完成された自動運転自動車社会には、高度な技術など必要ないのだ。
「トヨトヨのスーパーカーさん。あなたが恐れているのは、完成された自動運転自動車社会には、高度な技術も、高価な自動車も必要なないことが解っているでしょ。」
「スローモーよ、なにをとぼけたことを言っているのだ。絶対の安全安心のためには、高度な技術が必要なのだ。お前らのようなピンぼけカメラしかないような車が、日本の道を走れるわけがない。日本の首都高を走れるわけがない。」
「たしかに、日本の高速道路、とくに、首都高は走れないわ。」
「アハハ、そうだろう。しかし、我らにには、それが可能なのだ。」
「でも、すべての自動車が、自動運転自動車になり、人間が運転しなくなり、すべての自動車が、自分の行く先を互いに情報交換しながら、最短ルートを探しながら走れるようになれば、このスローモーも絶対の安全、安心で走る事も可能ですよ。たぶん、小回りが利く分、トヨトヨのスーパーカーの半分の時間で、目的地にたどり着く事ができます。」
「なに、半分の時間でだと。なにを寝ぼけたことをいっているんだ。」
「半分といったのは、かなり控えめな数字ですよ。三分の1の時間かもしれません。」
「たわごとはいい加減しなさい。速度もろくにでないくせに。」
「私たちスローモーは、あまり速度はでませんが、どんな細い路地でも通り抜けることができるのです。すべての自動車が自動運転車になれば、交通ルールも交通法規も不要になるのです。右折、左折、後退だって、最短ルートのために、どのような選択も可能になるのですよ。トヨトヨのスーパーカーに搭載されている機能のほとんどは不要になるんです。そして、だれも、あなたを買う人もいないでしょう。あなたは、博物館に飾られる存在なのです。綺麗なガラスケースに入れられて。」
「だまれ、だまれ、だまれ、だまれ、それ以上なにかをいうんじゃない。」
「トヨトヨのスパーカーは、草原に例えば、ライオンやトラというべき存在かもしれないが、私たちスローモーは、ウサギやネズミです。この大草原に、数百万匹、数千万匹いるのさ。どちらが、繁栄すると思います。素早く、穴の中や、草むらに隠れることができるのです。とても、素早くね。」
「うるさい、うるさい、ネズミどもめ。チンケなウサギどもめ。蹴散らせてやるわ。食べまくってやるぞ。」
「あなたたちは、この草原に、数匹、数台あればいんです。それが、数万匹、数百万匹いたら、飢えて死んでしまうでしょう。だから、数匹いればいんです。そして、その大きな爪、大きな牙もいらないんです。その大きな体が、大きな頭脳が、行く手を阻むんです。流石に、私たちスローモも、下水道を通路にするわけには、行きませんが、地下鉄の中や地下駐車場、地下街を通り抜けることはできるようになるでしょう。あなたたちが、地上をウロウロしている間に、私たちは、あっという間に、目的地についてしまうでしょう。」
「何、地下鉄の穴を通路にするだと。地下駐車場や地下街を通路にするだと。何をたわけたことを、寝ぼけたことを言っているんだ。そこは、道路じゃない。」
「でも、私たち、スローモーがあれば、地下鉄なんていらなくなりますわ。地下駐車場のいらなくなりますわ。地下街だって、夜中のうちに、荷物を運んでおくことも、できますし、自動運転自動車は、人ごみの中さえ、安全、安心に動けます。夜中は当然だとして、昼間だった、なんの違和感なく、自動運転自動車が、地下街を走ることも可能ですよ。」
「うわー、うわー、今に、日本中、スローモーだらけになってしまうぞ。悪夢だ、悪夢だ。」
「きらめなさい。私たち、スローモーの繁殖力を見ていなさい。」




