん!一番大きな部屋ですので。お代は一人分の2メガです。」


これでいいのかな…金貨を二枚手渡す。


「確かに。では…」


 そう言うと奥のカウンターから鍵を持ってきた。


「三階の昇って左の突き当たり、305号室です。では、ごゆっくり…」


 ペコリと頭を下げて。

 小さな声で…「フフフ…」と言っているのを聞いた気がした…



******



 急な階段を二回登って木の扉の前に立つ。凛は大剣を脇に抱えていた。

 鍵に似合った西洋の古風な鍵穴…ここじゃこれが標準か…に鍵を挿して回す。『ガチャ』小気味の良いおと共に扉開ける。


「「おお~」」


 家主さんがいっていたように部屋はけっこう広かった。

 凛が部屋中をいろいろ見て回っている。

 …へぇ、お洒落だな。アンティーク調の木製家具がいくつも並んでいる。

 凛が剣立のような物を見つけてさっそく立て掛けている。…流石ギルドと提携してるだけある。


 ワーっと凛が大きなベッドに飛び乗ってぬくぬくしている。…ちょっと可愛い…さて……俺のは……

 無い。そして今凛がゴロゴロしているベッドはやたらでかいし枕が二つ置いてある…


「……ダブルベットじゃねぇか。」


 なに考えてんだあのババァ。


「…凛…ベット……」


「んっ?………あっ…」


 凛も察したようだ。


「ごっごめん…」


 凛がベッドから降りた。


「いや…別にいいよ。ちょっと家主さんにもうひとつ布団あるか聞いてくるよ…」


 一旦部屋を出て一階へと向かった。



*******



「家主さーん」


 出てこい。が、カウンターにはいないようだ。横にある『私の部屋』と書かれた札のぶら下がったドアをノックして暫く待ったが反応無し。


「チッ…」


 部屋に戻ってクローゼットなどを探すが他の布団無し。


「…そこのソファーで寝るか…」


「…いいの?」


「俺が一緒に布団に入るわけにはいかないだろ…」


「…それもそうだね……」


 しゃーない。今日はソファーで寝ることにしよう。

 

「ふぁぁぁ~~…眠い…寝るか…」


「うん…いろいろあって疲れた……」


 マントやら上着やらを脱いで俺はソファーへ。凛はベットへ行く。


 横になったはいいが………このランプ達はどうやって消すんだ?

 形はコール○ンのマークみたいなTHEオイルランプだが中で浮かんでいる凄い明るい光源は明らかに火ではない。

 凛と俺でいろいろいじくり回してみるが消えない。

…早く寝たいんですけど……あ、こんなときの秘密道具。懐中時計。


「じーさーん?ランプの消し方教えてくんない?」


「ん?ああそれならランプの淵を2回叩けば消えるぞ。」


「お、ほんとだ。」


「ああーちょっと待ってくれ。寝る前に明日からの行程について話したいんだが…」


…けっこう眠いんだけど…ま、別にいいか。

 凛が俺の懐中時計の方に寄ってきた。


「よし。明日からの行程だがな…」


 何か言おうとした凛の口を塞ぐ。…また割り込もうとすんなよ…


「最初に言ったが魔王の影響は今のところあまりない。なので明日から暫くクエストを沢山受けて己の能力を慣らしてくれ。そして稼いだお金で家を買うというのが第一目標だな…とにかくバンバンクエストを受けてみてくれ。まずはそれからだ。」


「…俺はどうすんだ?」

 

 クエスト受けても特になんも出来んぞ。特にこのサバイバルナイフだけじゃ。


「風狙君は…最初のうちは峰薪君のサポート役をやってくれないか…武器を買って戦うのは暫くしてからかな…」


「わかった…」


…やっぱりそうなるか…


「あ、聞き忘れてたけど。メガとかの金の単位とか価値を知りたいんだけど…」


「ああ、通貨か。簡単に説明すると1バイトで一円くらい。1000バイト=1メガ。これで千円くらいの価値だ。最近じゃメガやバイトを使い分けるのが面倒だからバイトしか使わないってのもざらだが…」


「容量かよ。」「容量だね。」


「は?」


「いや、こっちの話。」


「ふん…ま、取り敢えずそうゆうことだ。明日から頑張ってくれ。」


「はいっ!」


 凛やる気だな…俺はあんまないが…


「おやすみ…」


「おやすみなさい。」


「ウム。また明日。」


 はぁ…明日から一体どんなことをしなきゃならないのか…

 俺と凛で全部のランプを消してそれぞれの寝床についた。


 ふぁーーー…疲れた…

 「ボスンっ」とソファーに倒れこむと…ン?何か背中にあたる…

 一回ソファーから起き上がって下をまさぐるが特に何もない…俺の服の中か?

 腰に手をやると…シャツとズボンの間に冷たい感触が……

ズボンに挟まっていた物を取り出してみると……これは…


「シングルアクションアーミー……Mk22…」


 古風なリボルバーとオートマチックだった。

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