研修生アランの報告
一日の研修がおわり、寮に戻ったアランは、休む間もなく、パソコンに向かっていた。彼の記憶力は、素晴らしいもので、一度、見たことを細部まで、蘇らせれることができるのだ。パソコンを使いだして、視力はかなり悪くなったと嘆いていたが、視力は3.0を誇っていたので、コンピュータに書かれている小さな文字も読み取れるのだった。少年のころは、10kmのシマウマの縞模様も見分けられたということだった。
一日の報告
工藤先生の研究内容
アダムス4世の構造、言語能力
その他。寿司のうまい店、ラーメンのおいしい店
パソコンに入力をしおわると、時計をみた。
研修生同士のテレビ会議の時間だ。インターネットでつながった世界では寂しいということはない。どんなに距離が離れていても、一瞬で話ができるのだ。それも、ほとんど無料で。
アラン「ハロー、こちら、アラン。ゴードンいますか?バージルはいますか?」
ロジャー「ロジャー校長です。今日は特別参加です。」
ゴードン「はい、ゴードンもいます。元気です。」
バージル「はい。バージルもスタンバイ OKです。」
アラン「きょうは、おいしい博多ラーメンを食べました。」
ゴードン「アランの報告は、いつも、食べ物ばかりだな。こちら、MIT では、第8世代の人口知能の研究に着手しました。高速化と温度管理のため、人口知能を丸ごと液体窒素に中に入れるということを考えているようです。」
バージル「昔、そんな超高速コンピュータがあったなぁ。たしか、クレイとかいった名前だったが。それが、復活ということかな?」
ゴードン「規模がまったく違います。地下に、巨大液体窒素のプールをつくり、巨大なコンピュータを丸ごと入れて、コンピュータ速度を通常に8倍まで、高速化が可能になります。」
アラン「それはすごいね。工藤博士のアダムス4世は、すでに完成していますが、公開は現在、極秘になっています。アダムス4世は、一般のコンピュータとは別の理論で造られているので、他のメーカーがまねすることは不可能ですね。まあ、アダムス4世が、高性能人工知能かどうか、まだ、証明されていませんが。もしかすると、張り子の虎なのかもしれません。まだ、工藤博士からは、なんの発表もありません。」
ロジャー「アラン。君が、日本に行きたいというので、すこし、工藤博士について調べたが、どうも、得体の知れないところがある。もしかすると、ただのコンピュータ学者だけなのかもしれんが、もしかすると、とんでもない博士かもしれん。くれぐれも、博士に嫌われないようにしなさい。」
アラン「はい。この間、博士の家で、おいしいお寿司をたくさん食べました。」
バージル「この調子じゃ、ノッポのアランが。まんまるアランになるのも時間の問題だな。メガソフト社の世界最高の人口知能は、もうすぐ、再登場です。デープラーニングに、情報を識別する能力を追加して、情報の価値や質を見分ける能力を持ったそうです。ところで、ロジャー校長。とても、奇妙なうわさを聞きました。」
ロジャー「なんだね。その奇妙なうわさとは?」
バージル「前回、メガソフトの最高人工知能のホイを最初にインターネットに、デビューさせたところ、悪い知識をばかり、送り込まれて、馬鹿人口知能になってしまったんですが、そのアクセス先のほとんどが、タンバ国から、発信されたものだというのですが、なにか、ご存知ですか?」
ロジャー「初耳だな。タンバ国のコンピュータは、安価なものばかりだし、君たちが、我が国の最高クラスのエンジニアなのだ。君たち以外に、コンピュータを操作できるのは、ほとんどいないぞ。誰かが、我が国のネットワークを乗っ取って、アクセスしたのかもしれん。」
バージル「やはり、そうですよね。いろいろメガソフトの社員から、尋問攻めです。食事ものどを通らないとほどです。こちらは、アランと反対に、痩せぽっちのバージルになりそうです。なにも知らないとはいえ、とんでもないところに来てしまったようです。研究はほとんどさせてもらえないので、できるだけ早く研修をやめたいのが、本音です。ハイナップル社や、ソフトバンクス社、ゴロゴロ社か、どこかに行けるように、考えてください。」
ロジャー「それは、たいへんだな?。なにか、他のところへ行けるか考えてみよう。」
バージル「もう一つ。奇妙なことを聞きました。アレックスが、イギリス政府から指名手配されている。なんでも、イギリスの富を黙って、盗んだという噂です。なんでも、アルファー10とか、100というおもちゃのようなコンピュータを大量に売りさばいて、イギリスの株式市場を大混乱にして、イギリスの富を奪ったのだそうです。」
ロジャー「アレックスが国際指名手配されているのかね。とりあえず、アレックスに報告しておくよ。アルファー10、100は、非常に簡単な人工知能理論で造られた株式専用コンピュータなのだ。実は、一日に稼ぐ金額が少額で設定してある。1日10ポンドとか、100ポンドだ。どんなラッキーな日でも、決してそれ以上は稼がないのだ。損をした場合は、それを取り戻すようにしているが、それ以上のことはしない。それが、アルファー10、100の秘密だ。人間の場合は、「運」とか「つき」というものに、惑わされて、すぐ、損をしてしまうが、アルファーは、決して、そのようなことをしないのだ。実は、この単純な事実が解らないので、なぜ、アルファーは成功しているのか不思議に思っているのだ。なにか、不正をしていると誤解しているのだ。実は、タンバ国の大統領に、タンバ国の財政を、この方法で、収入を得る方法もあるといったら、大統領に大笑いされたよ。おまえはタンバ国を世界一怠け者の国にしたいのかって。そのために、君を呼んだんじゃない。君の新しい経済理論に、賭てみたんだと、言われたよ。君たちの大統領はいい奴だね。君たちは、タンバ国に生まれて幸せ者だね。タンバ国は、きっと、いい国なる。世界を導く力をいずれもつだろう。できるだけ、僕も頑張るからね。」
バージル「それを聞いて安心しました。アレックスが、国際指名手配犯ではないかと聞いて、夜も寝られなかったんです。」
ロジャー「イギリス政府は、公表していないが、経済困窮者に対する社会保障費がかなり、削減できた理由をいろいろ分析しているんだが、アルファー10の普及が大きいのではないかという推測もしているんだよ。そこで、もっと普及させたらどうなるか、いろいろシミュレーションもしているが、一定量以上を超えると、株式市場を混乱させるので、現在の以上は、投入できないんだ。非公式だが、イギリスの政府機関のIT企業が、アルファー10の特許と製造権を譲ってほしいと私のところに申し込んできたことがあったんだが、大量生産は、重大な問題を引き起こすので、政府による大規模生産計画はなくなったと、後で聞いたよ。僕たちも、アルファー10の成功で、アルファー100、1000、10000といった大規模なものを造ろうと思ったんだが、それは、無理だと気がついたので、アルファー10のみで販売で終了したのさ。」
ロジャー「アラン、バージル、ゴードン とにかく元気そうでなによりだ。この調子でがんばりたまえ。」
バージル「ロジャー校長。ぼくは、元気ではありません。もう、死にそうです。」
ロジャー「そうだったな。別に会社に研修するか、戻ってくるか、考えなさい。君の希望は尊重するよ。」




