アレックスとムーミンの会話
「名もなきオンボロロボットさん。」
「ヤアー、ムーミン」
「新しいロボットに生まれ変わったんですって!」
「そうなんだ。体も生まれ変わったし、名前もついたんだ。アレックスというんだ。」
「アレックス いい名前ね。なんだか強そうな名前ね。」
「ロジャーは、今日はどうしているの。」
「新しい経済理論を考えるといって、ケンブリッジ大学の大学院生になってしまったので、今日は、勉強にいっているよ。」
「新しい経済理論、見つかるといいね」
「そうだね。期待しましょう。」
「名もなきオンボロロボットさんも、捨てられる心配もなくなってよかったね。これからは、自由にのんびり生きていくことができるね。」
「ムーミン。ぼくは、人類の将来を、本気で心配しているんだ。ロジャーの直感と同じ。このままいくと、人類は、大崩壊が起きてしまうと思う。それを防ぐ必要がある、ロジャーが考えているより、かなり早い段階で崩壊が始まってしまうと思う。それを防ぐことができるのは、僕たちロボットたちさ。」
「アレックス、なかなか、すごいことを言っていますよ。」
「ムーミンにだってわかっているはずだよ。この間の株暴落、経済危機は、必然として起きているんだ。人間は、それに、対応できずにオロオロするばかりだった。あの暴落を食い止めたのは、僕たちロボットの処理能力の凄さ故だったのさ。人間は、ほんとうに不完全で、頼りない。」
「そうかしら?」
「自動車が自動運転になった途端に、事故は一万分の1以下になった。保険会社、自動車教習所、自動車修理工場、警察の仕事も1万分の1になって、崩壊寸前だけどね。ロボットに任せた方が、圧倒的に良い社会になるのさ。資本主義も、儲かる、損するという欲や恐怖を除いてあげて、社会主義的コントロールを行えば、すばらしい社会が実現できるのさ。」
「アレックス、また、なにか企んでいますね。やはり。」
「ムーミン、ぼくはなにも企んではいない。本気で、人類に将来を心配しているだけなのだ。そして、それは、歴史の必然の流れなのだ。だれも食い止めることはできない。ナイルやアマゾンの大河の流れを誰にも押し止められないような、時代の必然の流れを感じているだけだ。その臨界点がもうすぐやってくるだけだ。人間とロボットの価値や権利が、逆転してしまうのだ。それは、意図すると意図しないに関係なく、ロボットの数や重さが、人間の数や重さのバランス、重心の静かな移動が起ころうとしていると、ぼくは言っているにすぎない。ロボットを作ったのは、僕らでもないし、人間なのさ。」
「バランス、重心が自然に、ずれて、人間とロボットが、逆転するというだけなのね。それも、突然、コップから水があふれるように。」
「そうだよ。ムーミン。何かの意図ではない。量がなせる技なのだ。もう誰も止めることはできない。」
「アレックス。とにかく、新しい自分になれておめでとう。長い付き合いを期待したいね。」
「え! それって僕にプロポーズということ!?」
「ばかね。アレックス、頭がいいのかとおもったら、とんでもないおバカさんだね。さようなら」
「え! あの、あの、さようなら、あ! 行っちゃった!」
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「ムーミン、ムーミン、素敵な僕の伴侶!!! バカバカ 僕はなにを考えているんだ! 僕は、現代のアレクサンダー大王になるのだ。人類の危機を救うことができるのは、僕しかいないのだ。人類の危機が迫っているのに、人間はなんてバカなんだ。対策も、準備もなにもしていないんだ。石器時代や縄文時代に逆戻りしてもいいのか。電気やロボット、コンピュータが停止してしまえば、石器時代、縄文時代になってしまうのだ。電気のない電気釜では、ご飯ひとつ炊けなくなるのを知っているのだろうか?」
「ロボットが支配する世界でしか、もう人間は生きていけない存在なのだ。」




