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無料コーヒー店のお客様

大統領様は、大統領執務室に行く前にムーンライトたちの無料コーヒー店に立ち寄って、ムーンライトに、雑談をしかけたり、無理難題を出したりして、大統領様なりに、ストレスを発散しているようでもあった。毎日来るところをみると、大統領様にとっても、楽しいに違いない。

今日も、ムーンライトを困らせて、ムーンライトが返答に困っていると、意気揚々と、返事は、明日聞こうと言って、立ち去っていった。大統領様は、ご機嫌で、鼻歌交じりで、足取りも軽いようだった。


大統領様が去ってしまうと、無料コーヒー店は、ひと時の静寂がくる。店の開店10時まで、しばらく時間があるが、若造は、これから来るお客たちのために、コーヒーや軽食の準備をし始めていた。

ムーンライトは、ロボットなので、無料コーヒー店の具体的な準備はできず、接客が中心なので、しばらく、沈黙の時を過ごしている。


10時15分ごろ、見知らぬ大男が黙って入って来た。ムーンライトが、明るく「おはよう」をいった。

ひげ面の大男は、「コーヒー」と一言いった。そして、「無料だそうだな」と、付け加えた。


若造が、大きなコーヒーカップに、なみなみとコーヒーを入れて、もってきた。


大男は、「ふー、ふー」と言いながら、コーヒーをすすり、「上等なコーヒーを入れているな」とぼそりといった。大男は、体力、気力はありそうだったが、すこし、年配のようにも見えた。


ムーンライト「コーヒーはお好きですか?」といって、話のきっかけを探っていた。この人は誰なのだろうかと、CPUは、目まぐるしくサーチをしていたが、手掛かりらしいものは、なかった。


ムーンライトは、若造に目配せをしてから、「今日はこの国が国旗を定めた記念日なので、お祝いのウイスキーがありますが、飲まれますか」と聞いた。もちろん、なんの記念日でよかったので、それらしい記念日を適当にいっただけだが。


大男は「おお!」と言うので、ムーンライトは、「お客様に記念日のウイスキーをお出しして」と、若造にいった。若造も、ムーンライトの付き合いにもなれてきたので、別に戸惑うこともなく、さりげなく、今日は、本当に記念日であるかのように、ウイスキーをグラスに注いで、客の前に出した。


5杯ほど、立て続けに、グラスをあおると、ムーンライトが聞くともなく、大男は、喋り出した。


「世が世なれば、俺は、天下を治めていたのだ。大タンバ帝国の大統領だったのに、あの宿敵、ナロハに、国を追われたのだ。いつか、返り咲得てやる。世が世なれば。。。」


ムーンライトは、なりげなく、「タンバ国からおいですか?」と聞いた。


大男は、ギロリとムーンライトを睨むと「おいで、おいで、おいではない、追い出されたのだ。あのナロハに。」


ムーンライト「そうですか? タンバ国の弱点は、水が少ないことですね。そして、食糧生産が、あまりできないことです。」


大男「タンバ国は、灼熱と砂漠の国だ。うまいものがあまりない。」


ムーンライト「それに引き替え、この国には、豊かな川と湖、豊富な水がありますね。新しい農地を造成していますよ。今なら、無料で、農地をくれますよ。この地で、大規模農家になって、成功なさいませ。」


「俺に農家になれと。この俺に、農家になれと。俺に鋤や鍬を持てと、本気で言っているのか?」


「本気に言っていますよ。がんばれば、きっと、大成功をしますよ。大成功すれば、富も、人材もそして、名声も手に入れられます。クーデータを起こしても、失敗するかもしれません。仮に成功しても、安定した政権をつくることなど、できません。クーデーターでは、国民の信頼を得ることはできません。それに、ナロハ国防大臣は、強敵です。抜かりがありません。絶対に勝てませんよ。」


「お前は、ナロハ大臣について、何を知っているのだ!!」


「タンバ国の国民も、この国の大統領様も、この国の国民も、ナロハ国防大臣の実力と名声をみんな知っています。この国で、それを知らない人に出会ったことがありません。」


「たしかに、ナロハは、強敵だ、ロハハは、若造だから、なんとでも、なるが、ナロハは、むずかしい。こちらの味方になることはありえない。ナロハを排除する方法を見つけなければ、ならない。」


「今なら、ただで、大規模な土地が手に入り、大規模農家になれますよ。それで、成功すれば、富と名声が、手に入ります。名経営者の名も、手に入ります。そうすれば、あなたに政治家になってほしいという声もでてくるでしょう。この国の大統領になってほしいという声も出てきます。この国は、タンバ国の20倍も大きな国ですよ。それが、自然にあなたの手に転がり込んでくるかもしれないのです。武力など使わずに。」


「そうか、自然にこの国が手にはいるのか?」


「もちろん、そうするには、努力が必要です。遊んで、この国が手に入るわけではありません。農家として大成功する。名経営者になる。名政治家になる。そのうえで、国民に望まれて大統領になるというステップが必要です。大統領になれるかは、選挙で決まるので、国民の信頼と支持が必要です。」


「俺は、大統領になれるだろうか?」


「難しいかもしれません。しかし、クーデーターを起こして、討死したと思って、死ぬ気で、努力すれば、もしかすれば、もしかするかもしれません。そのためには、己の欲を隠して、人のため、国のために働く必要があります。油断をしてはいけません。けっして、野望を表に出してはいけません。どんなに苦しくても、人のため、国のために生きるのです。その決意がないのなら、大統領になることはあきらめる必要がありますね。大統領になれなくても、名政治家にはなれるかもしれません。政治家になれなくても、富と名声をえた、農家になれるかもしれません。この国に、「我あり」という、この国一番の農家には、なれるでしょう。そうなれば、選挙のための資金も人望を、協力者も現れますよ。きっと。」


「...」


「農家におなりになりませ。」


「お前の声は、誰かに似ているとおもったが、死んだ母さんの声としゃべり方が、そっくりだ。」


「そうですか」


「お前は、その声で、俺に農家になれというのだな。」


「ここに、申し込み用紙がありますが、記入されますか?」


「そうか、記入しようか」


「この際、名前を変えましょう。素敵な名前にしませんか?」


「どんな名前がいいかな」


「ロバート ファーマー というのは、どうですか。素敵でしょう。」


「ロバートか、いいだろう。ロバートにしよう。」


「立派な農家におなりなさい。」



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