外道
「本来、鴻池有華を疑ったときから君という可能性を見いだすべきだった。彼女が『主』の協力者なら、君の死も見せかけだと予想できた
それだけじゃない、今思うと彼女しかなしえないことがあった。彼女が死んだと見せかけた直後の電話。何であれをもっと深く考えなかったのか……当たり前だけど、電話番号を知らないと電話はかけれない。私の電話番号を知ってる人は多い、事件関係者だけで春川、仁志、鴻池、父上など目白押しだ。けどあの時鴻池は泣き叫ぶふりをしていたし、春川はそれをおさえていた。
なら仁志かとも想像したが、あり得ない。二回目の連絡、つまり私が放送を使った時、犯人は最初メールを使ってきた。無視してもまたメールだった。極力電話を使いたくなかったんだろうと推測できる。なのに、どうして最初だけ積極的に電話をかけてきたのか。
それは私が苦しんでる姿をどこかで見ながら、楽しんでいたんだろうということと、電話番号しか知らなかったというのがある。
私はあの日、茜ちゃんの部屋を立ち去る前に連絡先だけ書いた紙を残していった。だから彼女は電話するしかなかったんだ。そして後になって共犯者の鴻池からアドレスを得た。
あの時、事件関係者で電話をかけれたのは彼女だけだった。
「そうかもね。けどいい演技だったでしょ。有華、演技だけは上手かったから。それ以外はダメダメだけどね」
思い返してみると私は今まで一度も生きた安藤茜には会っていなかった。確かに扉越しに最初に会話したが、顔も見ていなかった。そして彼女が殺されたと思った場面、つまりあのマンションでの火事。あのときでさえ私は燃えている人間は見たものの、あれが彼女だとは確認していない。
それでも私があれを彼女だと思ったのはほかでもない、極力者である鴻池有華があの燃えている人間を見て、親友の名前を叫び続けたからだ。そして現場の状況的に彼女しかあり得ないと。
けど実際問題、焼殺で死体の顔は確認出来なかったし、歯形だって転落のせいで原型を留めていなかった。だから確認作業というものが出来ず、状況証拠だけであれが安藤茜だと決めてかかった。
初歩的な呪縛だ。
「マンションの防犯カメラに不審な人物が映っていなかったのもうなずける。君があの死体、つまり香月麻由美を部屋に連れ込んだのはあの日の二ヶ月前……流石に警察はそこまでチェックしてない。そして火事になってしまえば蜘蛛の子を散らす様にマンションから人が出てくる。どさくさに紛れて君だけ脱出することは十分に可能だ。入ってきた人がいないんだから、出ていく人間もいないだろうと考えるしね」
「なかなかいい手だったと思うわ。けど相当大変だったのよ」
彼女が死んでいない以上、あの死体は彼女以外の誰かだ。誰でもいいというわけじゃない。出来るだけ彼女と年齢が近くて、そして女だということが最低条件。その条件に一致して現在姿が見えない事件関係者は、香月麻由美だけだ。私はもうあのときに彼女を見つけていたんだ。
安藤茜が引きこもってるという部屋に私が行った時……あの時、部屋の中の少女は一人じゃなかったんだ。二人いた。今にも殺されそうになっていた、二ヶ月も監禁された状況の香月麻由美がいた。そうだ、あのとき私は物音を聞いていたじゃないか。あれはもしかして、助けを求めた彼女が動いた音だったんじゃないか。
今更気がついても遅すぎるけど。
「二ヶ月間、一つしか違わない少女を監禁するのは確かに難しかっただろうね」
「最初はね、隠れ家を提供してやるって誘って、あいつもだまされてくれてたんだけど、一週間もすると出せってうるさくなったから、色々と痛めつけて黙らせたわ」
彼女はそのときのことを思いだして、またにんわりと笑う。
「最後の最後、動けなくした後に部屋を燃やして出ていこうとしたらさ、あいつ叫んでたわよ。お姉ちゃんって」
姉の復讐を誓った少女。その方法は間違いしかなかったが、彼女は確かに自分の正義感に基づいて生きたはずだ。それは法を犯していても、まっすぐなものだっただろう。それを、こいつらは踏みにじった。
「あいつだって人殺しだもん、殺されたって文句はなしよ」
「君らが殺すようにし向けたんだろ」
「違うわよ、私はそんなことしてない。最初の計画を立てたのは有華と学園長よ。あの二人があいつを利用しようと画策してたの。私はそれに途中から乱入した。けど少なくとも学園長には好都合だったでしょうね。ただで殺してくれる奴がいたんだから」
なるほど、だいぶ分かった。恐らく彼女のいうとおりなんだろう。資格を奪われたと報告した有華ちゃんは『主』に手紙をあてたはずだ。そしてそれを受けとった婆さんも状況を打破するため、そんな作戦を思い描いた。ただ当初は連続殺人なんて考えていなかったんだろう。ただ、黒沢明子を排除する。それだけだ。
しかし手紙のやりとりはげた箱だ。安藤茜はおそらく鴻池有華が"cube"であることに気づいていた。ただ当初は気にもしてなかったんだろうが、どうも親友の様子がおかしいことに気がついた。そして彼女がげた箱に手紙を入れるのを確認して、それを勝手に読んだ。そして状況を察した彼女は、そのままどこかに隠れて『主』が手紙を取りにくるのを待った。日頃ならちゃんと最新の注意を払っていんたであろう婆さんも、状況が状況だけにせっぱ詰まっていた。そしてその姿を目撃される。
そして『主』であることがばれた婆さんに、この快楽殺人者は提案したんだろう。なんなら私が殺してやる、と。
「最初は学園長、目を丸くしてたわ。けどここで私の提案を断ったらどうなるかくらいは分かったから反対も出来なかったみたい」
もしも断れば彼女は事実を公にしただろう。できればそういう結末が、今思うと最善だったのかもしれない。
「しかしここの学園長は優秀ね。すぐに別のアイディアが浮かんだみたい。私はそれにのった。それならもっと殺せるからね」
それが今回の事件だったわけだ。
「おかしいかったはずさ。黒沢明子の死から次の犯行まで二ヶ月もあった。あれは計画を練る時間だったんだね。そして……」
「そう、あなたを事件に介入させるための時間だったわけ」
香月麻由美を疑っていたとき、どうしてこの二ヶ月の空白が気にならなかったんだろう。復讐なら一刻も早くしたいはずだ。二ヶ月も間をあけるなんて真似はしないというより、出来なかったはずなんだ。
「さて……これでお話は終わりかしらね。事件の真相は以上よ。私たち三人が、目的は違ったけど、それぞれ仕事をこなしながらここの生徒を殺していった」
彼女は彼女を避けて壁に張り付くように怯えている生徒たちを見ると、舌で唇をぬらした。
「本当はもっと殺してやりたかったけど」
誰かが小さく悲鳴をあげた。それにまた彼女が笑う。
「にしても警察もバカよね。いくら二ヶ月の間に少し顔つきを変えるようにはしたし、髪も伸ばしたけど、それでも事件の重要な人物が学校内にいれば気づくと思うわ。ちゃんと捜査しないとダメね。流石に香月をあなたたちが疑ったときは逃げ出したけど、基本的にはここに隠れてたのよ。さっき探偵さんが言ったように、一時期なら可能だったわ」
須藤を見ると未だに固まっていた。安藤茜の登場が彼の予想の範疇を遙かに越えていたんだろう。しばらくはオーバーヒートしてフリーズ状態になったパソコンみたいに動かないだろうな。
「校内放送のときだってここにいたわ。まあ電話はさっきの用具入れでしたから誰にも見られなかったみたいね」
「よくそこまであの状況で動けたね」
「楽しかったからね、あなたとやりあっていると。血が騒いじゃったわ」
本当に彼女はどこまでゲーム感覚だったんだ。今、この状況でさえ楽しんでいる。逃げられないと分かっているのに、それに恐れることもない。鴻池有華の方がまだマシか。どうせ反省なんて今後一切しないんだろう。
動いたのは父だった。彼女の方へ駆け寄ろうとする。そんな父をきりっと安藤茜がにらみつける。
「お父様、じっとしてもらえるかしら。娘さんの話しは終わったかもしれないけど、私にだって話したいことがあるのよ。大丈夫、じっとしてたら何もしない。それとも今動いて、大切な容疑者を死なせちゃうのかしら」
彼女は首に当てていたナイフをさらに力を込める。すると首から小さな赤い滴が音もなく垂れていく。父は目を見張ったが、本人は平然としていた。
結局、父はその場から動けなくなった。
「それでお話しというのは何かな」
父を見ていた眼差しが私に戻る。
「いや質問なのよ、ねえ探偵さん」
彼女はさっきまで自分の首にあてていたナイフの刃先を、私に向けてくる。その表情にはさっきの笑顔が残っていたが、どこか違う。目が笑っていない。
「どうして、生きてるの?」
次回で解決編終了。
その後のエピローグで最終回となります。




