おかえりなさい ゴードン
タンバ国の国際飛行場に、ボーニング797が到着した。降りてきた乗客が20人ほどで、飛行機の中は、ゆったりとしていた。
タラップを降りるゴードンに、タンバ国の太陽と熱風のような風が、当った。ゴードンは大きく息をした。最近、十分な空気を吸っていなかったのを思い出した。雪と氷の世界から、ようやく舞い戻ってきたのだ。
飛行場を出ると、バージルが車で向いにきていたが、その車は実に奇妙な感じであった。ハンドルもなく、四角箱のような感じで、どこが前なのか、後ろなのか、良くわからない感じであったが、バージルがドアをあけると4つの席が向い合わせに並んでいた。そう、昔の馬車のように、4人が向い合わせに座る感じなのだ。
車は、音もなく、どの方向とも定まらない感じで移動した。車が走るという感じなのではない。箱は、横に移動する。予告もなく、なんの前触れもなく、単に移動する。それも、箱の正面とか横に移動するというのではなく、別に、箱の位置に関係なく、どの方向とも関係なく、箱は走り出した。いや、走り出したのではない。移動したに過ぎない。タンバ国について、十分な知識があるゴードンにとっても、この奇妙な箱の移動は、いったい、飛行場から科学技術大学の玄関まで、どのような道順で走ったのか、いや、移動したのか、まったく説明できないのだった。瞬間移動ではないのだが、確かに、30分間の時間をかけての移動であったのだが、この箱が、どの道をどのように走ったのか理解ができないのだ。自動車のように、カーブを大きく描いて移動するのではなく、まったくの直角ターンのような感じで、角を曲がるのだ。すべての自動車は、廃止され、自動運転交通システムになっているので、道路には信号は存在せず、この奇妙な箱は、飛行場から科学技術大学の玄関まで、一度も止まることなく走った、いや、移動したのだった。どう考えても、この箱が走るという表現はふさわしくない。この箱を、自動車と呼ぶこともできない。
いったい、どう表現したらいいのか、まったく、判らない。言葉を失おうというのは、このような時に使う言葉にちがいなかった。
バージルは、ゴードンの戸惑いを楽しそうにみていて、あまり、説明をしてくれない。むしろ、これから起こることを、敢えて説明しないで、ゴードンを驚かせたり、戸惑わせたりしたがっているようで、ほとんど話しかけてこない。
ようやく、科学技術大学の玄関について、箱からゴードンがおりようとすると、不覚にも足元がふらついた。箱酔いという現象だが、バージルは楽しげにみているが、ゴードンにはなにか、起きたのか説明がつかない。ようやく、ゴードンの足元がしっかりしてきたのを見届けると、バージルがようやく口を開いた。
「ゴードン、タンバ国の最新交通システムの乗り心地は、どうだね。」
「バージル、なんだが、へんな気分です。遊園地で、へんな乗り物にのって、酔ってしまった感じを思い出します。」
「ゴードン、始めは、みんな、この変な乗り心地に、戸惑うんだが、しかし、乗り物がこれ以外になってしまうと、すぐ、なれるから心配いらないさ。実に便利で効率的にできている。移動時間が、4分の1程度になったぞ。これも、ルル電気自動車のすごい技術だな。」
「バージル、アランは元気ですか?」
「アランは元気だ。いろいろな自動車をどんどん作っているぞ。なんでも、ニホンのクドー博士の技術をいろいろ応用して成果をあげているという話だ。」
「アランは、ニホンにいっていろいろよかったですね。フィンランドは、雪と氷の世界になって、ほんとうに日が射さないんです。もう、地球の最後の日がだんだん迫ってきるという雰囲気で、とても、生きていけそうもなかったんです。」
「ゴードン、僕はまだ、街中が雪と氷に埋もれてしまうという世界をみたことがないんだ。氷は、冷凍庫で作られるのを見る程度で、巨大な氷は見たこともないし、山は雪で覆われてしまうというのも見たことがないんだ。一度、体験したいものだ。」
「バージル、2,3日なら絶対楽しいと思いますが、毎日、どんどん昼間が短くなって、雪が一日中ふっているのを見ていると、もうすぐ、地球の最後の日がくるという気分になってしまうんです。」
「よかったな。この太陽と灼熱のタンバ国に戻ってこれて。」
「ほんとうです。ようやく生き返った気分です。今まで、息を吸っていなかったような感じでしたが、飛行機から降りるときに、本当の空気というのに、出会ったような感じでした。」
「じゃ、ロジャー校長に挨拶しようか。」
「お帰りなさい、ゴードン。フィンランドの冬は、寒かったろうね。」
「ほんとうに寒かったです。雪と氷の世界で、人間は生きられないのに、フィンランドの人は元気に生きていました。もう、信じられない光景です。」
「まあ、タンバ国は1年中、夏みたいなものんだからな。いい経験をしたな。ゆっくり休みなさい。ところで、これから、どうする。」
「まだ、なにも考えていませんが。」
「じゃ、しばらく、科学技術大学で、先生をしなさい。15回分の授業内容を考えたら、報告してください。それで、問題なければ、授業をしてください。なにか、研究したいことなどがあればっ申し出てください。ところで、この首都タンバに池ができたぞ。行ってみるとたのしいぞ。ただし、かってに泳がないように。それに、大きなザリガニはいませんよ。」
「池ですか?このタンバ国に、池???」
「まあ、散歩にもいってごらん。池と緑の草と、花が咲いて、かつての乾いた大地とほこりの国ではないことを実感できるよ。アフリカでもっとも豊かな国の一つになろうとしているんだ。」
「へえ、私のいない間に、とんでもなく変化してしまったのですね。」
ゴードンは、自分の家に帰ると、両親との挨拶をそこそこに、つかれたから寝るといって寝てしまった。ぐっすり寝たいので、起さないでくれと、両親に言って寝たのだが、24時間がたっても、起きてこないのをみて、さすがの両親もおろおろしだした。
ゴードンは、タンバ国の暑さが体の中にしみこんでいくのを心行くまで、たのしんだ。眠りながら、生命が甦るのを感じた。空っぽになったバッテリーが充電されて、満タンになるように、24時間の灼熱の熱さが、ゴードンを蘇らせたのだった。
24時間後に目を覚ましたゴードンの前に、医者やバージル、スコットが、覗き込んでいる顔があった。医者が、私の治療の効果によって、ゴードンは目を覚ましました。と、言った。
バージルが、「ゴードン、お前が死んでしまったというから、慌てて、やってきたんだぞ。目が覚めてよかった。よかった。」
「あのねぇ。僕は、ぐっすり眠りたいから、起さないでくれってたのんだはずだけど。」
「でも、ゴードン。それにしたって、24時間も寝るやつはいないぞ。だれだって、心配するじゃないか。」
「24時間も寝たのか、それは確かに寝すぎだな。おかげで、すっかり元気なった気がする。」