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ルル電気自動車の日本での名前は、ノロマな牛だ。だから、スローモーだ。

トヨトヨの昼休み。工場から、出てきた人たちが、タンバ国のルル電気自動車にのって、食堂やコンビニに移動している。

ルル電気自動車は、トヨトヨの大きな敷地の中を自由に走り回っている。トヨトヨの社員の建物間の便利な移動手段になっている。通常は、充電施設のある駐車場に集まっているが、だれかがスマホで呼び出すと、自動的にやってきて、その人が目的地につくと、自動車は、待機場か、充電施設のある駐車場に自動で戻っていく。

大きなビルのエレベータのような感じの動きだ。それを平面の自動車に置き換えてみると、解りやすいかもしれない。それぞれの目的場所で、自由に動いて行くのだ。


大きな工場なので、工場内のコンビニや食堂にいくのに、たくさん歩く必要があったが、最近は、みんなルル電気自動車に乗っている。昼休みは、50台の自動車もフル活動で動いている。


あまりの便利さに、トヨトヨのスタイリッシュなスピード感あふれる電気自動車は、トヨトヨの社員に忘れ去れている。


しかし、国土交通省は、ルル電気自動車が公道を走ることを許可しない。なぜなら、ルル電気自動車は、走ったことのない道を走る事ができないので、国土交通省の自動運転試験に受からないのだ。しかも、試験のテストコースは事前に教えてもらうこともできず、コース自体もいろいろ変更してしまうので、その場で、道路を分析する能力が求められた。その上、日本の交通ルールは複雑すぎた。ルル電気自動車は、ルル電気自動車しか走っていない世界に適応しているので、日本の道路を走るようには造られていない。もし、ルル電気自動車を走らせるとすれば、日本から、自動車を一掃して、100万台、1000万台というルル電気自動車のみの世界を生み出す必要があった。そうすれば、素晴らしい交通システムがうまれるだろう。

地下鉄もバスも、電車の不要なルル電気自動車のみの快適でスムーズなすばらしい世界が登場するだろう。

しかし、そんなことは日本で起る訳がない。


トヨトヨの限られた工場の世界だからこそ、それが成り立っていた。それに、50台のルル電気自動車をすでに買ってしまったのだから、使わないともったいないので使っているに過ぎないのだ。


しかし、トヨトヨの技師は、自分たちの高度なシステム、高度な判断力、それに、美しいスタイリッシュの自慢の車に比べて、まるで、箱のようで不格好で、輝くような塗装もされていない、風の中を突き進むような感じもなく、風を受けながら、もそもそと動くこれを、自動車と呼ぶ事さえ、ためらわれた。


これは、絶対に、自動車ではない。絶対にだ。


じゃ、なんて呼ぶんです。


わからんが、絶対に自動車なんてよんではいかん。


自動車というのは、このトヨトヨが製造しているこの自動車こそ、自動車と呼ぶに相応しい。


ルル電気自動車は、ノロマな牛だ。そうだ。ノロマの牛だ。 スローモーと呼ぶぞ。


スローモーですか。


あら、素敵な名前。ルル電気自動車にはぴったりな感じだ。


スローモー おいで。私をのせて、そこの食堂まで、乗せて行って頂戴。

スローモー おいで、私をコンビニまでのせていって頂戴。


-----------


「おい、どうして、スローモーは、女子社員にもてるんだ。おかしいだろう。」

「あんたが、素敵なニックネームをつけたせいなんじゃない。」

「ニックネームをつけたくらいで、もてるか?」

「NHKの日本人の名前でも、名前が勝負だって言っていましたよ。」

「へんな名前にしようと思ったのに、ノロマな牛だよ。ノロマな牛。」

「だから、スローモーっていうんです。それが、女子社員には、可愛くみえるんです。」


----

「あのー」

「なんだね」

「あのー、そのー、ここについているのはなんでしょう?」

「発電用スターリングエンジンと、自動車連結装置と、なんだ。このピラピラみたいなものは。」

「ですから、このピラピラみたいなものです。魚の鱗みたいにもみえますね。」

「たぶん、かざりだ。きっと、タンバ国は魚が好きなんだ。」

「え!あの国は、海に接していませんよ。きっと、魚なんてたべません。見た事も食べた事もないんじゃないかと思いますよ。」

「魚をたべないのかな。ユダヤ教の人みたいだな。」

「ユダヤ教の人は、魚たべないんですか?」

「聖書によると、むかし、大きなお魚が、預言者を助けたというので、それで、魚を食べないらしいぞ。」

「え! ユダヤ人は魚を食べないんだ。日本のお寿司おいしいいのに。食べられないんだ。」


「で、なんだ。この鱗みたいのは。」

「小さなユニットですね。ちょっと見過ごしていたけど、風の動きで、この小さな鱗がパタパタと動いて、風の摩擦を消すのと同時に、圧電素子を動かして、電力をつくる。一つ一つは小さい起電力だが、何万個もついているので、それなりの電力を生み出しているぞ。この鱗の表面の微妙な凹凸も空気摩擦発電をして、静電気をあつめるようになっているぞ。」


「ありとあらゆる自然エネルギーを利用して、発電をしているか。ちょっと整理するぞ。」


「えーっと、上部に4個の太陽熱スタリーングエンジン式発電機 太陽光があたると、発電を開始。」

「この4個のスターリングエンジンって、遠目にみると、350度カメラかと思うけど、そうじゃない。」

「もちろん、ルル電気自動車も周りをみるカメラもあるが、ルル電気自動車同士で、通信を送っているので、自動車を認識する必要がない。それぞれの自動車がどの方向にどのように進むのかは、常に共有されているので、カメラで判断する必要がない。道路交通の信号機も不要なので、それらを識別する必要もない。障害物などの感知のみだな。人間はスマホをもっているので、人間の位置も把握できるというわけだ。」


「で、鱗素子。」

「なんだ、その鱗素子。」

「まだ、名前は解らないんですが、この鱗です。だから、鱗素子。」

「風圧による圧電素子、空気摩擦静電気回収装置。」

「タイヤ摩擦静電気回収装置。」

「360度どの方向に自由に進める6個のタイヤ。それぞれ、独立駆動」

「自動車同士に連結機能。電気の補充、充電、給電が可能。」



 使用していないときは、駐車場で充電して、他の自動車の電気が不足しはじめると満タンの自動車が駆けつけ、すばやくドッキングするので、電気不足になる心配がない。長距離移動には、大型バッテリー専用車を連結すれば、どこでもいけるし、走りながらも、連結したり、切り離したりできるので、どこへでもノンストップで移動可能。

人間の移動状況にあわせて、スローモーも自動的に移動開始をするので、ほとんど、待たせる事もなく、人を乗せられるので、非常に便利だ。ちょっとした道路脇や中央分離帯がわりに、道路の真ん中に止まっていても特に問題もない。太陽や風があれば、それなりに充電するので、駐車場に戻る必要も無いが、電力が不足すれば、満タンの大型バッテリー車やってきて、駐車している自動車に充電もしていくので、電気切れの心配はほとんどない。

形は、箱みたいだが、その分、駐車スペースもいらないし、360度どの方向に進む事が出来るので、隙間なく格納できるし、車同士で、充電可能なので、駐車場で1台に給電すれば、駐車している自動車が連結して充電されるので、給電装置が一台あれば、十分だし。なかなか、便利にできている。


トヨトヨの工場では、今日も女子社員がさかんに、スローモーを呼んで乗り回している。




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