ルル族の雨乞いの儀式
7月15日は、いつものように晴天だった。
首都タンタンバの南の窪地の平原を、ルル族の雨乞いの儀式を行う場所に整備され、大テントが準備された。
ルル族の長老が5人集まり、小さな焚火を囲み、大きな声で歌を歌い出した。1週間前から、雨乞いの踊りを練習してきた、200人の若者の男女が、その周りに取り囲んで踊り始めた。
国家的行事として準備されたので、首都の住民や、周辺の都市の人たち、そして、隣国からも、観光客がやってきて、いったい、どのようなことになるのかと、見守っていた。
ルル電気自動車も、ルル族のみんなを載せてやってきていたし、アランもやってきていた。
ルル族の雨乞いは、ルル族の者しか知らないので、タンバ国でもはじめてみる人が多かった。
プログラムによれば、この儀式は雨が降るまで続けられると書かれており、雨が降る出す雨季まで続く場合も想定されているようだが、今回は、最長でも3日間が、国家行事期間として設定された。
最初の踊りが終わると、寸劇なのような場面に変わり、長老たちが、自然の神々の訴えを聞き、それに応えるという場面に移っていった。
自然の神々は、若者たちが、分担して担当する。つまり、200人の自然の神、動物、植物、昆虫などの神になる。
ライオンの神は、3年前に、餌がなくて、苦しんでいるライオンがいたのに、人間たちが、それを助けてくれなかったことが、この旱魃の原因だとのべると、ルル族の長老は、その訴えに心から謝り、これから、ライオンたちが困ったときには、助けようと誓いを立てていた。
そうすると、ライオンの神に扮した青年は、長老の側につき、長老たちと一緒に、天を仰いで、雨乞いをした。
次に、ゾウの神は、ゾウの道を横切るように、自動車の道路が出来たため、とても、困っていると訴えると、長老たちは、道路の下にトンネルをほって、ゾウの道を作ることを約束した。そのトンネルの場所も細かく位置決めがされた。すると、ゾウの神に扮した青年が、長老の側につき、長老たちと一緒に、雨乞いをした。
そのようにして、50人の神が、長老たちと一緒に、雨乞いをするころになると、あんなにカンカン照りの空の一角に、小さな雲が一つ、二つを生まれだしてきた。
ロハハ大統領は、次々と、動物などの自然の神々に、ルル族の長老がどんどん約束をするのを、ハラハラしながら見ていた。この雨乞いでいくら国家予算を使うことになるのは、少し、心配になってきた。
ロハハ大統領が、これから、どんな神々が登場するのか、後ろのほうを眺めると100番目あたりの神に、トノサマバッタの神がいるのを、見つけた。ライオンの神や象の神の希望を受け入れるのは、まだ、良いとしても、トノサマバッタの神の願いを聞き入れるのは、タンバ国の崩壊の危険を招きかねないとして、バージルに、中国の雨降しのミサイルを打ち上げるように指示を出した。一刻の猶予もなかった。
上空に、鈍い光と音がして、にわかに、雲が出現した。その雲が、円形の雲であった。それが、連続して5つできると、ポタポタと雨が落ちて来た。乾いた大地に、落ちた雨は、地面に当たると、濛々たる砂煙が巻き上げて、水蒸気と化していった。
すると、土砂降りの雨が降り出し、多くの人たちが、あまりの雨の激しさに、声をあげて、逃げ出し始めた。
そして、雨乞いの儀式は、終了になった。雨が5時間ほど降り続き、夜中に雨がやんだ。
ルル族の雨乞いが、今回も、大成功となり、雨乞いの歴史に、成功の文字が付け加えられた。
タンバ国の気象庁は、なぜ、雨が降ったのか、科学的に分析を進めた。すでに、小さな雲が出来始めていたのだから、雨乞いは、成功していたのかもしれない。それを5発の中国の雨乞いのミサイルが混乱させてしまったのかもしれなかったが、この5発の中国のミサイルのことは、ルル族に知られてはならない、タンバ国の国家機密として封印された、ミサイルは、かなり離れた場所から打ち上げられたし、上空で爆発して雲を湧き出させたので、それが、ルル族の力なのか、ミサイルの力かは、判別するものはいなかった。ルル族の初めて見る雨乞いが、どのように展開するのか、知る人もいなかったのだ。ルル族の長老たちでさえ、なにが起るのか知らなかったのだ。ルル族には、文字がなかったので、雨乞いの儀式も、長老たちに口伝に伝えられて、それを思い出しながら、雨乞いをしたに過ぎない。
ルル族の雨乞いが大成功となり、ルル族の長老たちは、無形文化財保持者として、ロハハ大統領より、タンバ国大名誉勲章が授与されることになった。
そして、ロハハ大統領は、ルル族が自然の神に約束した約束を果たすということを、国民の前で誓わなければならなくなってしまった。すこし、国家支出がふえるかもしれないが、大旱魃の危機を乗り越えたのは、大きな成果であった。しかし、毎回ルル族に登場してもらう訳にはいかないとも、感じた。
やはり、大きな池を可能な限り建設し、同時に、灼熱の砂漠の大地に、緑豊かな大地に変えていく必要があった。アランの考えた巨大サボテン作戦だけでは、すこし、パワー不足でもあった。
今回、儀式の用意した窪地にも、水がたまり、少し池らしく見えてきたが、このまま、一週間もすれば、この小さな池は干上がってしまうに違いなかった。
防水シートを敷き詰めて、堤を作って、大きな池になるにしなければならなかった。たぶん、名前はルル族の雨乞いを記念して、ルル湖になるに違いなかった。
3人の政治家秘書ロボットも、あまりの展開に、声もなく顔を見合わせて、だただた、無言に、この現象をどのように考えて、整理して、意味づけをするのか、混乱を極めていた。
あまりにも、不合理な、理解不能な、解析不能な、出来事だった。