ハイッテイル社の動物型ロボットとノンキヤのムーミン型ロボットの対話
フランスの人工知能研究所で。
フランスの若き人工知能研究学者のミシェルは、だれも、応募の無かったタンバ国の国際ロボット博覧会に参加申し込みをすると、研究所が旅費を出すからいってこい、ということになってしまった。そのころ、彼は、恋人を別れたばかりで、すこし、落ち込んでいたので、同僚が、気分転換になるかもしれないと、応募を勧めてくれた。アフリカのど真ん中のだれも聞いたこともないタンバ国の国際ロボット博覧会に参加したいという人もなく、ミシェルが元気になればといって、みんなが、応援してくれることになった。
タンバ国は、砂漠と草原の国で、観光するようなものはなにもない国であったが、発泡スチロールのホテルは、タンバ国の暑さをしのぐには、ちょうどよかった。恋人を別れてしまったので、一人でくるのは、すこし気が重かった。いくら、人工知能の研究者だからといって、こんなへんぴな国のロボット博覧会が面白い訳がない。食事も豆料理と肉料理が中心で、あまり、おいしそうに見えなかった。タンバ国で、フランス料理を期待するのは、間違っている。せいぜい、フレンチポテトに出会うのが、精一杯だ。ここは、パリじゃない。
博覧会会場を散策していると、政治家秘書ロボットのトークブースから、大きな笑い声が聞こえてきたので、覗いてみると、タンバ国の美人ロボットのシャロンとサユリとマリーのやりとりが目に飛び込んできた。
彼女らが、何をしゃべっているのか、ほとんど気にならなかったが、シャロンの姿に釘付けになってしまった。シャロンは、自分の知っている誰か、もしくは、自分が探している何かに似ている。別れた恋人と全然タイプがちがうのだが、なにかに似ている。
それが、なんのか、解らなかった。ミシェルは、混乱した。なにか、ハンマーで、殴られたような衝撃が、走り抜けた。なんだろう。なんだろう。この衝撃は。
彼は、たたずんでいた。
美人政治家秘書ロボットたちのトークがおわり、1年間の無料貸出の申し込みも終わってしまっても、ミシェルはぼんやりしていた。結局、彼は、無料貸出申し込みすら、できなかった。
みんなが、会場からどんどん出て行き、まばらな人影になっても、ミシェルは、動けずいた。貧血を起こしたような状態で動けないのだ。
それをみつけたアランが、声をかけた。「大丈夫ですか?」
ミシェルは、ゆっくりと、アランを見上げ、「大丈夫だが、すこし、休ませてほしい」といった。
アランが、水とクッキーをもってきて、ミシェルに食べさせると、ようやく、落ち着きを取り戻した。
アランは、ミシェルを会場から、連れ出して、他の展示ブースをゆっくりと回った。政治家秘書ロボットは手に入れなかったけど、犬型ロボットやムーミンロボットが、無料で配っているから、貰えるよといった。
アランに言われるままに、ハイッテイル社の犬型ロボットとノンキヤ社のムーミン型ロボットをもらって、発砲スチロールのホテルに戻って、ハンバーガーにかじり付いた。
まだ、シャロンの残像が頭の中を駆け抜けていた。タンバ国のロハハ大統領の政治家秘書ロボットなので、気楽に近づくこともできないし、誘拐することもできない。見かけは人間と同じような大きさだが、重さは、人間の数倍はあるので、抱きかかえて、逃げることはできない。
それに、ロボットには、安全装置が組み込まれているので、誘拐をした時点で、すべてはロックされるに違いない。
タンバセレクタ社のホームページをみると、ロボットの外見は、オーダーメイドで受付けるが、すでに、作成されたロボットの混同、すり替えを防止するために、同形の外見は、作成できないという書いてある。いままで、作成したロボットの外見と、顔認識技術で、15%以上の違いが生じるように、調整されると書いてあった。つまり、シャロンと同じロボットは、出来ないようになっているわけだ。
まだ、若いミシェルには、オーダーメイドするほどの金もないし、もし、自分がシャロンのようなロボットに恋をしてしまったら、自分の人生は、メチャクチャになってしまうと解っていた。そこは、人工知能の研究者としてもプライドが、それを、警告していた。
しかし、なんだったんだろう。あのシャロンから受けた衝撃は。
冷静に考えてみれば、シャロンは、人工的に作られたロボットなのだ。シャロンのモデルになった人間がとこかにいるに違いなかった。それを探す必要がありそうだった。
そこに、なにか、自分の人生の秘密があるに違いなかった。それは、自分がいままで意識したことも無い「なんか」だったが、それが、何かかは、まったく見当がつかなかった。
そこまで、考えて、ハンバーガーをかぶりつき、コーヒーを飲んだ。
すると、発砲スチロールのホテル部屋の片隅で、小さな声が聞こえた。なにか、話し声のようだった。
声のするほうに、静かに近づいていくと、先ほど貰った、犬型ロボットとムーミンロボットが、勝手に会話を初めていた。それは、人間が知覚するのは、不可能なほど小さな声であったが、偶然、お椀型の発泡スチロールが、音声の拡大装置の役目を果たして、偶然、声を聞くことになったのだ。
ミシェルは、偶然、ハイッテイル社の陰謀とノンキヤ社の陰謀を知ることになった。
人間にとって、便利になるということは、それだけ、人間の自由や権利、知性をそれらの機械や会社に奪い取られているのだ。それは陰謀とは言えないかもしれない。彼らが手に入れているのは、単なるビックデータにすぎない。そのデータの一つ一つには、なんの意味もないデータにすぎないが、それが、数億、数十億、数兆、数十兆個という数になったとき、なにかが、起るに違いなかった。
人間を取りまく、すべての電子機器から収集される意味のない一つ一つのデータが、数十億個、数十兆個ああつまれば、どんでもないことが可能になる。
ミッシェル自身もその研究をしている。だから、日常、便利という名で、ばらまかれた電子機器が、どのような役割が隠されているのは、直感で解ったのだった。