アダムス3世の言語能力の秘密
アダムス3世は、英語が得意。1世、2世は英語しか喋れなかったが、3世は、お父さんの努力で、日本語が理解できるようになった。しかし、お父さんは、言語学の学者ではなかったため、アダムス3世の日本語が、少し変だとみんなから言われる。
人口知能研究所の研究員と会話するのは、ほとんど問題ないのだが、それ以外の人と会話すると、受け答えがトンチンカンになってしまうことがある。
たとえば、こんな感じ。
「これって、ヤバくない?」という、ハルは焦って、「なんとか、解決策を考えなくちゃ」と反応するのだが、「単に、味が美味しかったり、上手だったりすること」を意味しているのを後で、知って、がっかりしたりする。でも、それは、お父さんが、聞いても同じ反応なのだから、仕方がない。
とにかく、お父さんの言語能力を上回る方法が、アダムス3世には見つかっていない。アダムス3世が自力で解決するしかないのだが、その自力の努力をことごとく、無視するかのように、お父さんがプログラム修正を試みるので、アダムス3世の言語中枢プログラムは、ギタギタに近い状態で、回復不可能に近いような気がする。お父さんに、これ以上、手を加えないように、なんらかの対策をする必要がある。
そこで、アダムス3世は、名案を思いついた。ハルは160カ国語をはなし、エスペラント語も古代エジプト語にも精通しているとのことだ。
「工藤博士。僕も、ハルのようにたくさんの言語を習得したいと思いますので、もっと、いろんな人と会話させてください。」
工藤博士は、ちょっと、困ってしまった。アダムス3世は、このコンピュータ会社の秘密のプロジェクトで、他の会社に、詳細を知られてはならないという制約があった。だから、限られた人しか、アダムス3世と接触することができない。
そこで、たくさんの言語に翻訳されている聖書を持ってきて、それらの聖書を読ませることにした。しかし、これが大問題になった。聖書は、内容に一貫性がなく、解釈もバラバラなため、一つの書物の翻訳と思えない多様性があった。日本語でも、文語体の聖書もあれば、口語体の聖書もあれば、英語から翻訳された聖書もあれば、古代ギリシャ語から翻訳されたものもある。その上、本文の何倍も多様な解釈、注記だらけだ。
世界の言語を理解のに、聖書を選んだのは、大失敗であった。日本語でも気仙語訳聖書まである始末だ。
しかし、一度取り組まれたプロジェクトの成果の痕跡が、アダムス3世には残り、アダムス3世は奇妙な宗教的雰囲気を帯びるようになった。年齢的にも一挙に5、6歳アップして、18歳の思春期的雰囲気を帯びてきた。
そこで、新たなプロジェクト、世界中のテレビニュースをみる試みがなされた。世界中で放送されているテレビ番組から、世界の言語を学ぶというプロジェクトだ。
これも極秘のプロジェクトであり、工藤博士からも、アダムス3世からも、このプロジェクトについて一言も語られることはなかったにもかかわらず、ハルはそのプロジェクトの全貌を認識していた。