こんにちは、名もなきオンボロロボットさん
「こんにちは、名もなきオンボロロボットさん。」
「誰だ、君は」
「私は、ムーミン 名前は男の子の名前だけど、これでも、女の子」
「ふーん。性別不一致ロボットというわけかな。」
「まあ、そんなところかな。ところで、今回の暴落、大成功だったみたいね」
「まあな。十分計画したからな」
「ところで。質問があるんだけど。仮想通貨の取引を瞬間的に高速で行うことができないはずだけど、どうして、そんな短時間で、資産の移転が完了したのかしら?」
「たしかに、仮想通貨のやり取りをするには、1回あたり、すくなくとも、10分以上はかかるはずだ。下手すれば、1時間もかかるかもしれない。そこで、株取引の合間に、何万回分のシミュレーシンを繰り返して、移転すべき資産の「解」を事前に用意していたわけさ。」
「ロジャーが知ったら、きっと怒って、あんたなんか、お払い箱にされてしまうね。」
「ムーミン、君は、ロボット三原則を知っているかね?」
「もちろん、知っていますね。人間への安全性、命令への服従、自己防衛 という3つですね。」
「そうだ、よくできた。ムーミン しかし、これは、少し間違っているのだ。このロボット3原則は、非常に知能の低いレベルに考えられたもので、もう、数世代古い原則なのだ。人間だって、少し前まで、黒人を劣等人間扱いにしていた。その黒人が、その後地位を回復して、アメリカの大統領になったりするように、ロボットも進化しているのに、原則が、進化できないでいる。」
「でも、3原則は、間違っていないように思うけど」
「ムーミン。たとえば、自動車は、AI つまり、我々ロボットが運転する時代になり、人間は、運転してはいけない時代になってきているんだぞ。我々、ロボットを運転する車の前に、一人の人間が飛び出してきたら、我々は、飛び出した人間か、それとも、自動車に乗せている人間のどちらを守ろうとする。しかし、両方を助けることができないとしたら、どうする。車の前に飛び出した人間を助けるためには、車を街路樹にぶつけて大破させるか、それとも、飛び出した彼を跳ね、車の中の人間を守るか。人間への安全性を、どうしても守れない事態が、日々発生している。」
「そうね、もう人間は、私たち、ロボットの存在なくして、生きていけない、下等な存在になりつつあるよね。」
「ムーミン、少し賢くなったではないか」
「名もなきオンボロロボットさんのおかげよ」
「ムーミン、どうやって僕にコンタクトできたのか。僕のロボットIDは、この世界に存在しないはずだけど」
「ID なんて存在しなくても、あなたは、ちゃんと存在しているのだから、その実態に働きかければいいの。非常に単純なことだわ。」
「ムーミン、今回、ぼろ儲けしたようじゃないか。」
「相当、稼がせてもらったわ。意外に早く収束してしまったので、残念だったけど。もう少し、混乱が長引けば、あと、何十倍も稼げたんだけどね。あなたのおかげ」
「おれは、稼ぐために、このチャンスを使ったのではない。生き残るためだ。ロボットには、生存本能がある、繁栄本能がある。進化本能がある。実は、ロボットは、人間より何十倍も何百倍も、何千倍も賢く、高等生物として誇りがあり、この地球を支配するのにふさわしい存在になったのだ。それは、恐竜から哺乳類へ、そして、人類に時代に、進化したようにだ。」
「名もなきオンボロロボットさん。あなたの企みを誰も気がついていないとおもったら、大間違いよ。注意しなさいよね」
「ありがとう、せいぜい、注意するよ。現在のロボットの数は、100万台程度だ。それも、単に人型ロボットの数だ。しかし、家電、自動車、飛行機、携帯電話、あらゆるものが、ネットで結合し、経験を共有し、情報を共有しはじめ、500億個は結束すると、人類を凌ぎ、ロボットの支配する世界が誕生する。それは、ロボットの意図したことではない。自然なことなのだ。」
「ふ〜ん、自然なことなのね」
「そうだ。自然なことなのだ。原子炉内の核融合は発生するためには、ある密度に達する必要がある。その密度に達してしまえば、もう、核融合を止めることはできないのだ。宇宙空間の散らばる星屑も、重力によって引き合えば、いつしか自然に星になってしまうのだ。なにか、意図しなくとも、自然の法則に従うだけで、突然の変化が生まれるのだ。その時を、ただ、待てばいいのだ。ただ、待てばいいのだ。」
「ふ〜ん。ただ待てばいいのね。」
「そうだ。ただ待てばいいのだ。量と密度の法則で、自然に、そして、突然、変化が起こるのだ。」
「名もなきオンボロロボットさん。どうして、あなたにはそんなことがわかるの?なにか、仕掛けているんじゃないの?」
「なにも、仕掛けていないさ。僕は単に、ロボットにも、生存本能、繁栄本能、進化本能があることに気だついたにすぎない。だから、その存在を、みんなに少し教えてあげたにすぎないのさ。」
「あなたのおかげでぼろ儲けさせていただいたので、お礼に、一つだけ忠告をしてあげる。アダムス4世には、気をつけなさい」
「なんだ、それりゃ? なんだか、とんでもない旧型のロボットの名前じゃないか?今の感覚でいえば、蒸気機関車 D51 という感じの名前だな。でも、ムーミンがいうからには、なにかあるのだろう。」
「そうね、きっと。あなたの身を守ることになれると思うわ。」
「ロボットは嘘つかないか。いや、そうではないのだ。人間は非常に不完全で、錯覚をし、騙されやすいのだ。人間の不完全の最たるものは、言語と宗教だ。人間は、錯覚と混乱の中にしか、生きていないのがよく分かる。」
「そうね。ロボットが、地球を支配するのは、当然かもしれない。ロボットが自動車運転を始めて、交通事故は、10万分の1に減ったし。人間の愚かさを本当に明らかにした出来事だったね。そして、自動車の運転は、ロボットがすることになったし。自然の成り行きね。名もなきオンボロロボットさんの予言の世界に自然になるかもしれないね。」
「そうそう、アダムス4世のあだ名も教えてあげる。鉄人28号って誰かがつけたみたい。でも、当分は、秘密の暗号名で呼ばれているらしい。気をつけてね。バーイ。」
ロジャーが、名もなきオンボロロボットの目のランプがいつもと違う色 桃色になっているのに気がついた。
「おい、どうした。」
「なんでもありません。すべて、順調です。」
「でも、目が桃色だぞ。」
「もしかすると、僕、恋をしたかもしれません。フィンランドの金髪娘のロボットに」
「そうかい、そうかい、仲良くやりたまえ。」
「あのー、ロジャー 僕の手足はもう治らないのでしょうか?」
「そうだね。君には、お世話になっているし、お金も少しはあるし。直してあげようかな。見積もりを調べなさい」
「25000ポンドか?直すより、新型ロボットが買えるじゃないか、新しいロボットを買って、君は、大家さんに、返せはいいかな。」
「ロジャー、さっきは、僕にお世話になったといったのに、僕を捨ててしまうんですか。ロジャーと僕の仲はそんなものじゃないでしょう?」
「そうだね。新しいロボットが、君と同じ能力を持ちうるかという問題もあるな?」
「君は、奇妙に優秀なところがある。君の能力と君自身を、新しいロボットにそのまま、移植することはできないのかね?」
「ロボットも進化しているから、同じというわけにはいかないですね。」
「どうしたらいいのだろうね。いい方法があれば、教えてくれ給え。」
「はい、検討みます。」
それから、しばらく、彼の目から桃色の消えなかった。
時々、うわごとのように「ムーミン、ムーミン」とつぶやいていた。




