表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/74

注意

荻原から情報を得ることに成功する。

「話してても面白くないんだよ。自慢話が多くてさ、自分がいかにすごいかってことばっかり。正直うざかった。自分よりすごいって思えちゃう奴らは、何かとケチつけて否定してた」

 人間が自分を表すとき、大きく分けて二つの方法がある。ひたすら自己アピールをするか、周りを否定して自分という形を浮き彫りにさすか。私なんかは前者をとる。そうした方が私としてはやりやすい。というのも、私は自分という人間にかなりの自信をもっているから。

 そして後者をとる人間は、それができない。自分に自信が持てない。あるいは、持ちすぎている。だから周りより自分がいかに優れているかを計ろうとして、常に周りの欠点だけを探す。良い点は、それくらい私にだってできるという根拠のない自信で片付ける。 黒沢明子はどうやら後者だったようだ。

「彼女は"cube"に詳しかったんだね」

「詳しかったな。けど、あの人はどこか"cube"に批判的だったぜ。夏希さんみたいに論理をもって無意味だって言うわけじゃなくて、あんなのより私がすごいってとにかくそれだけだったけど」

「なるほどね。かなりの自信家だったわけだ。プライドも相当高かったみたいだね。君は、そういうのが嫌だったんだね」

 ここで彼が目を尖らせて、私を睨んでくる。何か今の発言に不適切なところはあっただろうか。

「あんたさ、恋人はいるのかよ」

「胸ポケットにいつもいるよ。もう一人は冷蔵庫にいるね、キンキンに冷えて」

 私にとって恋人はニコチンとアルコール。彼はそれを分かってくれないらしく、話しにならねぇと言ってきた。人の純愛を何だと思っているのか。

「もういい。あの人さ、夏希さんについてもコメントしたんだよ。ひどかった。性格が悪いとか、成績がいいのはカンニングしてるからだとか。それを聞かせて俺に愛想をつかそうとしたんだろうけど。そんなこと言われたら、あんたならどう思うよ」

 愚問だ。確実に発言した人物を毛嫌いする。

「そういうこともあってすぐ別れたんだよ。それで……」

 その先は言わなくても分かっていた。その後に事件が起きたが、彼女の知り合いだと名乗り出ることはできなかった。そうしてしまうと小野夏希に浮気がばれてしまうから。彼がずっと彼女との関係を否定していたのは、ただ恋人に嫌われたくなかっただけ。

「なるほどね。ありがとう、参考になったよ」

 多分、これ以上聞けることはないだろう。そして今の供述に嘘はない。彼は全て諦めて話してくれた。

「……あんたのせいで無茶苦茶だよ」

 恨みがましい声を絞り出してくるので、嫌味っぽく薄く笑ってやる。

「浮気をした君が悪いと思うけど」

 世の中には男性諸君に振り回されている女性が多くいる。そういう彼女たちの代わりに答えてやった。ただ私は父や兄や仁志といった男性を振り回している部類なので、あまり偉そうには言えない。

「夏希さん昨日の帰り道、口数少なかったんだよ」

 彼女は元々口数が多い方ではないと聞いている。そんな彼女の口数が減るっていうのは、ほとんど会話がなかったんじゃないか。それとも恋人の前では饒舌になるのかな。

「ああいうタイプは怒らすと根に持つよ。覚悟した方がいいね」

 自分でもよくないなと思うが自然と笑ってしまう。あの感情を出さないタイプの彼女が、怒るときはどう怒るのだろうか。恋人の前だけ頬を膨らませたりするんだろうか。その姿は想像するだけでかわいらしく、微笑ましい。

「笑うなよ。こっちはふられるかもしれないんだぞ」

「自業自得さ。そうやって不安がるといい」

 彼は振られるかもと恐れているが、多分それはないと思う。もしそういう処分を彼女が下すなら、昨日のうちに怒りにまかせてやっているはずだ。そうしなかったのは、また彼女の聡明さの表れ。私がこうやって彼を追い詰めると分かっていたんだろう。そしてそれによって浮気が発覚していることに彼が気づくことも。

 そうなったら、彼が今みたいになるのは予想出来たはずだ。彼女が与えた罰はこれだ。今彼が陥っている不安こそ、彼女からの罰。存分に苦しむといい。女性を怒らすと怖いんだということを、身にしみなさい。

「まあ、お叱りは後で受けといてくれ。言っておくけど恨まないでくれよ」

 原付にまたがって、エンジンをかけ始めると異様に大きな音をたてた。このポンコツはこうしてようやく始動できる。買い換えを真剣に考えないといけないが、財政難という問題が目の前にあるのでどうしようもない。政治家たちがいかに苦しいか私には分かる。

「それじゃあ、先に行かせてもらうよ。朝から悪かったね」

 彼が今日という日をどれだけ重く過ごすかは知らないが、とりあえずがんばりなさい。

「おい、ちょっとあんた」

 発進しようとする私に声をかけて止まらせる。スタートダッシュを決められなかったので、ちょっともどかしい。

「何かな」

「ヘルメットしろよ。原付でもこけたらえらいことになるぜ」

 確かに私はヘルメットをしていない。それは父をはじめ、色んな方から注意を受けている。しない理由は頭が妙に重くなるが嫌だから。そしてもう一つ、これは完全に私の趣向の問題だが、私はスピードを出しているとき髪がなびく感覚が好きであれがなくなるのが、非常に怖い。完全に交通違反なのは分かっているが、どうもやめられない。

 しかし、そんなことはどうでもよくてまさかそういう注意を彼から受けるとは思わなかった。私が意外そうな視線を送っていたのが照れくさかったのか、彼は視線をそらして注意をした理由を説明してくる。

「知り合いがこの前、ノーヘルで事故ったんだよ。助かったけど、なんか後遺症とかで大変らしいんだ。医者の話だとヘルメットをしてたら、なんとかなったかもしれないんだってよ」

 ヘルメットをするだけで事故での死亡率は大きく変わってくる。仮に生き残れても彼の知り合いのように後遺症で苦しむ。脳へのダメージなので、下半身不随や植物状態になることも少なくない。今までそんなの意識したことなかったが、急に全身に悪寒がはしった。

「……それはいけないね」

「だから、あんたもしとけよ。事故ったら大変だぞ」

「そうだね。今日にでも買いに行くよ」

 エンジンをかけ直すと、またしても歪な音が響く。そんな雑音の中。私は彼にウィンクをした。

「ありがとう」

 彼はそれに返事はしなかったが、ちゃんと聞いていてくれたんだろう。手首を払う様に振って、さっさと行けと急かしてくるのでそれに従って、前に向き直った。

 アクセルを回してスピードをあげていく。空を裂く感じが心地よく、暴走族の気持ちが理解できてしまう。髪が風に煽られて、大げさになびく。この感覚ともお別れと思うと少し寂しかったが、頭の中ではどんなヘルメットを買おうかと迷ってる自分がいた。

この辺もテスト出ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ