トムサムソンの旅
アメシアスタン国の本当の姿を求めて、旅に出た、トムサムソンは、山の中の古代都市の廃墟に辿りついた。考古学者の研究によれば、2万年以上の昔に、栄えた古代都市だと言うが、今は、国民から忘れら去られた古代都市にあった。山肌をそのまま、くり抜いて、巨大な神殿が、山の洞窟の中へ中へと彫り込まれたいた。
かつては、緑豊かな大きな池の見下ろす山の中腹に作られたものだったが、時代の流れによって、大きな池は消え、川の流れも大きく変化し、人々の住める環境ではなく、打ち捨てられたようだ。2万年といえば、最後の氷河期で、この辺一帯も大きな氷河に覆われ、人が住めくなったのかもしれない。谷間の集落は、氷河期の終わりによって、全ては流され、大都市の痕跡は無くなってしまったが、山の中腹に掘られた大神殿は、何とか残っていると言う感じであった。
トムサムソンは、次の町に行く途中に、行程上、ここで一泊することになった。
神殿の入口脇を、今夜の寝ぐらと定め、夕食のために火を起こし、小さな焚き火に、夕食の準備していると、奇妙な感覚に襲われた。
その大神殿の壁に掘られた巨像たちが、動いたような気がした。自分を見つめているような気分に襲われた。
夕食も済ませ、コーヒーを飲んで、漆黒の夜空の中に、星々を眺めていた。すると、半分欠けた月が、煌々と輝き、神殿の像を、立体の影が浮かび上がった時に、トムサムソンの意識は、空中に飛びだし、薄暗い月明かりしかないのに、真っ暗な神殿の奥へ、飛んで行った。なぜ、飛んで行ったと書くのかと言うと、自分の足で歩いて行ったのではないのは確かだったので、飛んで行ったと書いたのだが、飛んだと言う記憶もなかった。気がつくけば、そこにいたと言うべきなのだろう。
今は、山の中の電気も何もない、古代の神殿の廃墟で、誰もいない場所である。明かりといっても、神殿の入口脇のトムサムソンの小さな焚き火と半月の月が、煌々と、輝いている以外に光は存在しないはずだった。
だから、洞穴の奥の神殿の祭壇は、全き暗闇のはずだった。
ところが、トムサムソンには、洞穴の中の神殿の中が見て取れた。何か、あかりで、照らされたと言うわけではない。昼間の光が、洞窟の奥を照らしているわけではない。松明のような燃焼による明かりでもない。
多分、トムサムソンに、暗闇の中で、物が見える能力が突然、出現したとしか考えられなかった。
しかし、2万前の時空を飛び越えていたのかもしれないが、それを、証明する何かが、存在しているわけでもなかった。もしかすれば、夢をただ、見ていただけなのかもしれなかった。
神殿の暗闇の祭壇が、光が存在しないまま、明るく輝き、神殿の内部が、細部まで、見て取れた。すると、神殿の奥の中央の像が、空中に浮かび上がり、トムサムソンに、言葉を伝えた。言葉とはいえないメッセージ、映像の塊のような物であった。
何か、メッセージが、塊として。立体の塊となって、音声、映像、時空が、伝えられたのあった。それは、多分、一瞬の出来事だったはずだ。しかし、その塊は、古代都市の神殿の生まれようとした初めから、その滅亡までの数千の歴史、その民族の歴史が、詰まっていた。メッセージ全体を理解するのは、トムサムソンの残りの人生の全てを使っても、理解できないほどの大量のデータ量であった。
しかし、トムサムソンは、この古代神殿に隠されていた、宝を自由に使って良いこと理解したのであった。その宝とは、民族の王の宝冠、劔、宝石の数々、そして、無数の金貨、銀貨だった。それは、一人で運び出せる量ではなく、多分、その価値は、現代、アメシアの国家財政という規模を基準に考えても、100年間は、税金を取らずに国家運営ができるというべき、規模であった。それは、単純に計算できたというより、メッセージの塊の中に、隠されたメッセージの一つに過ぎなかった。
その財宝を自由に使って良いというメッセージを得たのだった。
それを例えれば、イエスキリストの聖杯伝説がリアルの存在したというべき現象に出会ってしまったのだ。それも、誰にも、知られることなく、トムサムソンのただ一人のみ伝えられた。
そうであることも、そのメッセージの塊に含んでいた一つのメッセージだった。
夜が明けると、朝陽が、神殿の奥を照らし始めたので、トムサムソンは、ゆっくりと中に入ってみた。すると、昨夜の出来事と同じ風景が、そこにあった。初めて見る風景だったはずなのに、細部まで、すでに見た風景が、そこにあった。すでに、そこに、何十年も住んでいたかのように、神殿の奥の各扉を開けた。それは、巧妙に隠された隠し部屋だったのに、トムサムソンは、すでに、何度も何度も出入りした経験があるもののように、自然にとの隠し部屋の扉を開けた。
その部屋は完全な密閉空間で、奥に小さな祭壇があり、宝冠があり、左右の宝剣があった。誰にも荒らされた形跡はなく、整然と全てが収まっていた。2万年前に封印されたままだった。その封印を解いたのは、トムサムソンが初めてだったことは明らかだった。それは、それを見たからわかっただけではなく、メッセージの塊の中にも、そのことが含まれたことがわかった。
そして、2万年前の民族の復興、文明の復興を、トムサムソンに、一人託されたのだった。その文明復興の軍資金として、トムサクソン一人に託されたのだった。
そして、メッセージの塊の指示に従うように、宝冠の前に置かれていたペンダントと1kgばかりの砂金の袋を
手に持った。ペンダントは、首から下げ、砂金の袋はリュックの中に入れ、神殿の隠し部屋を元あったように、封印した。封印の方法は、2万年前と同じように、正しい手順で行った。そして、それは、誰にも知ることのできないように隠し部屋にたどり着く方法は、完全に隠された。
アメシアの山々には、砂金のある川が、存在していたが、それは、五百年前あたりの当時の豪族の資金源になったことが伝えられていたが、すでに、その砂金は掘り尽くされて、最近は、もう見つからないと言われていた。しかし、時々、一攫千金を掘り当てようとする山師たちが、山の中の沢で砂金を求めて、彷徨う人がいるのは、トムサムソンも知っていた。だから、山の中で、砂金をみつけたという説明は、問題がないように見えた。しかし、一度に、一キロをみつかたのはあまりにも不自然なので、必要な量のほんの数グラムを現金に換えた。
親もおらず、金もない、貧乏の青年だったトムサムソンは、2万年前の超古代文明の知恵と莫大な財宝を一度に手に入れてしまい、アメシアの大統領にならなくても、世界の大富豪、世界の知恵者として生きていくことも簡単できそうな環境を手に入れてしまったといっても過言でなかった。
しかし、神殿の奥で、伝えられたメッセージの塊は、2万年前の文明、国家の再興が託されたのであり、トムサムソンが、単なる世界の大富豪として、わがまま放題に生きることを認めてくれないことを伝えていた。
もし、私利私欲に生きようとすれば、あのメッセージの塊の記憶は全て失われ、二度とあの神殿にたどり着くとはできないことがわかっていた。それよりも、その神殿の記憶すら全て、失われ、神殿も財宝の存在を一生涯、思い出すこともできないことになると、そのメッセージの塊は、伝えていた。
しかも、それは、トムサムソン一人だけではなく、この2万年の時の中で、何百年の一度という頻度で、すでに、16人の人間に、同じことが起こり、文明、国家の再興に成功したものはなく、全ては忘れ去られたのだという。トムサムソンは、17番目の選ばれた挑戦者であった。
このメッセージの塊のその生涯をかけて分析し、実現に行うことがどんなに至難なことであることも、メッセージの塊は伝えていた。
トムサムソンが、メッセージの塊が伝えたことを実現できなかったしても、誰も、責めたりしないと、メッセージの塊は伝えていた。それほど、難しいことは、メッセージの塊も十分理解していると伝えてもいた。
洞窟の神殿といえば、ルルンバ山の洞窟神殿跡を思い出す人がいるかもしれないが、このアメシアの山の中の大神殿の完成度、保存の良さは、比較にならないほどのものであった。それは、ペトラ遺跡のような完全さで、残っていた。壁や天井に描かれた絵画や彫刻は、絵の具の色は、ところどころ剥がれていたが、今なお、完璧というべき、保存状態で残っていた。そして、解読不能の文字が描かれていたが、トムサムソンは、一瞬という時に、メッセージの塊として受け取ったので、その見知らぬ絵やレリーフ、文字を、メッセージ塊の中から必要につむぎ出して、即座に理解したのだった。理解したというより、それは、すでに知っていることとして、自然に理解したのだった。




