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真相

 周りの人間が呆気にとられている。そのリアクションは正しい。

「待てよ。事件を捜査すること自体、『主』の計画だっていうのかよ。俺もあんたも、踊らされてたのか……」

 仁志がショックを隠しきれない表情で、問いかけてくる。彼には本当に申し訳ないことにそういうことになる。黙って頷くと、バカ言うなよと首を左右に振った。

「だって捜査されたら『主』は困っただろ」

「そんなことないだろう。メンバーの一人に、協力者を送り込んでいたんだから」

 仁志がはっとして、今は男たちに両手を捕まえられたまま体育館の隅で立っている鴻池有華を見る。彼女は死んだような表情をしたまま、何も言わない。仁志や私が見ていることさえ、気づいてないのかもしれない。

「捜査状況は全て漏れていた。じゃなきゃ、『主』の発言がおかしい」

 たびたび『主』とは電話で話しをした。二回目の電話のとき、電話で『主』は私を嘲笑した。あなたがお休み中に小林陸は死んだと。けど、どうしてそれを知っていたのか。知れるはずない。部屋の中で私が寝ているのを確認するには、当然入室する必要がある。しかしそこまでしたかという疑問は拭いきれない。

 解決する方法は一つ。『主』は最初から私が眠るのを知っていた。そういう計画だった。思い出せばあの時、鴻池有華が私にガムを渡していた。細工していたら、こんな計画は容易だっただろう。

「いやもうどうでもいい。どうしてあんたに捜査をさせなきゃいけないんだよ。そのせいで鴻池は捕まったんだぞ」

「私がここまでするのは計算外。ついでに言うならあの反撃も予想外だっただろうね。けど捜査してもらわないと困ったんだよ。なぜなら『主』は、事後捜査を恐れたから」

 仁志はさらに混乱したようだが、須藤の方は指揮官としてのプライドがあったおかげで、すぐに意味を分かってくれた。

「なるほど。"cube"じゃないとかと、警察に調べられたくなかったのか」

「その通り。もし何もない段階で一人の生徒が急に殺されて、『箱』を握っていたら、警察は当然本当に"cube"だったのか調べただろう。そうされると危ない。けど事後捜査じゃなく、事前捜査があったなら別だ。それも警察じゃなくて、素人ならもっといい」

 しかもただの素人じゃない。事件に参入する意志があり、捜査ができて、なるべく警察に顔のきく素人がいい。そんな人間は日本がいくら広くても限られている。

「小林陸も荻原治も小野夏希も、思えば鴻池が容疑者にしたようなものだったからな……」

 できすぎだと感じるわけだ。当たり前、最初からできあがったストーリーだった。全ては『主』のシナリオ通りだったわけだ。

「さて私の役割の話しは以上だ。話しを戻そうか、ええと、どこまで話したっけ。ああ、"cube"が実在しないと困るという話しだったね」

「実在しないなんて推理をされたら困るんだろ。よく分からないけど」

「さっきから私が繰り広げている推理は、全てある基礎に基づいている。"cube"が生きていること、"cube"の身代わりが殺されたこと。けどもし、私がこんな馬鹿げた発想をしなければ"cube"は一体どうなったんだろうか。ちょっと考えてみてくれないかい」

 周りにいた生徒たちを見渡しながら、そう問いかけてみる。彼らは眉を曲げながらも何かを考え始めた。中にはお互いの答えを確認しあう子たちもいた。私はその中の一組に駆け寄っていく。女子生徒の二名。彼女らにマイクを向けた。

「恥ずかしがらずに、素直に答えてくれるかな。どうなったんだろか」

 彼女たちはどちらが言うかを小声で言い合った後、一人が答えてくれることになった。

「私たち、さっきまで話してたんです。これで"cube"はなくなっちゃったんだねって」

 私は彼女からマイクをはなして、自分の口元へ戻した。

「そう、大正解だ。ありがとね」

 彼女たちだけではないだろう。そう考えた生徒は多いはずだ。"cube"は全員死んだ。なら組織がなくなるのは当然。

「さて、これで理解してもらえないかな」

 正直、この先のことはあまり口にしたくない。口にするのさえ嫌だ。それくらいむごい真実だから。

 しかし期待とは裏腹に、誰も理解してくれていないようだった。思わず嘆きたくなったが、仕方ないかとも思った。普通はこんなこと思いつかない。いや、思いついちゃいけない。こんなことを思いつくのは、ただそれだけで狂っている。

 そうだから私だって狂っているかもしれない。

「分からないみたいだね」

「だから何度も言わせるな。もっと分かりやすく説明しろ」

「"cube"は秘密結社だ。けど、ある矛盾を抱えている。これは私じゃなく、小野君が気づいたことだけどね」

 あの時、荻原治に邪険にされながらもベンチで三人ではなしていた時のことを思い出す。彼女の"cube"についての意見。彼女が見抜いた、一つの矛盾。

「秘密結社といいながらあの組織の存在は公だ。こんなの秘密でもなんでもない。そう思わないかい」

「ふん、確かにそう――」

 同意しかけて須藤の表情が固まった。そしてそのまま、私に目を向ける。

「まさか……」

 そして彼の変化で父や仁志も気がついた。そんな彼らを見ながら、私はマイクに向かって真実を吐き出した。

「そうだ。"cube"は秘密じゃない。だから秘密にしないといけない。けど一度流れた噂を消すことは困難だ、そんなの『主』が一番知っている。だから、力ずくで秘密にすることにした。"cube"にみせかけた生徒を六人殺す」

 六人が死ねば"cube"は全員死に、全滅したんだということになる。これだけの大事件になればもはや何十年経とうと生徒の間ではそういう認識になるだろう。

けど影ながら『主』も"cube"も生存し続ければ……。

 悔しくて言葉が詰まったが、それでもこのふざけた結論をはき出した。

「これで"cube"は、秘密へ還る」


 衝撃のせいで沈黙になってしまった人々を見渡して、私は付け加えた。

「今回の殺人の目的はそれだ。"cube"の秘密への帰還。ただただ、それだけだ」

 それだけのために……たったそれだけのために彼らは死んだ。

「これが、真相だよ」

 あまりに残酷で、惨たらしく、凄惨な真実。

 唇をかみしめる。血が出るんじゃないかと思うくらい強く。悔しくてたまらない。それだけのために多くの若い生命が消えた。消された。そしてそれを止められなかっただけでなく、その手伝いまでさせられた。全てが終わってからようやく真相に気づけたが、もう遅い。遅すぎる。これでは誰も救われない。

「これが『主』の目的だ。そしてそんな『主』はこの中にいるよ」

 怒りを抑えながら冷静を装って演説を続ける。続けないといけない。そして『主』をつるし上げてやらないと、私の気が済まない。そしてそれだけが私の出来る唯一の弔いだ。

「主犯の『主』は鴻池に多くの指示を出した。そしてそこから犯人は推測できる。小林陸はどういう選考で選ばれたか分からないが、荻原治と小野夏希は確実に意図的、私の作ったデータを元にした選定したはずだ」

 鴻池有華が私に荻原治が怪しいと報告したのは、私が反撃のデータを元に荻原治や小野夏希を疑いだしてからすぐのことだ。情報がまだ完全に回りきっていなかった。

「なら犯人は限られてくる。まず一般の生徒はありえない。そうなる、捜査に加わっていた人間だね。私と仁志、そして警察の関係者――」

 最後の一言に生徒たちが一気に須藤へ視線を投げかけ、須藤は呆けて、父はじっと動かないでただ小さく肩だけ震わせた。

「お前いったい何をふざけている」

「ふざけてなんかいない。捜査状況知る者が犯人なら事件が長引いた理由も分かる。警察が疑われるのは、ごく当然だよ」

 須藤が怒りを露わにして拳を握りしめ、震わせていた。

「き、貴様は」

「落ち着きなよ。私は可能性があると言っただけで、そうだとは言ってない。警察は『主』になりえない。少なくとも『主』はこの学校の関係者のはずだ。事件が起きて初めて学校へ入れた警察は『主』になりえない。なら残るは、私と仁志」

 私が疑いを退けたから一瞬ほっとした表情を見せた須藤だったが、最後の一言ですぐさま表情を変えた。私の無実は警察が証明している。まあ偽りではあるが、証拠がないのは事実。疑わしきは罰せず。ならば答えは、一つだけになる。

 全員の視線が一点に集まった。

「君なのか……」

 須藤がおそるおそる質問しているのに、仁志は私を見つめたまま動かない。

「……俺をどうしたいんだ」

「消去法でいけば君が残る。ただ、まだ消去は続けられるよ、みなさん気が早すぎる。仁志は『主』じゃない。鴻池有華と同じアリバイがある。そして、仁志は放送の時私の隣にいた。そして計画も知っていた。電話をかけられない。たとえトリックを使ったとしても、焦る必要がなくなる。そして仁志なら、何をしでかすか分からない私を介入させるとは思えない」

「そうだな、あんたの破天荒ぶりは俺が一番知っている」

 少しばかり場に似つかわしくない会話をしてしまった。ただ今の消去法の連鎖がないと、今後の話しで『主』を指名できない。

「警察でも私でも仁志でもなく、捜査状況を知れた人間。いや全部の捜査状況を知らなくていい。私が小野夏希か荻原治にたどり着くのを見届けられるなら。そしてそのあとに共犯者使って、私に二人をマークさせる様にすればいいんだ」

「お前は捜査状況をほかの人間に漏らしたのか」

 須藤が眉をひそめるが、私は否定する。そんなことはしてない。

「漏らしてないけど、協力はしてもらった。私が荻原治に目を付けたのは放送の時に携帯を使っていた写真があったからだ。そして写真を見てそれが荻原だと断定した人物がいる」

 そこで一人の男性に視線を向けた。険しい顔つきで立ったままの海野先生と視線がぶつかった。あの時、先生が荻原治を特定した。先生ならあの時だけでも捜査状況を知り得た。

「俺が犯人だと言うのか」

 先生は反抗するわけでも、抵抗するわけでもなくただ必要な質問だけしてくる。こんな時でさえ先生らしい。私はその質問に首を振った、もちろん左右に。

「いいや先生じゃない。あの時確かに私は先生に協力を要請したけど、先生がいなかったら他の人に頼んでいたよ。先生の捜査協力は偶然だ、海野先生じゃなきゃいけないってことはなかったんだから。ご存じの通り『主』は計画性が高い。そんな偶然を頼るなんてありえない」

 そもそも小林陸の死に出くわしたときのあの先生の剥き出しの感情は演技では無理だ。私も先生が犯人だなんて思いたくはない。これほど生徒思いも先生が生徒を次から次へと殺していくわけがない。

 そう、だから残る答えは一つ。

「海野先生は偶然だけど、一人必然的な人がいたよね。あの日の少し前に、さも当然のように私に捜査協力を申し出てきて、それで私から情報を得られるように仕向けた人物がね」

 事情を知る海野先生だけが硬い表情をうつむかせた。あの場、荻原治たちを容疑者に絞り込んだあの日の職員室にいたのは、先生と私、そして残る一人。

 私は指先にいろいろな思いを乗せた指先で、ゆっくりとその人物を射ぬいた。

 体育館にいた全員の視線が私の指先を追い、その答えを見つめる。

「だから、あなたが『主』だ――婆さん」

 壇上の最高責任者に、私は答えを絞った。

これがやりたかったといっても過言ではないです(2回目)。

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