預言者ノーランが語ったルル族の神話
ルル族の伝統文化を記録する作業が続けられた。
ルル族の最長老にして、予言者とよばれるノーランが、中心になった。ノーランの年齢は、だれも知らない。ノーラン自身も、知らない。誕生日と記録するという概念も、年を数えるという習慣も無かった。しかし、彼の幼い頃の記憶では、ルルンバ山の大噴火を記憶しているという。しかし、ルルンバ山は、現在は、ほとんど活動らしきものをしていない。山頂にわずかな噴気孔があるいていどで、ここ百年以上、噴火の記録がない。すると、ノーランの年齢は、いったい何歳なのだろうか。ルルンバ山の噴火の記録をたどると、120年前に小規模な噴火が記録されるが、ノーランの記憶とは違うようだ。すると、180年前、それも、小規模のようだ。250年前には、かなりの大規模な噴火が地質学的に算出される。しかし、ノーランが250歳以上の年齢があるとは思えなかった。なにか、記憶の混乱があるのだろうか?
すると、ノーランは、奇妙なことも語りだした。自分の生まれた場所は、ルルンバ山の麓のここではないといいだした。
調査官「生まれたのは、どこ?」
ノーラン「しらない」
調査官「いつから、この村にすんでいるの?」
ノーラン「小さい時から」
調査官「小さいころ どんなことを覚えているの?」
ノーラン「ルルンバ山の大噴火、空からみた。噴煙がのぼる遥か上から、それをみた。村人のほとんどは、死んだ。僕と数人の幼子だけが、空を飛ぶ船に救われて、空高くとんだ。」
調査官「いっしょにいた子供達は、どうした?」
ノーラン「自分と違う村に行った。」
調査官「彼のプロフィールになんて書けばいいんだ? 名前はノーラン、両親不明、出身地不明、年齢不明、結婚歴無し、子供なし、えーと、小さいころ見知らぬ空飛ぶ こんなことは書けない。調査官としての私の信頼は失われる。その他も不明。なにもかも不明。」
調査官「こいつの話を聞く価値があるか?まあ、年寄りの昔話して、記録するか」
では、撮影技師、録音技師 準備をしてくれ
調査官「ノーラン様、タンバ国の国家事業として、国家歴史文化庁の仕事として、ルル族の伝統文化を記録することを開始します。それでは、ノーラン様。ルル族の歴史文化について、語ってください。ビデオと音声記録をしてながく、タンバ国の伝統文化として保存します。あとで、編集も出来ますので、気楽にお話ください。」
ノーラン「では、はじめるぞ。まず」と、いって、葉のついた木の枝を左右にふり、お辞儀をして、いつも愛用している筒のようになった木を、木の枝で叩きながら、リズムを取り出すと、調査官の知らない言葉を1、2分発した。それは、言葉でないのかもしれなかった。
それから、目も前にたき火に、枝をくべながら、ルル族の歴史を語りだした。それは、歌のようでもあり、脇の筒を叩きながら、そして、たき火に枝をくべながら、2時間を一挙に語りだした。
一区切りついたような気配を感じた調査官が、少し、休憩しましょうといった。
そして、その間、撮影技師、録音技師が、次の撮影の準備をした。
調査官「いまの話で、全体のどのくらいまで、来たのでしょうか。」
ノーラン「そうだな、まだまだ、ほんの最初だ。この調子で、1週間を続くぞ」
調査官「一週間ですか。大丈夫です。ちゃんと準備をします。」
調査官「撮影技師、録音技師、みんな。あと1週間続くぞ。替わり要員、機材など、たっぷり用意しておけ。必要なものは、なんでも用意しろ。これは、最初にして、最後の機会かもしれないぞ。万全をきせ。」
さすがに国家事業というだけのことがあって、十分な資金をもっているようだ。
調査官は、打ち上げパーティーの予算がなくなるかもしれないと思ったが、まずは、やれるだけ。やるしかない。
ノーランが、最初に語ったことは、この宇宙の誕生、そして、地球の誕生だったのだ。いったい、かれは宇宙136億年、地球45億年の歴史をかたろうというのだろうか?キリスト教の聖書だって、日本の古事記でも、ものごとの最初を語るのだが、それは、ほんの数行、数頁におわる部分だが、ノーランはそれを2時間もかけて、よどみなく語ったのだ。そして、次の2時間で、生命の誕生と進化を語りだした。
約8時間を賭て、ようやく人類の登場の準備を神々がし始めたというところで、翌日に続きが始まることになった。
1日目の終わりに、簡単にその概要を伝統文化庁に報告すると、文化庁長官が、興味をしめして、タンバ国もマスコミなどにも紹介すると言い出した。
夜があけると、広場には、200名の人たちが、ノーランの話を聞こうと集まった。
ノーランの話は、宇宙、地球の創世の話には、人は登場していなかったが、人類の登場は始まると、身振り、手振り、声の質まで、演じ分け、登場人物になりきっての一人演劇のようになってきた。しかし、彼はたき火の前に座ったままの話だったので、それは、座ったままの演劇のようでもあった。
ノーランはここでも、驚くべきことを語った。ルル族の祖先は、宇宙彼方の星から、宇宙船にのって、やってきたという。その数、500人ほど。ルル族は、非常に小規模のグループだった、地球の各地に、いろいろな部族、民族が、いろいろやってきたという。それで、この星にはたくさんの人種、言語があるという。
しかし、ノーランは、小さいころから、ルルンバ山の麓に住んでおり、ほとんど、他民族にであうこともヨーロッパやアジアについて知ることはなかったはずだ。ルル族が、それらの人たちや、国々を知るようになったのは、ここ数年の国家プロジェクトの世界観光旅行にいったからではないか。
しかし、ノーランは、若者達の話を聞いて、今の話を即興で、作り上げたということは、不可能に思われた。
考えてみれば、ノーランはいったい、だれから、宇宙の歴史、地球の歴史、生命の秘密、神々について習ったのか?ルル族には、伝統文化を伝えるための文字は存在しない。例え、ルル族に文字があったとしても、現在天文学や物理学、生物学を伝えるようなものが、残せるはずはなかった。
このノーランの膨大の知識は、この小さなルル族の伝統文化のなかに存在していたとは、思えない状況になってきた。
彼のこの知識や記憶は、まったくちがう次元からきているにちがいなかった。