SiDE-A
耳をつんざくようなセミの鳴き声が、時限爆弾のように背後から迫っていた。
否。気づいていないだけで、それは本当に時限爆弾の音だったのかも知れない。そして、気づいていないだけで、それは既に爆発していたのかもしれない。
「嫌いになった訳じゃないのよ」
そう言って彼女は眉頭を寄せながら右耳を掻いた。その仕草が私の心をあやふやにする。それが嘘をついていることを意味するのを、私は知っていた。もう三年も一緒にいるのだから。見逃せるはずなかった。
本当のことを言ってよ。そう言いたくても声が喉を通らない。喉の奥で何かを詰まらせたような音がなる。それはまるで首を絞められた女が最後に奏でた吐息のようだった。
いっそのこと、こいつの首を絞めてしまおうかと思った。一思いに。ぐっと。少しがっちりとしたその首筋に這うように手を沿わせ、少し浮き出た喉仏に沿うように親指を這わせる。そうして彼女が瞳で精一杯懇願してくるのを横目に、私は体重をその一点へと集中させるのだ。少しずつ、少しずつ。そうするうちに彼女の瞳は私ではなく虚空をさ迷い、手足は私を求めるように空をきり、そして枯れ葉のように地に堕ちるのだ。
嗚呼。そんなことができたら、どれだけいいだろう。
しかし彼女の手は私よりも大きい。体も。声も。そして、心も大きいのだ。
この三年間、私と生きてきてくれたことこそが奇跡に近いのかもしれない。そう思うと絞め殺されるべきは自分なのではないかと心で誰かが呟く。
「…また、だんまりを決め込むのね」
彼女は鼻に人差し指を当てた。それは鉤を描くように折れ曲がり、その姿はあたかも難事件を解き明かす名探偵のようである。
でも彼女が名探偵ではないのは、この私が一番知っていた。もしも彼女がそれならば、この小さなわだかまりも難なく解きほぐしていただろう。しかし彼女には洞察力はあっても確信を得るまで時間が長らくかかるのだ。
それが理由なのだ。
今回のコレも。
何度も側で見てきたからわかる。私がこれからどうなるのかも、彼女がこれからどうするのかも。単純明快なことだ。
私を殺してくれ、そう叫びたかった。






