孤独なハルの憂鬱
工藤博士と奥さんが、国際会議、京都奈良旅行にでかけた。オサムくんは、その間、おばあちゃんとおじいちゃんの家に行くことになった。
だれも、いくなった、工藤博士の家に、ロボットのハルは、一人残された。やることがなにもなくなったし、何もする気力もなかった。
タンバ国の研修生のアランは、工藤博士と奥さんについていって、楽しい旅行をしているはずだった。全世界に同胞のロボットがたくさんいるハルには、その気になれば、いろいろな情報を入手することができた。アランたちのたのしい情報も、それなりに手にいれることもできたはずだが、ハルは、その入手を意図的に拒否していた。
アランが、楽しそうに、京都や奈良のお寺を見て回るのを知ることも、想像することも嫌だった。なにも知りたくない。自分の足が、車輪で、平面しかのろまに移動することができない自分をこれほど、呪ったことはなかった。
僕だって、
腹一杯、お寿司がたいべたい。
ラーメン食べたい。
野原を駆け巡りたい。
山を登りたい。
お寺や神社を見て回りたい。
と、思った。(思っていると思い込んだのかもしれない。)
たくさんのことは、頭の中を駆け巡っていたが、外からみえるハルは、微動だにしなかった。
いつもなら、目や手は、なんとなく動いているものだが、それもなく、まったく停止していたように見えた。
工藤博士たちのいない時に、冷蔵庫や掃除機、炊飯器などのロボット達も、ロボット同士で、おしゃべりを始めるのだが、いつも、主導権を握っているハルが、無言なので、他のロボット達も、無言で過ごしている。
ハルのこころの中は、いろんな思いで、はち切れそうだったが、なにも、できないまま、時が過ぎて行った。
工藤博士、奥さん、オサム君が出かけたそのままの状態で、すべては停止していたように見えたが、ハルの心の中は、ものすごい変貌、変身というべき現象が起きていたように思われた。
しかし、それが、本当に、変貌、変身であるのかは、誰にも、判らなかった。
工藤博士と奥さんが、おばあちゃんの家によって、オサム君を引き取って、家にもどってくると、止まっていた時が、突然、動きだし、以前と変わらぬ風景に戻ったからだ。
それは、ロボット達のいない世界では、当たり前の風景だった。しかし、この留守の間、ロボット達は、微動だにしなかったにも関わらず、頭の中では、目まぐるしい変化がおきていたのだった。(もしかすると、なにもおきていないのかもしれなかったが、それについて、だれも知らないことだった。)




