ハル君のタンバ国サファリツアー報告会
工藤博士のおばあちゃんとおじいちゃんが、タンバ国サファリツアー報告会を聞くためにやってきた。
オサム君とハル君は、プロジェクターとスクリーンの準備をしていた。本当に準備したのでは、アランだったのだが。その横で、オサム君とハル君は、報告会のリハーサルを何度もしていた。
スクリーンを前に、おばあちゃんと、おじいさんがならんで座り、工藤博士やお母さんは、ワインを片手で、何かを食べていた。
ハル君の小型自動車型子機が、中央のテーブルの上の置かれ、そこから、プロジェクターが出ていた。
オサム君が、前に出て、「えへん」といった。
「これより、アランの故郷 タンバ国のサファリツアーの報告会をします。」
まず、スクリーンには、日本の地図が映し出され、それから、地球に変化し、その地球がアフリカ大陸を写しだし、タンバ国を目指して、拡大していった。
ハル君のナレーション
「タンバ国と日本には、飛行機の直行便はないので、一度、フランスまで行き、そこから、タンバ国への飛行機に乗り換えます。約20時間に飛行機の旅でした。みんな、ヘトヘトで、タンバ国につきました。」
「まだ、3月だというのに、タンバ国は、赤道直下の灼熱の太陽が輝いていました。」
「おや、かわいい少年がいるね。誰だい?」と、おばあちゃんが言いました。
「はい、タロウ君という国防大臣の家の少年ロボットです。」
「へえ、ロボットねぇ。かわいいロボットじゃないか。」
オサム君「サファリツアーに一緒にいったんだよ。とても、楽しかった。」
「では、では、出発しまーす。」
「こんな自動車にみんなでのって、タンバ国の町を抜けて、草原に向かいます。」
「おや、やけに奇妙なサボテンの鉢植えが多いねぇ。」
アラン「あれば、水分作成器です。タンバ国は、ほとんど雨が降らないので、すこしでも、空気中から水分を取り出して蓄える装置です。ハル君のアイデアを、私が、タンバ国に報告したら、それは、素晴らしいアイデアだといって、国中の設置され、いまでは、世界の砂漠にもたくさん置かれるようになりました。」
「アラン、お前さんも役に立つことがあるんだね。」
大草原の中を、まるでカモシカのように走っていくのが、映し出された。はじめ、カメラは、その姿を遠目に映していたが、その内、カメラが、がたがたを走り出し、画面が大揺れになって、見ているおばあちゃんとおじいちゃんが悲鳴をあげた。
「目が回る、止めてくれ、死んでしまうよ。」
ハル君は、スローモーションにして、カメラの揺れ防止機能で補正して、青空を背景したアランの顔がアップされた。大分走ったはすなのに、息がきれることなく、呼吸などしていないような冷静さで、風の中を走り抜けていた。
おばあちゃん「やっはり、アランはかっこがいいね。おじいさんとは大違いだ。」
おじいちゃん「ワシだって、まだまだ、走れるぞ。」
おばあちゃん「そういうことを言ったんじゃないだよ。」
夕日が、草原を照らし出し、キャンピングカーの周辺で、夕食の準備がはじまった。
夕日に照らされて、キリン達が走り抜けて行くのが見えた。像たちも、歩いていた。
焚き火の光以外なにも暗闇のなか、満点の星空が、スクリーンに照らし出された。同時に、部屋の照明も落とされ、星のきらめきが、スクリーンに点滅していた。
「速度を早めます」というハル君の声にしたがって、星々が、ゆっくりと天空を回転しはじめた。まるで、
雲一つない夜空の中を、星々が、宇宙の果てから果てまで、ゆっくりと回転していた。東の空に、雲が見え始めたころ、明るくなって、太陽の光が差し込んでくると、部屋の照明も明るくなった。
スクリーンには、朝日にむかって並んで立つ、工藤博士、お母さん、オサム君、アラン、そして、少年ロボットの後ろ姿が、映し出されていた。
オサム君が、「こんどはすごいよ。」
遠目に、ライオンを見つけて、止まるキャンピングカーの内部。
オサム君が、ハル君に、あのライオンを間近で撮ってきてという声にアランが反応して、自動車型ハル君を車から草原におろすと、狩りをする虎のような静けさで、ライオンの背後に近づき、ライオンのシッポがスクリーン一杯に左右にゆらゆら揺れる映像が映し出された。
オサム君が「ほら、ライオンのシッポ。」といった。
おばあちゃんもおじいさんも、「おやまあ」といって、大笑いをして。
どうも、ライオンのシッポが、自分の顔の前で揺れたので、自分の顔をライオンのシッポが撫でたようなサ錯覚が襲ったのだ。
「次は、キリン」とオサム君が言いかけたのを、お母さんが、「そろそろ終わりにして、お茶でも飲みましょう」と、言って、報告会が終わりになった。すでに、2時間30分が経過していた。たしかに、たいぶ遅い時間になっていた。
ハル君が、プロジェクターを停止しながら、「実は、キリンの撮影は、気づかれまして、失敗しました。」と、注釈を入れた。
工藤博士やオサム君やアランにとって、少年ロボットの怪我は、確かに、大きな事件に違いなかったが、お母さんには、とても、大きな衝撃を与えたようだった。
アランに抱きかかえられた、少年ロボットを、手元にあった救急箱から、包帯等を取り出して、有らん限りの手当をしたのだった。いつも、冷静なお母さんには、似合わない、慌てぶりだった。
アランや工藤博士が、タロウは、ロボットだから、大丈夫。ちゃんと直るからといったのを、お母さんは、「そんなことは、私だって解っています。」といいながら、手を休めなかった。
お母さんは、あのとき、一度も合ったことも無い、タロウのお母さんを感じたのだ。そして、たぶん、一生合うこともない、タロウのお母さんの思いが、聞こえたのだった。
誰にも、証明する方法はないのだが、あのとき、タロウのお母さんは、国防大臣の家の台所で、タロウの身におきた事故の衝撃波が、タロウのお母さんが感じ取ったのを、なぜか、お母さんは、感じたのだ。タロウのお母さんが、一瞬、「あ!」と叫び声をあげて、手にもっていたコップを落としたのを、なぜか、知っているような気がした。なぜ、そんなことを知っているのだろうか?
それは、単なるお母さんの想像なのかもしれなかったが、リアルなイメージが残った。そして、タロウのお母さんという人が、どんな人なのか、よく知っているような気がしたのだ。